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2011/12/31

1年半ほど前から
歌人としてこちらで短歌コラムを書かせてもらっていますが
あらためて自己紹介的なことから書くと
ぼくは短歌を詠んでる短歌詠みで『未来』という結社に属しており、
毎月『未来』という月刊誌に短歌を投稿しています。
 
そして毎月の投稿とは別に「未来賞」という
結社の名前がそのままタイトルになった
短歌20首を連作(セット)にして応募する
年に1度のコンテストがあります。
 
1首、1首の短歌は今までわりといろんなメディアのいろんな場所に
応募してわりとあちこち採用されてきたことがあるのですが、
連作としてはぼくはこの未来賞にしか歌を出したことがありません。
 
その今年度の未来賞選考結果と受賞作、佳作及び選考記録が載った
『未来』1月号が先日家に届きました。
 
ぼくの応募した短歌連作「僕たちは復讐をしている」は
佳作として選考評とともに十首掲載されていました。
 
2011年度未来賞受賞作は
佐藤理江さん「ぱちぱち」、
山本礼子さん「どのように抱けども」、
堀合昇平さん「stainless」の3作品、
佳作は
大庭れいじさん「おりがみ」、
鈴木かずさん「いのち」、
瀬波麻人「僕たちは復讐をしている」の3作でした。
 
佳作ではありますが詳細な選考評をいただき
1ページの誌面に短歌が掲載されたことを
大変うれしく光栄なことと受けとめ感謝しています。
 
選考評のなかで「挑発的な問題作」
という自分的にはうれしい評価もいただいており、
今後の課題や方向性についての示唆を得るとともに
自分自身の本分を見失わず
賞や評価に左右されない自分の歌を
俺のまま詠んでいこうとあらためて思いました。
    
未来賞は二十首セットによる応募で、
受賞作の3作品は当然ながら二十首全てが掲載され、
佳作については選者さんによって選歌された十首が本に掲載されています。
 
ここでは本には載っていない歌もふくめて
二十首連作フルバージョンとしてアップいたしますのでぜひご一読ください。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
僕たちは復讐をしている
 
 
 
 
かなしみに呑まれないよう神様のいるふりをしてふたりで生きる
 
コンタクトレンズを通して見る世界 夜になったら外して捨てる
 
した後に俺の着ていたシャツを着て眠るお前が寝た後に寝る
 
「なんとなくこっちの道で帰ろうよ(遠目に鳩の死骸が見える)」
 
網膜に何も焼き付かないように裸眼で見るのは俺だけでいい
 
午前二時、救急外来出口にてタクシーを待つ 雨が降ってる
 
ゆっくりと歩いた雨の住宅街 両手は君のためだけにある
 
何度でもタオルケットをかけなおす何度も同じ口づけをする
 
妻の泣く夢を見ている声もなく泣いてる妻が傍らにいる
 
ゼラニウムみたいに赤い(ああこりゃ「赤」だ)右の手首のトリアージタグ
 
日常はタイムマシンだ想起するイデアがすべてを過去にしてゆく
 
赤になったら車よ止まれ僕たちはピースサインを掲げて歩く
 
めざめれば肌着の中に妻がいる何度も俺から生まれればいい
 
ごみの日を二年経ってもおぼえないこの町でずっと生きていくのに
 
漠然とかなしむほどの暇はなく倒れぬように自転車を漕ぐ
 
おだやかに生きる毎日幸せの最小単位で復讐をする
 
おはようとおやすみなさい僕たちは惰性でしないキスをしている
 
お祈りをするための星お祈りをするための夜 水が流れる
 
一日を過ごせば一日過去になる朝はあなたをおびやかさない
 
蝉が羽化するのを見ている生きているだけで果たせる約束がある
 
 
 
 
 
 
 
 
ちょうど前回のコラムで書いたこととも関連するのだけど
ぼくにとってのこの10年の締めくくりとなる着地であるとともに
今まで詠んできた短歌の中で最も重要な連作であり
12月31日、今年1年の終わりであるこの時点から振り返ると
通り抜けてきた地点でもある。
 
ずっとぎりぎりのエッジを歩いてきた。
そして今はひとつの大きなゴールに到達し新たなスタートにさしかかっている。
 
 
 
そう、今はもう言える。
 
 
 
僕たちは復讐をしていた。
 
 
 

2011/12/31 07:21 | senami | No Comments