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2011/07/05


Prologue

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「コピーライター 一倉 宏」
誰かが、「クリエイターは歳を食うとCDを名乗る」と言っていたが、
一倉さんの名刺の表面にある文字は、それだけだ。
まとめて、「生涯、いち物書き」―― 言葉を交わす前に、そんな意志を感じた。

そう、一倉さんは、あえて主観的な言葉を使うが、「スゴイ」のだ。
私が広告の世界へ惹き込まれていったのは一倉さんのコピーに出会ったことがきっかけだが、
何がスゴイかというと、今でも書き続けている、ということだ。
冒頭の引用ではないが、クリエイターはある程度まで来ると仕事を「任せる」ことが仕事になる。
そうやってみんな、下の世代を、ひいては広く業界を、育てていく。

しかし、一倉さんは、現場の一線にい続ける。
おまけに、今年のTCCグランプリまで、獲っていってしまう。
すぐれた広告の制作者を顕彰する、東京コピーライターズクラブ主催のTCC賞。
JR東日本・東北新幹線 東京~新青森間全線開業の広告シリーズでの、電通の髙崎卓馬氏とのW受賞を拝みに、汐留のアドミュージアムで開催されたTCC展へ行ってきた。

「MY FIRST AOMORI はじめての青森」
くしゃくしゃの一枚のメモの走り書きが、丁寧にのばされて展示されていた。
髙崎氏との初めての青森ロケの夜、場末のスナックで一倉さんが走り書きしたメモだった。
まだ方向性を決めきってしまいたくなかった髙崎氏は、そのときはあえて薄い反応を示したが、その後何十枚にも及ぶコピー検討の会議の席で、実は取っておいたこのメモを出した。
その瞬間、企画がひとつの方向へ向かって走り始めた―― 髙崎氏はそんなエピソードを寄稿していた。

「コピーは、部品ではない。」
一倉さんはこの月刊広告人のインタビューで、そう言った。

アートディレクションが効いたグラフィック広告の後に、CMのブーム、そして「メディア統合」とキャンペーン志向…と広告業界のトレンドは日々変われど、変わらないのはそこに「言葉」があることかもしれない。
言葉はときに直接の「せりふ」として生活者に話しかけ、
ときに表には出ない「コンセプト」として、裏側でどっしりすべての表現物の糸を引く。

“広告”の本質的な使命は、「人の気持ちをうごかす」こと。
制作の現場で言葉を紡ぎ続ける一倉さんに、そのひとつの原点を見た。

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Scene2;広告人・一倉宏氏の場合
言葉に託す。文学青年は、サントリーのコピーライターに。(7月12日公開)

2011/07/05 06:00 | yuusudo | No Comments