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眠る前に祈る癖がついたのは、結構最近である。
祈ることはたいていばらばらで、とりとめがないことだ。例えば明日のプレゼンでは噛みませんように、とか、購買でお気に入りのパンが買えますように、とか。
でも、この頃最後に必ず願うことがある。
祈ったって変わらない気もするけれど、もしかしてどこかにいるかもしれない神様がこの願いを聞いてくれますように、と思いながら、私は毎晩目を閉じる。
どうして人は祈るとき、同じような姿勢をしてしまうんだろう。
目を閉じて、頭を垂れて、手を組んで。無宗教だとばかり思っていたのに、わたしの祈りの姿勢は例えばキリスト教やイスラームの人々のそれとどこかしら似通っていた。勿論彼らほどの日常性も哲学教義もないけれど、わたしの祈りだって真摯さにおいては引けを取らないだろうと思う。
大きな被害を産んだ震災から、暦の上ではもう半年近くの時間がたった。
でも、それはまだわたしの中では過去になっていない。
現在進行形で、人の命があっさりと消えることに怯え、家や車が簡単に壊れることに怯え、夜の寒さ、スーパーに物が無いこと、停電、波の音に恐ろしさを感じる。来ないで、来ないでと願いながら、あの日の再現を心の中で繰り返してしまう。
次はもっとうまく出来る、もっと多くの人を助けられる、もっと真剣にふるまえると信じながら。
祈るばかりではダメだよと沢山の人が行動をした。
それぞれに出来ることを考えて動いていた気がする。情報を掻き集めた人、食べ物や毛布を運んだ人、家族を心配させないように笑顔でふるまい続けた人。
わたしは何も出来なかった。
出来ることをしなくちゃ、しっかりしなくちゃと言い聞かせながら、自分を守るのに精いっぱいで他人のことなんて気にする余裕はなかった。真っ暗やみの中で握った塩気のきついおにぎりを少しずつ食べ、懐中電灯の電池の残りを心配しながら、縮こまっていただけだった。
だから、もし次が来てしまったら。
神様、わたしはもっときちんと出来るでしょうか?
答えの出ない問いかけを暗闇の中で繰り返し、届くかもわからない罪滅ぼしのような祈りを捧げ、わたしは自分の真剣さだけを頼りにして、祈る。
――どうかどうか、もうあんな怖い夜が来ませんように。
わたしにとっても、誰かにとっても、穏やかな夜でありますように。
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花言葉:清らかな祈り
*今回の画像は「Photolibrary」さまからお借りしました。