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2014/11/27

m282

久しぶりに降り立った駅は、記憶の中よりも寂しく感じた。
と言っても、子供のころにほんの五年だけ住んでいた街だ。記憶の中で美化されていたのかもしれない。
まだ自分の足で行ける範囲だけが世界だったころ、駅前といえばなんだかひどく都会に感じたものだったけれども。

記憶にない店ばかりのアーケードを通り抜けると、目的のホテルはすぐそばだった。
荷物を預けてもまだ開始時間までは余裕がある。
ふと思い立ったのは学校に行ってみようかということだった。
僕はその思いつきに従い、うっすらと覚えのある道を慎重にたどりながら、かつての学び舎を目指して歩き始めた。

 

連絡は学級委員長だった男からもらった。
最近SNSで再開を果たした彼はかつてのあだ名で僕にメッセージを寄越し、クラス会をするからと連絡をくれたのだった。

僕にとっては初めてのクラス会だ。
転勤族の父親を持ったせいでひとつの土地に長くいたことがないが、ここだけは中学生時代をまるまる過ごせた。
当時は携帯も持っていなかったし、実家と呼べるものもない我が家だったから、こうして連絡が取れるようになったのは殆ど僥倖というものだろう。聴けば今は当時のクラスメイトの大半がSNSで繋がっていて、それぞれの近況も分かるようになっているのだという。
そんなことを委員長はメッセージのやり取りで教えてくれ、僕もさっそく参加の意思を伝えたのだった。

 

大通りを過ぎると、とたんにベッドタウンが広がる。流石にあまり変わり映えのしない風景のなかの、見慣れた道を選んで歩いた。
あの頃自分たちが住んでいた団地の前は綺麗に整地されてずいぶん高さのあるマンションになっており、なんとなくすうすうするような気持ちで脇を通った。こうして元住んでいた場所に戻るのはこれも初めてで、残っているとは思わなかったけれどあっさりと消えてしまったのもなんだか浮気相手に結婚されてしまったような気分だ。

変な気持ちのまま記憶の中より微妙に整備された通学路を進む。
はがれかけたスクールゾーンの文字をたどると、思いのほか早くに楓並木を発見した。見事に紅葉したその並木は卒業生たちが一本ずつ植樹したもので、この中のどこかに自分が植えたものもあるはずだった。まだ苗木のうちに植えたからそう大きくはなっていないはず……などと思いながら目を走らせると、グラウンドの隅のほうに比較的細い木の群れが見えた。
校庭は施錠されていて入れないが、ぐるりと回ってみると平成…卒という文字の向こうに見覚えのある校舎と、見知らぬ校舎が立っていた。

記憶の中の校舎はひとつだったはずだ。四階建ての、最上階が図書室だの化学室だの家庭科室だのが入っている、歩くと床が少しきしむような板張りの廊下。老朽化が進んで新しく立て直したのか、それとも古いほうも現役なのか、そんなことを思いながらこれは変わらない時計台の針が動くのを漫然と眺めた。

真っ赤な楓が、ざわざわと揺れる。あと15分したら、会場に向かおうと思った。
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*今回の画像は「Photolibrary」さまからお借りしました。

 

2014/11/27 12:19 | momou | No Comments