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こんにちは。根本齒科室の根本です。
遅くなりましたが、本年もよろしくお願いいたします。
さて、今年から国民の皆様に朗報があります。
待ちに待たれて10年以上、やっとですが、
「ファイバーコア」
が保険適用になりました。
これはいったい何でしょうか?
◆ 「コア」って何?
簡単に言うと、「コア」というのは、歯の土台を作るための芯材です。
コアは「コア部」という頭と、「ポスト(又はダウエル)部」という足部分でできています。
むし歯で頭が朽ちてしまったりすると、土台を立ててかぶせなければなりません。
昔は、かかしのように芯棒のついた人工修復物を差し込んでいました。なので現在でも人口修復物一般を「差し歯」と表現します。
しかし、一体型は安定性が悪いので、例外的に上下の隙間が少ない前歯などを除いては、現在ではほとんど用いられなくなりました。現在は「コア」を土台にはめて、その上から「かぶせ物」の型を取ることが一般的です。
「コア」にはさまざまな素材が用いられてきましたが、最近は、保険外診療だとこの「ファイバーコア」と、保険の範囲内では、銀合金で鋳造した「メタルコア」、口の中で光で固まるプラスチックペーストと「ネジ」で作る「レジンコア」がありました。
◆ 神経を取ると歯は変質する
神経を取った歯は、長期的に乾燥して、もろくひびがはいりやすくなります。
また、メタルコアは、歯の象牙質よりも硬く、また弾性係数(≒バネ定数)も高い(=曲がりにくい)のです。
これらより、強い力がかかると、メタルコアのポスト先端からひびが入って、歯を縦に割ってしまうことが多かったのです。割れるときは、あるときバキッと逝くこともありますが、無症状のまま推移して、どうも最近膿が出やすくなったとか歯が揺れるような気がするといってレントゲンを撮って判明することも少なくありません。
ちなみに、歯が縦に割れてしまうと、保存不能です。
ですからメタルコアのトラブルは、歯にとって致命的です。
それでも昔は「歯の寿命」みたいに捉えられていました。
だから私はメタルコアが嫌いでした。
◆ 変質した歯に優しいファイバーコア
これらにかわる「ファイバーコア」のしくみはというと、簡単に言えば、
◇ファイバーポスト
◇被覆材
の2種類からできています。
「ファイバーポスト」というグラスファーバー製の芯材を、特殊なプラスチック(繊維成分の多いプラスチック)の被覆材で接着性に覆って作成します。
「ファイバーポスト」は、さらに簡単に言うと、釣竿の先端と同じようなものです(釣具屋で釣竿の先端だけ買ってきて、コレを自作していた奴の話を、以前ときどき聞いたことがあります。一応歯科の材料は薬事を通ったものでないといけないという規制があります・・・)。
そして、ファイバーコア専用の被覆材の中には、グラスファイバーの細かい繊維がたくさん混入しています。ポスト部はほぼこのハイブリッド素材になります。
ファイバーコアは、以下に述べるように、大きく2つの利点があります。
◇根にやさしく、根が割れにくい
◇半透明なので審美的である
根に対して優しい理由は、弾性係数が象牙質のそれとほぼ同じなので、歯を割りにくい点です。
また万一想定外の強大な外力がかかったときに、自らが壊れて歯の根に被害が及ばないようにする性質もあります。
金属だとこうはいきません。ひたすら歯の根を壊す方向に働いてしまいます。歯よりも曲がらないので、ポストの先端から縦に歯を割ってしまうのです。
ファイバーコアのこのような歯質保護の性質は、我々にとっての大きな魅力でもあり、(保険が利けばいいのに)、といつも思っていました。銀合金の「メタルコア」は歯に対する負担が大きく、残り少ない歯やかむ力の強い人の歯ではしばしばトラブルの元でした。
◆
でも当時は保険が利いていなかったので、自由診療でやるしかありませんでした。
そこで、何とかご理解を得ようと、ファイバーコアのチラシを作って院内で配っていたこともあります。
文章を、以前のチラシの原稿から抜粋してみます。
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当歯科室にも、差し歯が取れたといって来院される方がいらっしゃいます。
よく見ますと、残った歯の根が切り株状に腐っており、歯にヒビが入って割れてしまっているものも少なくありません。残念ですがそうなると基本的には抜歯になってしまいます。どうやら、金属の土台によって長年にわたり歯にヒビが入った状態になり、そのすきまから長期的にバイキンが浸入、ついには割れ目まで虫歯になってしまっているようです。
神経を取った歯は、補強するために「コア」という土台をいれ、その上から冠をかぶせる方法が一般的です。しかしやはり、神経を取ると歯は枯れ木のようにもろくなりますので、どのような形と材質にすると歯が割れにくいか、ということが長年研究されてきました。
ごく最近になってようやく厚生省に認可されたこの特殊なグラスファイバーは、たわみ具合(弾性率)が天然歯と同程度で、非常にしなやかで丈夫、金属と違い、歯が割れません。万一のときも自分が壊れて歯の根を守るクラッシャブルゾーンとしての役割もあります。
色調が半透明のアイボリーなので、光の透過性が非常に歯と似ており、金属を用いないオールセラミックスと併用することで従来の差し歯では考えられないような審美性と自然な感じを獲得することができます。
欠点は、保険のルール上、ファイバーコアを装着すると、その上のかぶせ物だけ保険で、ということができないことです。
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今から見ると、何かカッコつけたイケすかない文面ではありますが、まあそういうことです(個人事業主になって全部背負ってしまうと、この程度の衒(てら)いなどどうでもよくなってしまう)。
また、保険の歯ではあまり用がないことですが、ファイバーコアは半透明の色調です。金属を裏打ちに使わないオールセラミックなどでは、歯の色味の深みなどをうまく表現できます。金属裏打ちタイプの場合は、まずその裏打ちの金属の色が透けて暗くならないように「オペーク」という不透過性の強い色を塗ります。このせいで、歯の色味の深みがうまく表現できず、不透明感の強い色調になってしまうのが欠点でした。
こんなところも、ファイバーコアの得意技です。
ただ、特殊な例ですが、根が斜めになってしまっているので、何とか歯を作るために、歯の頭のむきだけまっすぐにしたい場合があります。このようなときは、鋳造で作らないと傾斜させることができないので、芯材の直線的なファイバーポストが使えません。まあきわめてまれな例です。
当院では、ファイバーコアは以前から(もちろんCn治療以前から)私が自ら作成しています。(この人にはファイバーコアを入れたいのに)とおもいつつも、保険が利かないので泣く泣くメタルコアを入れていたこともありましたが、これでそのような思いも一掃できそうです。
【今回のまとめ】
ファイバーコアが保険適用になり、国民の差し歯の寿命が延びそうである。