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こんにちは。根本齒科室の根本です。
JunkStage様から「根本は投稿が多いので、新米から少し立場を上げる」
とお達しがありました。
これはいけません。少しでもサボって、立ち位置をコソコソ下げておかないと、
秀逸な集合知の目に留まり、バカが露呈して評判が下がる一方です。
団子虫には団子虫に快適な、石の裏などのポジションがあry
えー、私たちが、お口の問題について触れることができる唯一の専門的機関は
今のところ、民間の「歯科医院」しかありません。
そして、歴史的経緯や法律的な強い規制の下で、私たちは歯については
「歯科医師」としか相対できないことになっています。ですから
歯科医師
というポジションや方向性、彼を通じてお上が何をさせようとしているかを
一度見ておくほうがいいのではないかと思います。
歯科医師とはどういう生き物なのか?
◇歯科学生
少なくとも私が学生だった頃は、ほとんど上から下に与えられたものを暗記して
午後は毎日実習という状態でした。
いわゆるアカデミックな「抽象化」概念とは正反対の具体的な内容ばかりで
3年以降(専門課程)の卒前教育は、まさに読んで字のごとく「専門学校」でした。
それが、まあ削ったり抜いたりすることに関する講義や実習ばかりですね。
しかも、卒業したくらいではとても開業レベルまではいかないのは当然です。そこで
◇入局
◇バイト・勤務医
◇研修医
などでさらに人体実験を重ねます研鑽を積みます。
専門学校でも良いことだと教わったし、がんがん削り倒したいのも人情です。
これこそ世のため人のため、まるで一昔前の原子力政策のような感じです。
(私も身に覚えがありますので、あながち間違いではないと思います)
◇入局
<口外>
確かに抜歯はうまくなりますが・・医局では病棟と外来が半年づつで、
病棟の間は腫瘍や顎変形症で入院して手術する方の面倒をグループで見ます。
私なども、本当にお医者さんごっこ、いやナースごっこになってしまい、
歯の治療とは全くかけ離れた半年でした。評価の分かれるところです。
私も口腔外科の医局に入局しましたが、若かりし間抜けな頃は
「早く歯医者さんごっこをしたい」「点滴がうまくなってもなぁ~」
と浅はかなことを思っていたので、ストレスではありました。
今思えば、短い間ながら、大事なことをいっぱい教わったと思います。
<保存補綴小児>
やや専門的です。
一応、削ったりかぶせたりする仕事をしますが、目指す方向がかなり専門的です。
また、大学では
異常に設備が充実している
経営を一切考えなくて良い
ので、仕事や研究の質は非常に高いのですが、現場レベルは相当な不採算です。
ここでの方法が、そのまま姿勢の開業医で通用することは、ほとんどありません。
<矯正>
認定医まで5年間かかります。「矯正歯科」という標榜科を考えれば
一番実践的な医局だとは思います。
しかし一般治療は無理です。
一般レベルから見ると、普通の歯医者のイメージとは実質的に全く別の人種です。
しかも矯正には保険が利かないので、あたら「金儲け主義」「悪徳」のレッテルを
貼られがちでもあります。
また、世界で唯一”矯正装置を恥ずかしがる”不思議な国民性のカギも、
上記のようなわが国独自の嫉妬心にあるような気が、私はします。
<その他>
ry
◇研修医
治療、治療の流れをより深く学ぶ、ということで、大学卒業後1~2年間、
学生実習の延長のような感じで、患者の一般治療を行います。
違いは、研修医は一応免許を持っているので、ライターの許可印をもらわずに
治療を進めることができる、それだけです。
しかし私が6年生のときに、どのライターも「必ず」私たちに言ってきたことは
「お前らは腐っても医科歯科大を背負ってるんだ。お前らが本気出せば、
どこの誰とも分からないその辺の研修医に治療内容で負ける訳ないんだよ。
常にそのつもりで実習にかかれ。分かったか」
・・・や~先生、それって○○語で、SHA BIE CHU とかいいませんかねぇ~
思っても決して口にはしませんでした。
でも、身の程もわきまえず、卒後研修医のことを舐めてはいました。
もちろん研修医も、削ったり抜いたりかぶせたりする仕事がメインです。
患者様の予防的モチベーションをあげる教育、歯を削らずに残そうと
積極的にアプローチする卒後研修教育は、寡聞にして覚えがありません。
◇バイト・勤務医
当然ですが、これが一番現場の流れを覚えるのに適しています。
しかしバイトを取るような勤務先では、たいてい院長の意向に沿うような方向で
仕事をすることになります。
ということは、院長の時代の古い日本のコンセンサスを叩き込まれるのと同じです。
多くの場合、一番求められるのは、スピードといっても過言ではありません。
大学で学んだ、手の込んだやり方のほとんどは役に立ちません。というか嫌がられます。
省略したり手抜きしたりして、とにかく回転率を上げているのが、日本の現場です。
院長や理事長も、積極的にそのような方向で推進します。
「早く」「必要なだけ」削ったり神経を取ったりすることが、たいていは正義です。
私も、ここで話すと歯科医師人生が終わりかねないようなことも、見聞きしたり
また実際にやらされたりもしてきました。
しかし一応歯科医師も専門職のはしくれということに、日本ではなっています。
勤務先の意向でばかり仕事をしているというのは「専門職の独立性」を考えた際に
疑問が残ります。
とくに先般の福島第一原発事故の直後から、いままで1年1ミリシーベルトと言っていた
多くの医療関係者が、とつぜん
20ミリシーベルトでも、いやいや100ミリシーベルトでも大丈夫だ
被曝しても笑えばガンにならない
低線量はむしろ健康によい
神経質なことを言って不安を煽るのは良くない
などとお上の提灯を持つようなことを言い出し始めているのを見ると、やはり
「専門家の矜持と独立性」は言うは安く守るは難しという気がします。
ミスター100ミリシーベルト男は、日本中の歯科医院にゴロゴロいるのです。
ここまで、卒後のいろいろな進路を見てきました。
医局に入局すると、専門性は上がるものの、現場との乖離が無視できない。
卒後研修医は学生よりもレベルが高いのか低いのか分からない。
将来開業を希望するとなると、やはり勤務医の方向に収束していきます。
よく考えてください。
この勤務医は、いままで勤務先の院長や医療法人の方針に従って、
より早く
より多く
より正確に
歯を削ったり抜いたりすることを目指して仕事をしてきました。
それを「正義である」と信じきっているからです。
心を変えるのは行動です。人間には
…<感情<行動<意思<感情<…
という性質があります。
意思は感情には勝てませんが、意思に基づき行動を変えることによって
感情のコントロールが可能です。
つまり彼らはまさに東電や経産官僚、昔の自民党のように、削ることこそ正義であり
しかも「他の歯医者よりも自分が」削ることがより正義である、という固定観念を
勤務という自らの行動で常にフィードバックし強化してきたのです。
さらに、勤務医を長く続けていると、いろいろと自分の意向や好みも出てきます。
「院長はこうしろというけど、自分はこうしたい」
「ここも削ってかぶせて形を整えたらもっとよいのでは」
「ここは義歯は危険だからインプラントの話をしたらどうか」
ついでに偉くなった気がしてみたりします。
治療の流れも分かってくると、なんだか自分でやってみたくなります。
「自分の理想の臨床をしてみたい」
そして一国一城の主を目指そうとします。
ただ、なぜ治療方法にそんなに流派があるのか、という根本的な疑問は、いつも
頭の片隅におしやられてしまいます。
医科には病院という勤務先があるから開業が少ないが、歯科にはないから開業が多い
というのは、半分ウソです。
この仕事は手仕事、職人芸なので、みんな自分の思うとおりにやりたいだけなのです。
そんなことは海外ではとうの昔にばれており、欧米では歯科医師資格を必要としないで
治療できる国がかなりあるのです。
◇デンタルセラピスト
予防が盛んでむし歯の少ない北欧諸国では、初期むし歯に限って、専門学校に数年通うと
治療資格が得られます。
また、歯科医師不足の発展途上国やアラスカでは、専門学校に数年通わせて、
歯科治療の即戦力を鋭意養成しています。
歯科医師の指示の元、あるいは歯科医師から独立して、など、さまざまです。
つまり、専門卒なら誰でも歯の治療をして良いというのと同じです。
◇デンチュリスト
もともと総入れ歯の技工士が、チェアサイドで入れ歯の型やかみ合わせを取って良い
というところから来たのですが、それが部分入れ歯に広がり、残存歯の細工も良い
ということになって、なし崩し的に技工士でも歯の治療が可能になりました。
しかも技工士自体に正式な国家資格がない国が大半です。
つまり、誰でも歯の治療をして良いというのと同じです。
◇オーストリア
2005年に欧州司法裁判所は、オーストリアの歯科医師資格を欠格だとする
欧州委員会の主張を認めました。
つまり、誰でも歯の治療をして良いというのと同じです。
◇スペイン、イタリア
ここは医学部を出ていれば、すべての歯科治療が可能です。
(日本では、型を取る/取り付ける/矯正、は医師免許では行えない)
このように歯科先進諸国では、歯科『治療』の価値や歯科医師のポジションが
非常に厳しく見直されており、あわせて「脱原発」ならぬ「脱治療」が
国民側でも医療従事者側でもどんどん進んでいます。
歯医者がこんなに偉そうに威張っているのは、先進・中進国では日本だけです。
一部の北欧諸国では、同じ治療をするのに6年も通わせるのは予算のムダだ、仕分けろ
ということで、歯学部をつぶして専門学校に変えたりすらしているとも聞きます。
そんな国々のほうが、日本より歯について成績が良いことを、まず知ってください。
◇開業医
そんなことには少しも気がつかないで、偉くなったつもりのベテラン勤務医は
(自称)自由のために、数千万~土地つきでは1.5億程度の金策にチャレンジします。
最近はコネでもない限り、銀行(信金・信組含む)は新規には金を貸しませんので
「国金(日本政策金融公庫)」「親族借入」「貯金」で何とかしなければいけません。
さて、数千万~億単位の金策も何とかなり、一大イベント「開業」を成し遂げました。
(内リースが2千万くらいあって苦しいのは内緒です)
今日からは、月末にお金が入るサラリーマンから、月末にお金が出て行く経営者です。
個人事業主として、お店(歯科医院)をつぶさないようにしなければいけません。
そこで事業主たる院長は、おおむね下記の3通りの方向に流れていきます。
①世間の空気に流される
「何だかんだ言っても、患者様がいないのでは話にならない」
一生懸命、世間のニーズに迎合していきます。
今まで当コラムの最初のほうの回を読んでいただいた方はご案内ですが、
じつは日本の歯科についての一般のニーズやコンセンサス自体が大きく間違っています。
「痛い/困ったを、助けたい」
痛い人や困った人、つまり大きく進んでしまったり手遅れの人ばかりが集まります。
彼の最大の武器は、スピードです。
当座、痛みを抑えたり形を作っておけば、彼も患者様も満足です。
日本の保険診療は世界最低なのですが、安く上がって患者様が安心である方が大事です。
多くは残念ながら、○~○○年後、治したところばかりが傷んで、患者様は
さらに大掛かりな治療に追い込まれたり、不満から転院を余儀なくされたりします。
これを『オンデマンド~低レベル治療中心主義』と呼ぶことにします。
②理念に生きる(治療)
ほぼすべての勤務医は、必ずこのような悔しい経験をしています。
「昔のへたくそな銀歯を外したら、根が割れて抜歯/抜根になってしまった」
「以前に雑に神経を取られているから、詰まっていて根の再治療がすごく面倒だ」
「アンバランスなかみ合わせにされて慣れてしまっているので、問題点を話しにくい」
「『痛くなければそれで良い』といって、治療中なのに中断してしまった」
すべては以前の不良治療のせいです。これは事実です。仕方がありません。
とくに昭和時代の治療は、超スピード重視で『オンデマンド~低レベル治療中心主義』の
権化のようなものがほとんどです。
彼らは考えます。
「私が、配慮の行き届いたていねいな治療をすれば、患者様は救われる」
そして、一生懸命勉強します。
審美補綴、インプラント、矯正、かみ合わせ、総義歯、根管治療、再生療法etc
市井の「勉強会」「スタディーグループ」に積極的に参加します。
本も一生懸命買って読みます。
そして、保険制度を忌み嫌うようになります。
「保険制度のおかげで質の低い治療が蔓延して、患者様も我々も迷惑だ」
「私は、時間と金がかかっても、プロとして恥ずかしくない治療をしたい」
こういう先生はホームページを見ていると良く分かります。
「○○法は素晴らしい治療」←保険外
「院長は○○学会所属/◇◇国に留学」←欧米のどこか
「保険治療は健康に悪い」
「予約厳守なので、新患急患随時ではない」
「インプラントの謳い文句では『よくかめる』『快適』が重点的」
こういう項目が多いところは、たいていそうです。
これを『ルサンチマン~高レベル治療中心主義』と呼ぶことにします。
でも結局、歯を削るのが大好きなことは変わりありません。
③理念に生きる(予防) 予防中心主義
また、ほぼすべての勤務医は、必ずこのような不思議な経験もしています。
「おかしいな、僕より上手な先生の歯がどんどん壊れている」
「かぶせ物を外したら、土台がすごくていねいに削られていて驚いた」
とりあえず、治療中にもかかわらずがっかりします。
「負けたorz」
しかし、何回かそんな苦い経験をすると、人によっては考え直します。
「歯は治療しても、ダメなものはダメなんじゃないか」
「達人が治療しても凡人の俺らがやってもダメなら、治療って意味なくね」
「歯の健康や耐久性は、治療以外のものに大きく左右されているのではないか」
少し調べると、予防や定期健診で歯の寿命が大幅に伸びることがすぐ分かります。
しかし多くの場合は、原発推進派のような変な考えで落ち着いてしまいます。
「原発は(日本経済に)必要だから(国内の原発は)安全だ」
「治療は(医院経営に)必要だから(俺様の治療は)安全だ」
必要なことと、安全なことは、まったく別の議論です。当然です。
でも今まで、1億人単位で騙されてきましたねw
「原発は必要か」→火力でほぼリカバー可能(安全保障上の議論は別)
「原発は安全か」→現状では年平均1度起こる震度6でほぼ壊れることが確定
「治療は必要か」→経過観察のほうがいいものもある
「治療は安全か」→耐久性の平均値が統計的に10年前後
このように、必要性と安全性を分けて考えると、原発についても治療についても
今までとはまったく別の視点が求められます。
すると、治療については
◇極力人為的介入を減らす
(削る量を最小限に減らす、経過観察でよいものは削らない、インプラントを応用するetc)
◇治療されていない歯や、止むを得ず治療した歯を、極力長期に維持することが第一
必ずこうなります。
ここで腹を括った先生は
◇定期健診や予防管理を治療よりも重視する
◇患者様に上記のことを伝え、予防意識を高める
ために、「歯科衛生士」を多く雇います。
歯科医師は削るのは得意ですが、教育力や予防力には欠けていることが大半です。
これに対し、歯科衛生士は治療はしませんが、教育力やコミュニケーション力は
歯科医師(とくに男性医師)よりも優れていることがほとんどです。
そうすると、今までよりも歯を大事に思う患者様が劇的に増えていきます。
定期健診が増えて、歯科衛生士が前面に、歯科医師は後方に下がっていきます。
先生は目立たないし威張れないし削れないし、女子の尻に敷かれてカワイソウw
ですが、ここを耐えると、地元には非常に良い効果をもたらします。
また、見かけの人件費は増えますが、医院経営も安定していきます。
これもホームページなど見れば割合よく分かります。
「ホームページのデザインが女性的」
「衛生士が目立っている」
「院長や歯科医師が目立たない」
「細かな予防メニューが多い」
「インプラントの謳い文句では『他の歯の延命』が重点的」
などの特徴が感じられれば③である可能性が高いです。
②と③の微妙なニュアンスの違いを読み取れるようになれば、あなたも一歩前進です。
しかし欠点は、国や利権構造がまだまだ①や②を推奨しているので
③の医院は、自前でいろいろ工夫したり投資したりしなければなりません。
よって、各医院で細かい点でいろいろ違いが出てきてしまっています。
これも原発と似ています。
原子炉を守るのが重要か vs 付近住民の安全を被曝から守るのが重要か
自作の義歯を守るのが重要か vs 周囲の歯質や残存歯を守るのが重要か
・・・民主党も自民党も官僚も東電も、原子炉のほうが重用だったようですよね。
ここを見極めなければいけません。
これを『腹を括った先生~予防中心主義』と呼ぶことにします。
このように、開業医には
①世間の空気に流される『オンデマンド~低レベル治療中心主義』
②理念に生きる『ルサンチマン~高レベル治療中心主義』
③理念に生きる『腹を括った先生~予防中心主義』
の3タイプがあることが分かります。
私の感じでは、だいたい①がもっとも多く、次が②で、③はまだまだ非常に少ない
といったところです。
大雑把に、①:②:③=4:2:1 と仮定しても、
歯を削るのが好きな、リスクの高い①+②で85.7%もいます。
14.3%の③を探すには、近所だからとか素人の口コミなどの他力本願ではいけません。
【今回のまとめ】
歯科医院には歯科医師の考えによりに概ね3つのタイプがあり、見極める必要がある