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2019/06/05

 2019年6月4日発売

1984年製作のジャンル分けしにくい作品です。
彗星が地球に接近する日、世紀の一大イベントを見ようと世界中の人々が夜空を見上げていた。翌日、その人々の大半が地球から姿を消していた。一定の条件下にあった僅かな人を残して…。

世紀末感というか終末感に満ちたLAを舞台に、生き残った数人の若者達が、死に損なった人達から身を守り生き抜く。何が生死を分けたのか、人類復活のカギは何かを研究する科学者も登場し、生き残りつつもゾンビ化していく人達の苦悩を描く青春映画です。ジャケットの女性は主人公姉妹の姉役のキャサリン・メアリー・スチュワートという女優さんですが、本編ではこのキツい表情より、もっとニコニコしています。

劇的に書きましたが実際、見かけがホラーの青春映画と呼ぶべきストーリー。主役は高校生と大学生の逞しい姉妹で男達はあくまで添え物。低予算の作品ですが、見事なゲリラ撮影で無人のLAを走り回る生き残った人達を活写します。

「映画の字幕ナビ」の続きみたいですが、以下、ここで気になった字幕が2つ。

1つは、ほぼ無人のショッピングモールというかデパートで生き残った悪い男達に姉妹が襲われるシーン。(“コマンド―”や“ターミネーター2”でも使われた施設で、大ざっぱに言うと六本木ヒルズのような複合施設。)ここで悪い男達のリーダーが妹に「何が望みなの?」と聞かれて答えます。

You wouldn’t believe what we want from you.
In your worst nightmare, you wouldn’t believe.
「お前らから俺達が望む物は、信じらないものだ。」(20文字)
「最悪の悪夢の中でも信じらないようなものさ。」(20文字)
くらいが直訳です。

ここは前後のつながりから以下のように訳してあります。
「たっぷり払ってもらうぜ」(11文字)
「信じられない悪夢の中でな」(12文字)

ここでは「信じられない」がポイントになりました。この悪い男は異変が起きた数日前までこの施設の商品補充係でした。いち労働者だった彼は突然、巨大施設を支配しているような立場になった気分でいます。

ここで2つ目の字幕に「背筋も凍るような悪夢の中でな」といった、強い脅し文句を入れたくなるところですが、それは避けました。これは以前の訳がそうだったわけではなく、訳していて自分で感じた事ですが、脚本家が彼のセリフを書いた時、数日で突然立場が変わった彼の人物像を考え、そこからボキャブラリーを決めたと思ったわけです。「背筋も凍る」(=spine-chilling)もよく聞く表現ですが「信じられない」が彼の頭に浮かんだ表現だったわけです。ここはアクションホラーの展開のシーンで、大げさにいきたいところですが、彼の語彙からは「信じられない」が出てきたと。

もう1つは上記の姉妹が「生き残った男」について話すシーン。

Hector’s not exactly a fox, but considering what’s left, he’s not bad.
84年の作品ですが最近の表現で直訳すると:「ヘクターはイケメンとは言い切れないけど、残った男達の中では悪くないわ。」(33文字)これを妹が5秒くらいで言っています。(※読みやすく句読点を入れておきます)

「彼はイマイチだけど、この際だからガマンするわ。」(21文字)

これで悪くはなさそうですが妹はヘクターに好意を持っています。本当は「イマイチ」だと思っていないどころか、「好き」と言いたいくらい。淡々と話そうとした結果でしょう。原語にあるnotも否定的な使い方ではないし…。

ちなみに「イマイチ」は1970年代末に広まった表現で、「イケメン」は2000年代以降です。

この訳をネガティブに言わないように、どうしたかはソフトを見てみて下さい。ネガティブな感じにせず、「好き」を避けた淡々とした言い方にしました。何の変哲もない詰まらない訳になっています。

ソフトは音声解説が3種類入っているため、95分の本編の字幕は1000枚少しですが、ソフト全体では6000枚以上になっています。製作現場の裏側など、作品自体だけでなく、作品が作られた80年代の逸話も興味深い1本です。(ヴァレー・ガールとかファミリー・タイズの時代というか…)

2019/06/05 07:08 | ochiai | No Comments