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今日は、ショーを始める前の「道具の置き方」について書きたいと思います。
話を始める前に、今回話したい内容について、ショーのシチュエーションを二種類にわけておきます。
「あらかじめ観客が席にいる状態でショーをする」場合と
「最初から観客はおらず、呼び込みをしてショーをする」場合です。
前者は、一般的なステージ上でのショー。あるいは、小学校や公民館などに呼ばれて出演する場合です。
ショッピングモールに設置されたステージの場合、観客を呼び込みする必要はあるのですが、
観客の整理をしなくてもいいことが多いので、今回の話ではこちらに含ませます。
後者は、路上でのゲリラ大道芸の場合に該当します。
遊園地などの依頼に行ったときに、「そこらへんで適当にやってください」と言われた場合もこれにあたります。
つまり、「ステージ」のようなものが設定されておらず、どの向きでショーをやるか、どの位置にお客様に座ってもらうのか、などはショーを行うパフォーマーが考えて、そのように導いてやらなくてはなりません。
まず、前者の「ステージで舞台を行う」ケースの場合です。
ショーを始める前、準備の段階で道具を配置しますが、
この時、ちゃんと人に見せることが意識できているジャグラーならば、「置き場所」も適当ではなく、意味のある配置になる筈です。
舞台には「幅」「高さ」「奥行き」があります。
劇場型のステージならば「奥行き」はあんまり関係ないのですが、
サーカスのような全方向から見られる舞台、いわゆる「ビッグトップ型」の舞台の場合は、「奥行き」まで意識した配置をしなくてはなりません。
まず、ショーが始まる前の道具の配置です。
「帽子掛け」のような道具を掛けるもの、中に道具の入っているトランクや道具箱も最初から用意しておきます。
ジャグリングの道具と言うのは、概して小さなものが多いため、床に置くと、「高さ」が出ません。
そのため、帽子掛けやトランクは、ある程度高さのある状態にしておくのが美しいです。
特に、トランクは地べたにおかずに、何かしらの台の上に置いておくのが良いでしょう。
(ただし、ジャグリングの場合、技で「高さ」が出しやすいため、ここの要素にそこまでこだわる必要はないかもしれません。)
もしも、使う道具をお客様に晒しても良いのであれば使う道具を配置します。ただし、この時晒した道具は「全部使う」のが基本です。
例えば、ディアボロ(中国独楽)の紐が絡まったり、ボールが舞台の下に落ちてしまったりなどのトラブルが起きた場合に使う予備の道具は、
最初は観客の見えない位置に置いておくのが良いでしょう。
(コンテストの場合は、許容される傾向にあるが、無いほうが美しいとは思う)
別に、ステージ袖にある必要はありません。持ってきたトランクなどの入れ物の中に入っていればいいのですからね。
配置のときには、それ以外に「幅」を意識する必要があります。
ステージを見ているお客様側からすると、「最も両端に配置された道具」を無意識のうちにステージの両端と認識し、
その空間に自分の視界のフレーム(枠)を作ります。
この枠が、広すぎて演技が小さく見えてしまっても良くないし、狭すぎて窮屈な演技に見えるのも良くありません。
トランクや帽子掛け、あるいは最初から配置されている道具が無い場合、
観客の目線はジャグラー一人に集中することになるか、見えている範囲を全てステージにするのかという、両極端な状態となります。
演技が終わり、「もう使わない」状態になった道具は、観客の目から見えない位置に置くのが理想です。
そのため、道具入れなどがあるのが一番良いのですが、
そういう小道具がない場合は、「観客の意識の外」になるように道具を置きます。
たいてい、一度使った道具を、パフォーマンスの中心となっている範囲の枠外に置けば、
その道具は「もう使わないもの」として、観客の意識から消えることになります。
そして、最終的には、手に持った道具以外、全ての道具が整然と並んでいる状態にします。
観客から見える位置にはジャグリングの道具が一切出ていない状態となるのが本当は最高なんですけれどね。
これが、「あらかじめ観客が席にいる状態でショーをする」場合の道具の置き方です。
一方、「最初から観客はおらず、呼び込みをしてショーをする」場合。
人とは違う、目立つ衣装を着て、トランクなどから道具を出して道具を置き始めると、
「おっ、なんか始まるな?」
と思って、好奇心旺盛の方が足を止めてくれます。
そういう足を止めてくれたお客様というのは、遠巻きに見ているか、あるいは近くだとしても真正面にかぶりついて見ているということは少ない筈です。
「僕のパフォーマンス、近くで見ないと何が起こっているかわからないのでもうちょっとそばに寄ってもらっていいですかー?」
「あっ、お子様は前に来て、座って見てくださいねー」
「遠く離れている方、申し訳ないんですが交通の妨げになるのでもうちょっと近づいて見てもらえませんか~?」
そういう、遠巻きで見ているお客様を、言葉巧みに誘導し、自分を円形に取り囲むように仕向ける。
これができるのも大道芸を行うパフォーマーの腕です。
小型のカラーコーンや、ロープなどを使って、「この範囲でパフォーマンスをやるよ」という目印を作ることもできます。
そういうものがない場合、晒すことができる道具を最前列の目安として使うこともできます。
こうやって「ステージ」を作ることができれば、あとは、「あらかじめ観客が席にいる状態でショーをする」場合と一緒。
こういう細かいところまでパフォーマンス中に意識ができているジャグラーは、演技も丁寧であると思います。