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先日、東北地方のある地域に、楽器講習会の講師として伺いました。
楽器講習会は全国で行われており、主催者によってはあまり報酬が出せない理由から音大生が指導に行く事も多く、実際僕が初めて講習会の指導をしたのも音大生の時でした。ただ、音大生は演奏する技術こそ学んでいますが、教えるスペシャリストではなく、また経験値も少ないのでどうしても視野の狭い指導になりがちで、当時の自分の指導を思い返しても、やはり恥ずかしくなるような内容だったように記憶しています。
今回は有名楽器メーカー主催の講習会で、現地の楽器屋さんがある学校を貸し切り、その地域の吹奏楽部の高校生を集めて演奏技術を伝える場で、指導者はプロの演奏家が多く、僕はコントラバスの講師という訳です。
実は昨年の11月にもこの講習会に講師として参加し、今回はこの地域2度目。「前回とほぼ同じ参加者です」と聞いていたので、前回教えた生徒たちの上達を期待して向かいました。
では、前回のレッスンで何を伝えたかと言うと・・・
①楽器の管理、状態の確認
②楽器の構え方
③右手(弓)の基本フォームや練習方法
④左手の基本フォームとその意味、ポジションの取り方
本当に基本中の基本。
同時に、情報が溢れている首都圏の子と違って地方に行くと「自分の担当している楽器にどんなプレイヤーがいるか」も知らない、それどころか、同じ吹奏楽の世界にプロの団体があることすら知らない子が多いので、前回は「世界には、日本にはこんなコントラバス奏者がいますよ」という解説や彼らの演奏をチェック出来る動画サイトのURL、さらにプロの吹奏楽団の名前などを記した紙も渡し、積極的に知識や情報を得るきっかけにしたのでした。
さて、では今回どうだったのかというと、結果は、とても残念なものでした。
「はい、では前回僕が伝えた右手の5つのポイントはなんだっけ?」という質問に対し、初参加や前回体調不良で早退した子を除いて、ほとんどの子が答えられませんでした。そのポイントは「場所/圧力/角度/速度と量/配分」というもので、そんなに出て来ない言葉でもないと思ったのですが・・・。
さらに、「左手の基本フォームの意味」も重要ポイントとして説明したはずでしたが、これも回答者はゼロ。つまり、やっている事を具体的な理由を理解しないまま、ただ機械的に練習しているのだという事が分かります。
がっかりしながら前回伝えた事をもう一度説明し、さらにもう一歩先に進むための教材を渡したのですが、ここで「前回渡した資料を持ってきた?」と聞いたら、持参した子は1人だけ。さらに、購入を勧めた僕の著書も、もちろん誰も購入していませんでした。
もしかしてと、会話しながらさりげなく「あの動画見た?」と聞いてみたら、動画もCDも、誰も聞いていない。当然、コントラバス奏者の名前も、プロの団体の名前も一つも出て来ない。吹奏楽部でありながら、東京佼成もシエナも知らないのです。彼らは、自分たちの学校の吹奏楽部という、恐ろしく小さな世界で音楽をやっていないのだなと気づかされました。当然、上のレベルを知らないから、いつまでも初心者同然の技術で満足してしまっているのかもしれません。
「今のきみたちは、100m走で例えたら5mくらいしか進んでない」と現在地を教え、「またこの場所に来るから、今度はきちんと説明出来るように頭で理解してね」と伝え、「情報や知識、技術は教えるけど、練習を実践するのは自分なんだよ」と話して終了しましたが、どこまで伝わったかな。
改めて、定期的なレッスンの重要性を知るとともに、僕には「練習する気にさせる力」が足りないのかな、とも感じました。音楽やスポーツの指導者の言葉や練習方法を研究してはいますが、まだまだ勉強が必要なのかもしれません。
人を教えるというのは、本当に難しいですね。