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2017/09/17

こんにちは。根本齒科室の根本です。

当院では目下、急きょスタッフ募集中です。

ところで、今回の知覚過敏については、臨床においてずっと気になってはいましたが、JunkStageのシステムに発生した不具合も修正され「財務ラオ」さんも復活したようですので、改めて自分なりに少し書いてみようと思います。

知覚過敏。
最近CMでも気になるキーワードですね。

いろいろ原因があるわけですが

 歯周病でScしたら一次的にしみるようになった
 むし歯がしみた
 歯にひびが入ってしみた
 パティシエ、化学工場勤務、酢が好きetc環境因子によるToothWear等

などのまれな例や直接的でない例は今回は除外して、狭義の知覚過敏について私なりに説明します。

◆ 知覚過敏の原因

知覚過敏の歯の多くは歯の生え際がすり減ったように見えます。
以前は歯ブラシが雑だから歯がすり減るといわれていましたが、研究の結果、ほとんどの場合はそうではなく、歯ぎしり食いしばりなどの過剰な咬合圧が中心になって歯がたわみ、その影響で歯の生え際が欠けるということがわかりました。
まれですが、酸による浸食や、雑な歯ブラシによる摩耗もあることはあります。

◆ 歯がたわむと

この手袋のように伸びたり

縮んだり

しようとします。

しかし歯はゴムのようなわけにはいきません。
そのような伸び縮みの力に耐えられるはずもなく、このように表面がボロッと逝きます。

しかも、内部応力はへこんでいる部分に集中しますから、全ての力は生え際に、まさに「しわ寄せ」が行き、結果、ボロッと取れるわけです。

そこで絵をご覧ください。
神経がしみている部分が横ですね。

矢印の長さを比較してください。
横は非常に神経に近いので、ちょっとしたことですぐしみやすいのです。
いっぽう、歯のてっぺんは神経からの距離が遠いので、相当大きな穴にならないとなかなか症状として出にくいものです。

◆ なぜ歯が欠けるとしみるのか

歯の断面をもう一度見てください。
他の図でもそうですが、歯の断面を描くと、一般的に「旭日旗」のような放射状の模様になることが多いです。
歯の中心の部分は、太陽ではなく、神経(歯髄)です。
そしてこの旭日旗のような部分は「象牙細管」といい、多くの細かい穴です。
この穴は象牙質の部分に放射状にびっしり開いており、それぞれの穴の中に神経のセンサーがあります。
絵では一部だけ極端にパイプのように書いていますが、これは見て分かりやすくするためのものです。赤腺のような部分は省略した部分ですが、要は同じです。

これが先ほどのようにたわんで、伸縮できない外面がばきっと割れます。

エナメル質という殻の部分にはこのようなセンサーや管はありませんが、欠損が象牙質まで至ると
この穴が露出することになります。

そうするとセンサーがいきなり外界と交通して、象牙細管の中を満たしていた水分が流れ出します。
この水分の動きや温度変化で歯がしみるわけです。

◆ 知覚過敏になるとどうなるか

このような状態になると、一部のセンサーが常に露出して刺激に晒される形になります。
一部のセンサーが常に刺激に晒されるのは

 歯周病でScしたら一次的にしみるようになった
 むし歯がしみた
 歯にひびが入ってしみた
 パティシエ、化学工場勤務、酢が好きetc環境因子によるToothWear等

の場合でも基本的に同じです。

◆ 知覚過敏を抑えるには

まずはこの晒された一部のセンサーを外界の刺激から守ってあげることです。

◆ 表面的な作用

最初にやることは、露出したセンサーをふさぐことです。
歯科医院で塗布する薬はこのような機序です。
当院で塗布する薬物「ティースメイト ディセンシタイザー」の中には「象牙細管」の直径よりも細かい粒子(ハイドロキシアパタイト)がたくさん入っており、塗布すると、粒子が穴に詰まり、センサーへの直接的な刺激が遮断されます。

この写真をご覧ください。汚い手で恐縮ですが、よく見るとパウダーがたくさんこびりついて毛「穴に詰まって」います。
そうです、こんな感じで歯の「穴に詰まって」いるんです。

図にするとこの灰色のような感じです。

そして、最近コマーシャルで目立つ「シュミテクト」などの知覚過敏用の歯磨き粉も同様な作用機序で症状を抑えます。
市販の歯磨き粉で知覚過敏に作用するおもな薬効成分は2種類あります。

①硝酸カリウム
②乳酸アルミニウム

①硝酸カリウム

知覚過敏用のものには基本的硝酸カリウムにが入っています。
ただ、ハイドロキシアパタイトのような実際の粒子で詰めるのではなく、カリウムイオンによってセンサーの神経を脱分極させて刺激を抑制するというマイルドなもののようです。

ですので、院で塗る薬よりは切れ味は劣ります。

ただし、硝酸カリウム入り歯磨剤による知覚過敏の症状緩和には2~3週間を要します。
ジーシー社の説明でもこのようになっています。

②乳酸アルミニウム

現状、私が推奨するのはこの「乳酸アルミニウム」入りです。

作用機序は、唾液中のリン酸イオンと反応してコロイドを形成し、この粒子が象牙細管に詰まって刺激が直接遮断されます。
(鶴見大学歯周病学教室(PDF))

歯磨き粉の効能書きはウソばかりが多くて辟易すると常日頃から言っている私ですが、知覚過敏系だけは別です。
とくに市販品でも「②乳酸アルミニウム」が含まれているものはより効果が期待できますので私からもオススメです。

残念ながら、もっともメジャーな「シュミテクト」には乳酸アルミニウムは含まれておらず、中等度~重度の知覚過敏には無力だと思われます。

◇ライオン デントヘルス薬用ハミガキ しみるブロック
◇生葉(しょうよう) 知覚過敏症状予防タイプ
◇ライオン システマセンシティブ
◇松風(しょうふう) メルサージュヒスケア
◇小林製薬 薬用シュミナインW

だいたいこの辺りでしょうか。
とくに薬用シュミナインWがあった場合はラッキーです。

 シュミナインW、意外とネットで出てきません。
 NID PBの検索で茨城で出てきたのは一軒だけでした。
  ドラッグストアセキ 荒川沖店
  〒300-0874 茨城県土浦市荒川沖西1-18-26
 6号を下って学園東通り(県道25号)の交差点に向かう700m手前進行方向右です。

近所のドラッグストアなどで発見できなかったらさっそくamazonなどでポチってみましょう。
ピンポイント買いの場合はやはり実店舗よりもネットです。

ではどうすればよいか。

少なくとも夜寝る前に磨くときは、なるべく5分以上は粘って、歯の曝露時間をながく稼いでください。
そしてゆすぐ時もがっつりゆすがずに軽くゆすぐ程度にとどめてください。

これが短期的な方策です。

今お手持ちの歯磨き粉はひとまずおいといて、目安としては1本使い切るくらいまでそのまま使用してみましょう。

◆ 力学的な作用

当然ですが、歯が欠けたのは歯がたわんだからです。
歯がたわんだのは歯ぎしり食いしばりが旺盛だったからです。
ですから、歯ぎしり食いしばりをしない、という方向になります。

夜にお困りの場合は、夜用マウスピースの作成も有効です。直接歯ぎしり食いしばりをなくすわけではありませんが、その暴力的な咬合圧を分散して歯を保護してくれます。

昼間は、自分で注意します。

何かを食べるとき、そして、重いものを持つなど踏ん張るとき、これらのときはどうしても歯をかみしめざるを得ません。

しかし、そうでないとき、たとえば運動強度の低い家事をしているときや本を見ている、テレビを見ているetcなときは、意識的に歯を休めなければいけません。
つまり1ミリくらい浮かせて、歯と歯が触れないようにしておくのです。
歯も道具です。道具は使い終わったら手入れしてしまって(休めて)おくものです。
ここで歯ぎしり食いしばりについて語ると長くなるので、患者様用のパンフレッドを置いておきます。
<夏目漱石>。
ご自由にお持ちいただき、目を通しておいてください。

◆ 生物学的な作用

そんなこんなで数ヵ月たつとどうなるでしょうか。
神経もやられっぱなしではありません。何とかしないと、と内側に防御壁を構築します。
これを「修復象牙質」といいます。
これにより、内側から象牙細管をかなりの程度詰まらせ、歯隙を遮断していくわけです。

この絵の、緑色の部分がそれに当たります。

このころにはもう知覚過敏自体は収まっています。
しかし、くぼみ自体は残るので、必要に応じて補修したりします。

これが知覚過敏が収まる理屈であり、中期的な方策です。

このような作用は、日常から大なり小なり歯の中で起こっています。
たとえば萌出直後の子供の象牙質は神経の管が太いのですが、中高年の象牙質は神経の管が全体的に詰まって狭窄しています。
これは外部の刺激を受けて、ゆっくりゆっくり、図の緑色の部分が内部から形成されて厚みを増している証拠です。

しかし、刺激の方が強過ぎると、神経が耐えかねて壊死を起こし、最終的には神経が感染して腐ります。

◆ なぜ再発するか

それは、治りかけなのにまた「歯ぎしり食いしばり」をするからです。
だからまた歯がたわむ。
だからまた歯が欠ける。
だからまた歯がしみる。

簡単なことです。

つい最近までこのようなことが広まっていなかったので、歯ぎしり食いしばりなどで歯の圧が強い人が知覚過敏を繰り返すたびに歯の欠け・へこみがどんどん大きくなり、「楔状欠損」と呼ばれる歯の生え際の欠けが多く存在しましたし、現在も日常的に見ます。

欠けたなら埋めればよい、ということで、当座はコンポジットレジンを充填して様子をみることも多いのですが、詰め物は歯よりも軟かい材料ですし、「しわ寄せ」は一番弱いところに向かいます。
ですからいくら詰めても「詰め物がぽろぽろとれてくる」とか「詰め物がへこむ」「詰め物に接した上下がへこむ」などの二次被害が生じるわけです。

これらのほとんどは歯ぎしり食いしばりなどの過剰な咬合圧によるものであり、何とか歯を休める方策を考えることが第一選択になります。
これが長期的な方策です。

また、知覚過敏以外にも、骨が弱い人は外傷性の歯周病、歯が弱かったり横の動きが大きい人は咬耗、関節が弱い人は顎関節症など、過剰な咬合圧のしわよせは、どこかしらに行くものです。

過剰な咬合圧によるさまざまな害悪は、書き出すと煩雑になります。PDFにまとめたものがありますのでご査収ください(画像をクリック)。

【今回のまとめ】
知覚過敏の対処には短期的・中期的・長期的な方策がある。

2017/09/17 12:14 | nemoto | No Comments