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時代物のお芝居を見ていて、よほどギャグ的な場面でない限り、その時代にある筈のない現代的なものが出てきたら、やはり興醒めしてしまうと思います。
そして、歴史に詳しいお客様が、その知識上、その時代にはあり得ないと認識しているものが出てきても同様です。
例えば、江戸時代を舞台にしたチャンバラでは、刀を上から帯に挿し込む様に装備していますが、もっと過去に遡ると、刀は帯の上方向からではなく、下方向から入れ込んでいた時代もある様で、ちょっと知識のある人が、その時代にそぐわない刀の備え方を見ると、頭の中でツッコミを入れたくなってしまうかもしれません。
時代考証に合わないポイントを見つけると、それが気になってお芝居に集中出来ないなんてこともあり得ます。
気にならないお客さんは気にならないにしても、その時代の作品に興味を持つからこそ劇場に足を運んでくれたお客様をがっかりさせないためには、やはりその時代のことをきちんと調べた上で上演することが必要で、そういうことをきちっと行なうということは、それだけ良いものをつくることに対するモチベーションが高いということですから、作品そのもののクオリティに影響すると思います。
しかし、その時代の様子を100%リアルに再現することは、どんなに予算があっても不可能ですし、あまり時代考証にこだわり過ぎると、逆に、見栄えが悪くなったり、内容が理解しにくく、面白みがなくなってしまうこともあるかと思います。
いくら時代に忠実だからといって、お歯黒という風習故に、歯を黒く塗った女性が出てきたら、やはり不気味に映ると思いますし、言葉遣いや官職による相手の呼び方などを忠実に再現したら、何を喋っているのか意味が分からなくなるかもしれません。
現代人が見ても楽しめることを前提に、予算上用意出来る可能な範囲でその時代の雰囲気を再現するというバランスはなかなか難しいと思います。
それでは、歌舞伎などの古典的な芸能は、古くから伝わっているものなのだから、時代考証が完璧で、その時代の風俗をリアルに再現しているという印象があるかもしれません。
しかし、演目にもよりますが、そうではない作品も少なくない様です。
歌舞伎の三大名作と呼ばれる「菅原伝授手習鑑」「仮名手本忠臣蔵」「義経千本桜」は、それぞれ平安時代、室町時代、鎌倉時代が舞台になっているかと思いますが、登場人物の風俗はあから様に江戸時代です。
それでも、我々がそれらの作品を観て、時代考証がおかしいとツッコミたくなる気持ちはあまり起こらないと思います。
それはそれで、統一された世界観が出来上がっているために、違和感無く、受け入れられるのでしょう。
ですから、時代物のお芝居で、どうせリアルにその時代を再現出来ないのなら、いっそのこと、全部オリジナルにしてしまうというのもありかもしれません。
衣装として着物を用意することが予算上難しいのなら、全員着物をイメージした和テイストな洋服で出てくるとかでも、それが世界観として出来上がっていれば、そういうものとして入り込めるでしょう。
イギリスでシェイクスピア劇が上演される際にも、登場人物が皆現代のスーツ等で出てくるようなこともあるそうです。
「時代考証は必要か?」というタイトルですが、きっちり時代考証した作品が魅力的なこともあれば、とことん無視したオリジナルな世界観が面白いこともあるかもしれません。
次回は、「ジャンクステージ連載を振り返って」(雑感)をテーマにしたコラムをお届けします。