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日本でも新聞各紙やネットニュースなどで報道されたようなので、
ご存知の方も多いと思うが、サッカー・ブータン代表が、
2018年ロシアワールドカップアジア一次予選を勝ち抜くという、
ブータンサッカー史上初の偉業を成し遂げた。
前回記事で、「ブータンにとって、初めてのワールドカップ予選への参戦、
という歴史的な瞬間となる」と書いたばかりなのだが、
まさか、二次予選に進むというさらなる歴史的快挙を達成するとは…
が、日本での報道も、また、BBCなど各国報道を見ても、
ブータンがFIFAランキング最下位、という点にフォーカスした、
「世界最弱国の下克上」的な扱い以上でも以下でも無かった。
FIFAランク最下位、“最弱”ブータンが連勝で初のW杯1次予選突破│SOCCER KING
http://www.soccer-king.jp/news/world/world_other/20150317/292261.html
そこで、曲がりなりにもブータンを専門に扱う本コラムでは、
この話題に関して、どこよりもディープな記事を目指したいと思う。
書き始めたら恐ろしく長くなったので、前後編に分けてお届けする。
第1戦、番狂わせの序章
ワールドカップアジア一次予選は、アジアの中でもランキング下位の国、
ブータンを含む12か国が、抽選により決まった相手1か国と、
ホーム&アウェイで2試合を戦い、勝ったほうが二次予選に進出する、
という非常にシンプルな仕組みになっている。
ブータンは、対戦相手がスリランカに決まり、
3月12日にアウェイ(スリランカ)で、3月17日にホーム(ブータン)で、
それぞれ試合を行うことになった。
第1戦が行われたスリランカの首都コロンボは、高温多湿であり、
また、これまでの両国の戦歴からも、スリランカ圧倒的有利、
という下馬評であった。
ブータンは、4-1-4-1という守備的なフォーメーションを敷き、
予想通り、スリランカの猛攻を凌ぐ時間帯が続く。
ただ、ブータンも防戦一方ではなく、時折、カウンターから、
スリランカのゴールを脅かす機会もあった。
全体を通してみれば、試合自体はやや大味。
ロングボールの蹴り合いに終始していた感は否めないが、
それでも、お互いにゴールに迫るシーンが多く、
ファンからすれば、一喜一憂しながら楽しめる試合であった。
試合が動いたのは、後半39分。
攻撃的MFのツェリン・ドルジ (Tshering Dorji) が値千金のゴールを決め、
そのまま、1-0でブータン代表が勝利を収めた。
第2戦、ホームで迎えた歓喜の瞬間
ブータンは、アウェイゴールという大きなアドバンテージを得て、
しかも、ブータンにとって有利な標高2,400mという高地にある、
首都ティンプーで第2戦を迎えることになった。
5-1-3-1という攻撃的(?)フォーメーションを敷いたブータンは、
第1戦とは打って変わって、試合開始から果敢に攻めに出る。
そして、それはすぐに結実し、前半4分、縦パスから抜け出した、
CFのチェンチョ・ギェルツェン (Chencho Gyeltshen) が、
角度の無いところから爪先で合わせたボールがゴールに吸い込まれ、
ブータンが先制に成功した。
その後、スリランカの反撃を許し、同点にされたブータンは、
あと1点取られると、アウェイゴールの差で敗退の危機に。
その後、前半は一進一退の攻防が続いてハーフタイムを迎えた。
後半も半ばを過ぎると、高地の影響からか、
スリランカ代表の足が止まり始めると、ブータンは、再三、
GKと一対一のチャンスを迎えるも決めきれず、逆に後半41分、
一瞬の隙を突かれ、決定的なヘディングシュートを許してしまう。
これを、ブータンのGKがかろうじて弾き出して事なきを得ると、
そのすぐ後の後半44分、FKのロングボールから、
再び抜け出したチェンチョが、DF2人を振り切って右足を一閃。
GKの脇をかすめてゴールに突き刺さり、決定的な2点目が入った。
このまま逃げ切ったブータンが、2-1で勝利を飾った。
なお、この試合の模様は、BBS (Bhutan Broadcasting Service) が、
生中継し、全試合をYouTubeに掲載しているため、
もし興味がある方がいれば、ぜひご覧いただきたい。
この試合、2得点を決めたチェンチョ・ギェルツェンは、
Bhutan Today紙によれば、「ブータンのロナウド」と呼ばれる、
期待の若手プレイヤーらしい。
また、Kuensel紙によれば、試合当日風邪を引いていたらしいが、
真偽のほどは不明である。
FIFAランキング最下位から脱出
ランキング174位のスリランカを、209位のブータンが倒した。
これは、ランキングの上ではもちろん番狂わせの部類に入る。
ただ、試合を見る限りは、両国にそれほどの差は無いように感じた。
現行のFIFAランキングの算出方式では、150位以下の順位は、
試合数や対戦相手に左右されやすく、あまり意味が無いとも言われる。
裏を返せば、今回はたまたまブータンが2連勝したが、
スリランカが連勝する可能性だって十分にあった、と言える。
ところで、ここで2つの勝利を積み重ねたことで、
来月発表される、新しいFIFAランキングでは、ブータン代表は、
かなりのジャンプアップが期待できる。
というのも、ワールドカップ予選は、単なる親善試合等と比べて、
ランキングポイントに与える影響が極めて大きく、
ここでの2勝は、親善試合の5勝分くらいの価値に相当する。
ちなみに、筆者が試しに計算してみると、
127.5 というランキングポイントがはじき出された。
これを、現行ランキングに当てはめると、
156位インドネシア(129)と157位香港(127)の間に入る。
まさかの50位以上の大飛躍を遂げることになる。
もちろん、他国も変動があるため、そう単純にはいかないが…
ただし、先にも述べた通り、150位以下の順位は、
あっという間に上がったり下がったりするため、
大事なのはこの後、であることを申し添えておきたい。
なお、もし計算違いがあっても、そこはご容赦いただきたい。
細かい計算方式は、興味のある人は下記を参照されたい。
なお、正式なFIFAランキングは、4月9日に発表される。
Men’s Ranking Procedure│FIFA
http://www.fifa.com/fifa-world-ranking/procedure/men.html
二次予選は日本と対戦の可能性も!?
さて、ブータンが勝ち進んだ先に待っているアジア二次予選とは、
いったいどんな戦いになるのだろうか。
一次予選で勝ち進んだ6か国に、一次予選を免除された34か国が加わり、
計40か国が、抽選によって8組に分けられて争われることになる。
ホーム&アウェーの総当たり戦(各チーム8試合ずつ)を行い、
各組1位8チームと各組2位のうち成績上位4チームの計12チームが、
アジア最終予選に進出できる。
もちろん、この40か国の中には、日本や韓国、オーストラリアなど、
アジアの強豪がひしめいている。
抽選は、FIFAランキング上位同士が同じ組に入らないように、
ランキング順に組分けされるため、ブータン代表は、
自身よりランキングがはるかに上のチームと対戦することになる。
組み合わせ抽選は4月14日に行われる。
ブータン代表と日本代表との対戦が実現する可能性は1/8。
万が一、日本との対戦が実現した暁には、
旅行代理店と組んで観戦ツアーを企画しようと思うので、乞うご期待。笑
(続く)