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2011/06/16

こんにちは。歯科医師の根本です。
歯の治療は治療ではなくリハビリテーションであることを前回説明しました。
しかも当然ですが、歯は再生しません。削ってもモコモコ盛り上がりません。

リハビリならリハビリらしく考えないといけません。

当然ですが、最初はむし歯はありませんでした。
でもある時気がついたらむし歯になっていました。

これは、

夜間睡眠時に悪い寄生虫が口腔外から侵入して歯の一部を食い逃げしたわけでも、
地縛霊が歯に取り付いて悪い魔法で溶かされたわけでも、
自爆霊が歯に取り付いてS○NYタイマーがセットされていたわけでも
ありません。

齲蝕の要因のまとめ方はいくつかのパターンがありますが、ごくごく簡単に言うと

◆歯が病原菌に負けた

からです。でも自分ではなかなか負けたことに気がつかないから厄介なのです。
運良く?!歯がしみたりして気がつき、歯医者に行ったら、むし歯だといわれました。
当然のようにむし歯を削って、銀歯などの人工物をつめます。

「ああ、これで治った」と思うでしょう。

・・・残念でした。

こんなことはほとんど問題の解決になっていないどころか、往々にして
さらに事態を悪化させる元凶にしかなりません。

ちょっと読み返していただけると、むし歯の原因は
「寄生虫」でも「魔法」でも「自爆タイマー」でも何でもなく、
病原菌でした。
ご存知のように、むし歯菌と呼ばれる特定の一群の病原菌が歯に取り付いて、歯を溶かすのです。

ちなみに、病原菌の直径はおよそ数ミクロンです。

そういえばこの間歯医者で詰めてもらったときの銀歯は、どんなものでしょうか?
私のところにも、人工的な修復物のすきまから再発した方がじつに大勢お見えになります。
驚くなかれ、50ミクロン100ミクロン当たり前、中には目に見えて境界線がずれているものも珍しくありません。

ところが、中には結構上手に作ってあるのに、という物もぼちぼちあったりします・・・

また、肝心のセメント(接着剤)ですが、恐ろしいことに、これは必ず崩壊します。
ひとつには、グラスアイオノマー系やカルボキシレート系、燐酸亜鉛系などの古いものでは、セメント自体が唾液に溶けてしまいます。

もうひとつには、新しいレジンセメント系のものでもそうですが、つねにかむ力や歯のたわみなどで「バリッ」と崩壊したり剥がれてしまうリスクが高い確率で付きまといます。

これらを考えると、つめ物やかぶせ物などの人工物との境界線は、直径数ミクロンの病原菌にとって、何の防波堤にもなっていません。まさに広く門戸を開けているようなものです。

さらには、ひとたび病原菌が「広く開いた門戸」を侵入してすきまの中で繁殖してしまうと、
当然ですがその部分の歯みがきはできません。
まさにやられ放題。高い確率でいつ再発してもおかしくありません。

そしてもっとも忘れてはいけない点があります。

最初にむし歯になったときは、何も門戸がない状態なのに病原菌が取り付いて歯が負けてしまいました。
それなのに、このような人工物=「広く開いた門戸」が存在する状況では、どちらが発症リスクが高いかは考えるまでもありません。

そうなると、再発⇒削って修復⇒再発⇒削って修復⇒(以下無限ループ)
歯は有限=再生不能なので、いつかなくなってしまいます。

それを考えると、今までのような状態だとさらに悪循環に向けて加速してしまうので、新たに
何らかの対策をとらなければならないのは自明の理です。

方向性としてはおのずと

◆病原菌への対策1~歯みがきの工夫
◆病原菌への対策2~キシリトールの応用
◆環境対策(口腔)~糖分対策
◆歯の質の強化~フッ化物の応用

これらを改善するのは当然として、

◆ある程度の再発~再修復リスクの上昇

を想定した上で回避を心がける衛生プランを立てることが必然的に求められてきます。
じつはこれこそが歯科医院の真の腕の見せ所のひとつでもあります。

また誤解されやすいのですが、これらの全ての項目は自己流のみでは実質的に無理であり、
また歯科医院のみの努力でも無理であり、適切なプロが介入した上での二人三脚の管理が
歯の長期的な健康のためにもっとも大事なのです。
非常に簡単に言うと、定期健診とコーチングです。

今、私は、間違いなく

「あなたがもっとも聞きたくない」
「あなたにとってもっとも都合の悪い」

ことを、ずばっと言い切りました。それだけのことを言った職業的自負が確かにあります。
「何でもするからそれだけは勘弁してほしい」と、あなたの心は今大声を上げているはずです。

(今の自分はそれほど悪くないと信じたい)
(痛くないから悪くないと信じたい)
(歯医者で治療すれば治ると信じたい)

これが日本人の9割くらいの方々の心の叫びであり、根拠のない危険な願望でもあります。
他の医科のときは痛くなったり悪くなったりしたら処置や投薬してもらってそれで基本的に終わり。
歯科も、このような医科のように「他力本願的」「応急的」に対処可能なものであってほしい。
・・・

残念ながら、今まで説明したように、歯の治療は治療ではなくリハビリテーションであり、
しかも「再生不能リハビリテーション」であるのが事実です。

事実、差し歯やブリッジなどの接着式の修復物の耐用年数は、
数年から10年程度だというデータが統計的に数多く示されています。
有名なところでは、取り外し式の入れ歯も、3年で3割、5年で5割が
使用不能になるというデータもあります。

事実から顔を背けてはいけません。
事実をしっかり見据えて対策を立てれば、読者の方は救われ、
これからの人生がかなり有意義なものになるでしょう。

ところが、あなたを惑わし、事実から顔を背けさせようとする悪い奴が、
わが国には確かに存在するのです。
気の弱いネトウヨ(なんという役立たず!!)を自称する私としては、
これでは国益に反するし、国民が気の毒だと心から憂いています。

【今回のまとめ】

歯を削って修復すると悪化しやすくなり、歯を失う原因になるので、的確な対策が必要。

2011/06/16 09:06 | nemoto | No Comments