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こんにちは。根本齒科室の根本です。
恥ずかしながら、他人には偉そうなことを言いながら、自分ではむし歯をこじらせて、先般ついに歯を腐らせてしまいました。
「ベストセメント」を入れてごまかせればと多寡をくくっていたら、歯から異臭がするようになってしまい、もうたまらず歯医者の門を叩いた次第。まさにダメ患者の典型です。
何だこりゃ
ベストセメントも封鎖が甘いとほとんど意味がないですね。
もうこれは効かなかったことにして、悪いところはしっかり取ろう、と反省したりもしました。
◆ 恐ろしい歯医者選び
私が行く歯医者は決まっています。
ここで名前は出しませんが、知りたい方は上のバナー(院内新聞「種」)をクリックするとすぐに判明しますw
ここは、私が大卒ではじめて勤務した歯科医院であり、ここの院長に箸の上げ下ろし、イロハのイからみっちり鍛えていただいた私の歯科医師としてのルーツでもあり、道場でもあり、実家でもあり、そんなところです。たまたまだったのですが、ここの院長は私が東京医科歯科大学の1回生だったときの6回生です。女性医師ですが、臨床全般において習熟というか「場慣れ」しており、今見ても大変手際が良いです。その上、あきらめの悪いところがあり、絶対に取り残さないとか絶対に角を丸めきるとか、とにかく一つ一つの仕事に手抜きがありません。さらに小児歯科については認定医資格を持っており、東京医科歯科大学から難症例の小児患者が紹介されてくるほどの凄腕です。
大学「に」紹介ではない。大学「から」紹介です。
もうただ驚くばかりです。また何より性格が明るくほがらかでハキハキしており、女性にありがちな表裏が少ないタイプなので、弟子としてもとても接しやすいです。
そんな先生が自分の最初の師匠で、本当によかったと思います。
治療については自分自身でも(大体こういうことをやられるだろうなあ)みたいに予想は当然つけて行きます。多分左上の根管治療を3回くらいで、型を取って、でも対合も咬頭ハセツしてるから後でやらないと、とか。
ただ歯科の治療は再現性がないブラックボックスであり、最近はやりのAIIB(あいーぶ アジアインチキイカサマ銀行)に例えると、まさに構造的な「ガバナンス0」です。
とてもではないが「変な人間」に触らせることはできません。
「ここの院長なら大丈夫だろう」
私が駆け出しの頃のボスであった、その院長なら。。。
逆にこの先生でダメだったら、あきらめがつきます。
よくよく考えると、それでもライブでカクニンできたりしているわけではないので、「ガバナンス0」であることに変わりはありません。
そんなときに世の中で唯一頼りになるということになっているのが、「過去の実績」とか「信頼」とか呼ばれる間接的なものです。
私も弟子の立ち位置から、師匠の手の動きや仕事の進め方などは、なんどもお目にかかる機会があり、その都度勉強になったし、無駄なくかつていねいな仕事振りに弟子ながら感心の毎日でした。
でも逆に考えると、一般の方は、何を頼りに歯科医院を選んでいるのだろう?
それを考えると、背筋が寒くなります。
具体的に目視・確認できる論拠が一切ないからです。
歯科では、一切自分の治療中の状態を確認できない。
確認できないので評価はさらにできない。
こうなると、何を信じて歯医者選びしたらいいのだろう?
もう口コミとかネット・電話帳で検索くらいしか手がないですね。
一般の方々は、何を心の拠り所にして歯科医院を選んでいるのだろう?
◆ 選ぶときの心の拠り所
こう書くと、なんで根本はそんなに歯医者選びを大げさに書くのか、と思うかもしれませんが、歯科治療はブラックボックスで監督のしようがないから、出来上がった歯の治療がきちんとしていたかそうでないかは、誰も分かりません。極端な話、むし歯が残っていたり内面がガタガタでも、かぶせてしまえばバレない(根管治療とコア形成はレントゲンでばれる)。恐ろしい限りです。
また、そんな不透明性そのものが(故意または過失による)いい加減な歯医者が淘汰されない原因になってしまいます。結局(自分の実感では)何割ものオーダーで存在できてしまっていると見ています。
早くて痛くなくてやさしい先生と言うだけでよいのだろうか?
「かぶせてしまえばバレない」でない保証はどこにあるのか?
ホントはダメですよね。
そんなときは、やはり過去の「実績」を信用するしかない。
「○○さんがやって具合が良い」
「○○年の経営実績がある」
こういうところしか判断材料になりません。
だから大手や老舗は商売に強いんですね。
これは私も同じです。
いくらそこの院長を良く見て知っていると言っても、実際に自分がやられている瞬間はいちいちライブで監督することはできません。
それでもその院長は、途中途中でまめに合わせ鏡で見せてくれたり、レントゲンを見せてくれたり(見た内容についての説明は当然省略)と、その辺の配慮がていねいなのでありがたいです。
というか、そのクセが幸いにも弟子時代の私に「感染」していたようです。
◆ いつもやってることをやられる側から見て
当然ながら、治療すべき部位と手技のステップは、私が普段やっていることに照らし合わせてほとんど完全に理解、というか院長と共有しているレベルで治療を受けている。
次何をするか、そうするとどうなるか、というのは全部分かっているので、当然ながら院長からのかみくだいたような説明は全くと言っていいほどない。その場その場で専門用語がぱぱっと出てくる感じ。
こんな患者は、ほんとうにやりにくいと我ながら思うんですが、それでも嫌な顔ひとつせず昔のように気さくにかつていねいに治療していただけるのは本当にありがたいです。
大体が私のような(保険者が歯科医師国保の第一種)保険証を持っていて、いきなり知らない歯科医院の受付で出したら鬱陶しがられること請け合いです。私だってそれをやられたら(何で知り合いのところでやってもらわないで、いきなりうちなんかに来たんだろう?)と怪訝に思いますよ。
[1]根の先に神経が生き残っている?
さて、まずは左上の歯を腐らせてしまった部分の根管治療からです。
神経が腐っているので、理屈の上では麻酔は要らない予定でしたが、根尖付近のファイリング操作ででわずかにぴりっと違和感がすることが分かりました。
(これは残髄か?それとも側枝か?)
これは自分がびっくりしました。
[2]歯肉なのに冷たいものがしみる感じ?
手前側(写真で言う左側の部分は歯肉縁下マージン(歯肉ラインよりも下に歯の根のヘリがある))を削って歯肉に触れたときに、神経に触ったのと似たような感覚がありました。
*[1][2]については確たることは言えないが、こうかもしれない。
歯の神経の説明図は、通常まっすぐに歯に向かっているが、実際は根尖部2ミリ程度のところまでは「側枝」といって、横から歯に入り込んでいる神経も少なくない。
なので、神経を取ったはずなのに、治療でこすると少しピリッとすることもあるわけだ。
ところで、歯は骨に直接癒着しているわけではなく、「歯根膜」というスジを通じてこびりついている。ここに「側枝」の一部がさらに入り込んでいるのではと思われる。
なので、歯根膜に炎症が外から波及するような状態、たとえば仮歯のバリが食い込んで歯の回りが腫れている状態のときなどは、刺激で「しみたような感じ」がすることがしばしばある。
また、そのような歯肉縁の場所に対して、いわゆる楔状欠損に伴う象牙質知覚過敏ではないのに、しみた感じがすると患者様が訴えられるケースがしばしばある。
(これのことか)と、我ながら勉強になった。
[3]麻酔を刺したところをなめると相当苦い!
歯科の麻酔を歯肉に行なうと、一次的にぷくっと水ぶくれのようになりますが、その中央、ちょうど針を刺した部分の上を舐めるとそこだけすごく苦いのでびっくりしました。
また周辺の頬や口唇などにも効いてくるんですが、あの違和感はいわば「殴られた後のジーンとする感じ」に非常に似てます。これは患者様には精神的に結構不快だろうと思いました。
[4]ドリルの音が相当五月蝿い。
これは久しぶりにやられてみて、改めて痛感しました。
ドリルにはタービン(や5倍速コントラ)とコントラという2種類に大別されます。タービン(や5倍速コントラ)のほうは早く回転するので、ドリルの尖端には一般的にダイヤモンド粉を吹き付けてあります。
これがうるさいんです。
「キーン」という音よりも、ドリルが歯に当たったときの「カーッ!」という摩擦音がすごい!
こりゃ一昔前にレーザーが流行ったわけです・・
[5]削った面を舐めたら耐水ペーパーのようでした。
いわゆる土台を削って形作り(別名PZ)をして型を取れるようにする処置があります。もちろん上から最終的にかぶせるわけですが、削りたての土台を舐めると耐水ペーパーのように強い摩擦力を感じたのにはびっくりしました。面白かったので何度も舐めてみました。
また、数分するとその摩擦力を感じなくなってきます。これは唾液の中のタンパク質や獲得皮膜などで覆われてしまうからだと推察されます。
そこの院長先生は、また形成(削ること)の手際がとてもよかったのでそれにもびっくりしました。
(あれっ、もう終わったの?)と思って取った歯型を見てみると、しかし、過不足なくバランスよくPZされており、失礼ながら弟子のクセに感心してしまいました。
俺も頑張んねぇと
[6]シールがしみた
削ったところを簡易的に詰めたりかぶせる材料で「○○シール」という材料がよく使われます。もっともメジャーなのは「デュラシール」というものですが、硬くなりすぎるのが欠点で、私は別のメーカーのものを主に使っています。
製品は粉(ポリマー)と液(モノマー)でできてます。使用法は専用の筆を液に浸し、粉のカップに筆先を触れることで、筆に玉のように混合体がついてくる(筆積み法)ので、その「玉」を覆いたいところに置いてきます。
「仮封は自分でやっといてね」という院長の大雑把な優しいご宣託により、我孫子から佐貫に戻った後、自院のシールで鏡を見ながら仮封しようとしたところ、いきなり「ビリッ!」と口角に鋭い激痛が走ったので驚きました。
よく見たら、液(モノマー)が口角のアカギレのところに触れたようです。
これってこんなに痛いのか!
その他、日頃非常に気軽に行なっている処置ながら、もしかしたら患者様に非常に苦痛を与えてしまっていたことがあったかもしれない、と、強く反省しました。
◆ 初回いきなり待たされて・・・
なぜ予想していたほどイラつかないのか?
その辺は後篇にゆずります。
【今回のまとめ】
自分が治療を受ける側になってみて、改めて学ぶ点が多かった。