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2012/01/10

地球の舳先から vol.220
東北/被災地 定点 vol.7(全10回)

海を見渡し、海から店舗まで、停泊した船以外に何も遮るもののない場所に酒屋「マルケイ」はあった。気楽会のメンバー、鈴木さんが店主をつとめる酒屋は、ビニールの暖簾を残して中は一切なにもなく片付けられていた。店の前には赤いポストが横倒しになり、角は地盤沈下でコンクリートがずれ、震災の大きさをあらためて物語る。

マルケイは、酒屋のほか、船舶仕込といって、マグロ漁船をはじめ3ヶ月、長ければ半年から1年かけてフィジー沖まで行くという長期航海の船のために、タバコや食料などを一括して仕入れて船に積む業務も行っていた。昭和30年代から続く、海の町ならではの商売だ。

店舗内は、震災時の様子が信じられないほど片付ききっていた。
震災後、ボランティアが丸3日をかけて掃除をしてくれたのだという。
「取り壊すにも、1000万くらいかかるから…4月から、補助金の申請はしているのですが。」

すぐ背後の高台に避難所になっているホテル観洋があり、震災時は鈴木さんもそこへ避難した。
津波が去った後、店は瓦礫で埋まっていた。
亡くなった人、不明者も多く、自衛隊が店舗内で瓦礫をよけては捜索活動を続けていた。
流された人が、そこに埋まっている可能性も大いにあったのだ。

捜索活動もとうに終わったはずのつい先日、店舗の裏を片付けていた近所の知人がやってきて、
「骨がある」と鈴木さんに打ち明けたという。
まさか、と思いながらも警察に電話。2人組の警察官はすぐにやってきた。
小太りの警察官のほうが、見るなり「こいつ、とんこつだから」と断言した。
そういえばラーメン屋が近くにあった。
警察官は、万が一ということで入念に別アングルから3枚写真を撮って帰っていったという。
安心した鈴木さんは、胸をなで下ろしついでにラーメン屋に電話をし
「おたくのとんこつ、今、うちで預かってるから!」と言っておいた、という。

今は、店舗の裏に小さなプレハブを建てて、目下新規事業の計画中という。
「なんにもなくなっちゃったので、逆に新しいことを考えるきっかけになったというか。
 今までの事業とは全然違うことを始めようと、色々やってます。」
震災が来なければ、一生、平和に今までの商売を続けていたかもしれない。
不謹慎かもしれないけれど、わくわくしている、と鈴木さんは言った。

選ばなかった未来や選べなかった未来を、現実とおなじまな板の上に並べて比較することはできない。ただ、鈴木さんから感じたのは、怒りや痛みよりも――あるいはそれらを通り越した上で――現状をポジティブに捉えて再生しようとする力だった。
想像を超えるほどに、しなやかに未来を拓こうとする力。

たった半日来ただけで、何がわかるだろう――
そう思いながらやってきたわたしが、不思議なほどにネガティブではなく
だからこの地に、近いうちに帰ってこようと思ったこともまた、事実なのである。

2012/01/10 12:00 | yuu | No Comments