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原作は『ゲゲゲの鬼太郎』でおなじみの漫画家、水木しげると布枝夫人の無名時代からの苦楽を綴ったエッセイ。
その40万部突破した原作が鈴木卓爾監督によって映画化された。
お見合いからわずか5日のスピード婚。夕ご飯に道端の野草。ろうそく下での漫画制作。
今の時代にほとんどの人が体験する機会のない、いってみれば非日常の世界が展開されている。
そこにすーっと引き込まれていった。
映画のなかにあふれる非日常のなかで、いちばん新鮮だったのはしげる(宮藤官九郎)のニーズへのこだわりだった。
しげるは自分の書きたい妖怪ものや戦記ものばかり描き、子供たちが望んでいる漫画は描かない。
この読者ニーズをいっさい考えないしげるの頑なな姿勢に強烈な非日常の魂を感じた。
彼のこのスタイルが布枝(吹石一恵)を巻き込んでの非日常の空間を作り出すまさに源になっている。
もう一人、しげるに似たキャラクターとして、しげるの家を間借りする似顔絵描きの金内志郎(村上淳)が登場する。
この金内はかつてしげると同じ貸し本漫画家だったが
自分ニーズにこだわり編集者から見放されて仕事がなくなり妻子と別れてしまったのだった。
今や部屋代の支払いにもことかくほどの極貧ぶりと自分ニーズへの愛着はしげると似ているが、
決定的な違いがある。
金内には布枝という存在がいないことだ。
今の寄る辺のない窮状を嘆き、過去を悔んでいる金内はもうひとつのしげるの人生にみえた。
しげるの人生が一歩ずれると金内の人生になる。
その意味では布枝というパートナーの存在の大きさに改めて気づかされる。
布枝は一見地味で縁の下にいるが、しげるの生殺与奪を握っている核となる存在だ。
布枝がしげるの前から姿を消せばあっという間に金内になるだろう。
いっさいの妥協はない。妖怪とともに心中する。
そこまでの妖怪への痛烈な思い入れを切らさずに来れたのも布枝という存在があってこそだったろう。