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読者の皆さま、ご無沙汰です。
8月に入ってから家運のかかった一大バケーションが入ったため、
コラムの更新が遅れてすみません。
いや、間違えた。
遊んでいたわけではありませんm。
ほんの少し、出奔していただけです。
さて、今回はお世話になっているスタッフで小説家の桃生さんから
我がコラムにリクエストをいただきました。
来たるJunkstage第3回公演の舞台に関係したテーマの映画について書いてほしい。
書かないとひどい目に遭わせるというありがたい打診をいただき、泣きながら書きました。
というのは真っ赤な冗談です。
さあ、吉祥寺のスターパインズ・カフェへ行く前に、
パリのシャンソニア劇場へお立ち寄りください。
ストーリー
舞台は1936年のパリ。
下町のミュージックホール、シャンソニア劇場は不況のため資金繰りが苦しくなり、
不動産業者ギャラピア(ベルナール・ピエール・ドナデュー)の手に渡って閉鎖の憂き目をみる。
長い間、裏方として劇場を支えてきたピゴワル(ジェラール・ジュニョ)は
同僚で芸人の女房にも男をつくって逃げられたあげく、職を失って酒びたりの日々。
食費にも事欠く父ピゴワルを見かねて、
息子のジョジョ(マクサンス・ペラン)は街角でアコーディオンを弾いて家計を助けている。
しかし、それが却ってあだとなり、ジョジョは警察に補導され、
母親のもとに預けられ、ピゴワルと離れ離れにされる。
家族を失ったピゴワルは、ギャラピアの手から劇場を取り戻す決意をする。
仲間のミルー(クロヴィス・コルニアック)やジャッキー(カド・メラッド)とオーディションを行い、
人目を惹く美貌と才能の持ち主ドゥース(ノラ・アルネゼデール)が仲間に加わる。
念願の公演再開を果たすが、ドゥースの歌以外は全く客に受けずマスコミに叩かれる日々。
あげくにドゥースも有名プロデューサーに引き抜かれて劇場を去ってしまう……
脚本がよく、最後までハラハラさせられ目を離せない。
シャンソニア劇場の浮沈が、ドゥースをとりまくギャラピア、ミルーとの三角関係に反映されていて、
それが逆に展開していくところも面白い。
彼らの三角関係のもつれにピゴワルもまた巻き込まれてしまうのだった。
このピゴワルはまさに名もなき善良な市井人の代表的な存在。
ギャラピアのような権力者とミルーに象徴される運動家に挟まれて運命を翻弄される。
ピゴワルに用意されているほろ苦くてほっとする結末には
監督のクリストフ・バラティエの名もないパリの下町の人々への愛がこめられているように思う。
もう一点、心に残ったのは、発想の転換ということ。
紆余曲折を経てドゥースが戻り、シャンソニア劇場を再開するにあたり、
芸人たちはさっぱり当たらなかったこれまでの芸を捨て、新たなスタイルに一新する。
この賭けが功を奏して公演は大成功を呼ぶ。
自分がやりたいことと、得意なことは違う。
思いもよらないことに自分の強みが、魅力が隠されていることだってあるのだ。
下町の失業者というマイナスの中に、観客の共感を呼ぶというプラス要素が潜んでいた。
行き詰ったら視点をずらしてみる。
自分を活かせる道を求めてあがいている私に
シャンソニアの芸人たちは大きな示唆を投げかけてくれる。