突然だが、この4月から、早稲田大学で助手に嘱任することになった。
というわけで、これまで「脱サラ大学院生」という肩書きで書いてきた
このコラムも、若干のリニューアルをしようかと思っている。
が、新しい肩書きにまず悩んだ。
「大学助手」ではなんか格好がつかない。
「ブータン研究者」がニッチでよいかなと思うが、
「研究者」という文言がどうにも引っかかる。
脱サラして大学院に進学してから、早5年。
誤解を恐れずに言えば、その当時から、いや、いまに至ってもなお、
「研究者」になろうとか、目指そうとか、そういう気持ちは微塵も無い。
好奇心を満たす手段が、たまたま研究という道と重なっただけなのだ。
人が会社を辞める理由は、きっと人それぞれだと思うが、
自分の場合、とにかく、会社勤めよりも、研究がやりたくなってしまった、
ただ、それだけのことだったのだ。
それを両立させられるほど、器用でもなかったのだ。
真摯に「研究者」を目指す人にとっては、酷く不躾な物言いだと思うが、
だからこそ、「研究者」を名乗ることに、一抹の不安があるのだ。
とはいえ、当面は良い案も思い浮かばないので、
暫く「ブータン研究者」の肩書きを名乗ってみて、
自分自身、馴染むかどうか、判断しようと思う。
あわせて、プロフィール文も以下のように修正することにした。
旧)
3年間勤めた会社を辞め、大学院生に。おそらく日本で唯一、「ブータンの情報化」について研究中。GNH研究所 研究員。ライフワークは、競馬とTVゲームと海外一人旅。
新)
3年間勤めた会社を辞め、脱サラ大学院生を経て、2015年4月から早稲田大学 社会科学総合学術院 助手に嘱任。おそらく日本で唯一、「ブータンの情報化」について研究中。日本ブータン友好協会 幹事。
「助手に嘱任が決まった」と言うと、必ずと言っていいほど、
「このまま教授を目指すの?」などと尋ねられるのだが、
少なくとも、教授を目指すことは絶対に無い。
研究という道の先に「教授」という役職があるのは確かだが、
そもそも、これは自分だけに限った話ではなく、
「教授」になりたいと思って研究の道を志す人はあまりいない。
みな、自分の研究を進める上で、より研究がし易くなるように、
そして、研究で食べていくための一つの手段として、何らかの役職を求める、
という順序であって、その逆ではない。
翻って、自分の場合、何か違う仕事をして生計を立てながら、
趣味やライフワークの範囲で細々やっていく、でもいいと思ってさえいる。
つまり、研究で食べていく、という覚悟を決めているわけではない。
それはたぶん、曲がりなりにも3年間、会社勤めをした経験が、
あの世界の愉しさへの僅かばかりの未練と、そして、僅かばかりの自信とを、
自分に囁きかけてくるからだろう。
もちろん、もう5年も社会人生活から遠ざかっている人間が、
そうやすやすと通用するほど、ビジネスの世界は甘くない。
ブランクを埋めるためには、研究者になる以上の努力が必要だろう。
さて、この先どう進んでいくのか、それは自分でも未だに分からない。
一つだけ。
助手になるにあたって、自分なりに覚悟をしたことがある。
これまでの自分の研究姿勢を振り返ってみると、
自分が気になったことをとことん追求したい、ただそれだけ。
先人が何を考え、どんな足跡を残したのか、さっぱり興味が湧かなかった。
その結果、研究者としては致命的なほど本を読まなかった。
たぶん、根っからのフィールドワーカーなのだろう。
この3月、ブータンへ調査旅行で訪れた際にも、
現場にいる、ただそれだけで、モチベーションが湧いてくる。
そんな体験が度々あった。
逆に、自分にとって、最もやる気が起きない場所は、自宅だ。
現場から最も遠い場所、だからだろう。
安心するとか気が休まるとか、そういうことでもなく、
ただただ、負の磁場に取り憑かれたように、やる気を吸い取られていく、
そんな感覚に包まれる。
そんな放浪癖とも言える性質こそが、
自分を書物から遠ざけている一番の元凶のような気がしている。
先行研究という蓄積が、研究者にとって死ぬほど大事であり、
その上に自分のオリジナルの研究を積み重ねていくことに、
自身の研究意義を見出していく、という一連の系譜こそが「研究」
と呼ばれるものであるならば、自分がこれまでやってきたことは、
研究ではなく、あくまでも趣味の範疇だったのだろう。
ただ。
だからこそ。
さすがにそろそろ、本くらい読もうと思う。
覚悟、なんて大それた言葉を使っておいて恐縮だが、
「人並みに本を読むこと」を、自分自身の当面の目標としたい。
研究者が向かないから、ビジネスの世界に戻る、
という後ろ向きな転身だけは是が非でも避けたい。
そんな、中途半端な矜持が、そんな気を起こさせているのかもしれない。
とはいえ、何かしら努力目標でもない限り、たぶん何も変わらないので、
とりあえず、このコラム上で、読んだ本のレビューでも書いてみようか。
果たして、読者にそんなニーズがあるのかどうかはさておき…