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僕は普段オーケストラとレッスンを中心に活動している訳ですが、オーケストラの曲を練習するにあたり、どうしても楽譜が必要になります。今回は、その楽譜をどのように準備するか、というお話。
オーケストラの楽譜は、通常「ライブラリアン」という方が管理しています。多くの場合ライブラリアンが事前に楽譜を入手し、プレイヤーが音を止めること無く演奏出来るように譜めくりをし易く工夫して下さったり、指揮者の指示を書き込んでくれたりしています。
その楽譜が置いてあるライブラリーはだいたいオーケストラの練習場や事務局内にあります。どの楽団もコンサートホールなどと提携してそちらを本拠地としており、そこへ行けば楽譜が手に入ります。例えばNHK交響楽団は泉岳寺の専用練習場、東京都交響楽団は上野の東京文化会館、東京交響楽団は川崎のミューザ川崎シンフォニーホール、新日本フィルは錦糸町のすみだトリフォニーホールなど。楽譜は公演別・パート別に整理されており、演奏者はそこから必要な楽譜を抜いてコピーし、原譜を元の場所に戻す手順になっています。
ですから、オーケストラの楽員さんは所属楽団のリハーサルついでにちょっと先の楽譜を入手出来るのですが、我々フリー奏者はそうもいきません。よく演奏される有名な曲ならば過去に使用した楽譜が自宅にあるので、わざわざホールに行ってコピーする必要はなく、自宅で練習しておいて対応可能ですが、普段あまり演奏した事のない曲や過去に演奏経験のない曲については楽譜が無いと練習出来ません。そこで、各ライブラリーに行って楽譜をコピーする必要が生じてきます。
最近は無料でオーケストラスコアやパート譜を閲覧出来るインターネットサービスもあるので、緊急時にはこちらで音符だけ確認する事もありますが、弦楽器の場合は「弓順」が決まっており、オーケストラによって微妙に変わってくるので、万全の準備をするなら事前にその楽団の楽譜を見ておきたいのです。それに、著作権に関わる楽譜はネットでも閲覧出来ません。
しかし、いきなりライブラリーに行ったところで楽譜の用意が無い場合もあります。そうした時間の無駄を無くすために我々は事前に事務局に電話を入れます。名前、パート、そして公演名を告げると先方が楽譜の所在を確認して下さり、あると分かればコピーに向かいます。まだ準備が無ければ何時頃揃うか一応聞きますが、そうした場合楽譜がレンタル譜(著作権が切れておらず、出版社が貸し出す楽譜)の場合が多く、ここで正確なお返事を頂けることはあまりありません。こちらとしても他のリハーサルの合間に練習時間を確保するので、だいたい公演1ヵ月前には楽譜を入手しておきたいのですが、困ったことに事務局が平日のみ、17時までしか開いていない事も多く、こちらのスケジュールと噛み合わなくて楽譜がなかなか手に入らない時などは本当にやきもきします。
いざライブラリーに到着してからの手順はオーケストラによって異なりますが、基本的に原譜をコピーするという手順はどこも同じ。ただ、その場にあるコピー機を使わせていただける場合と、建物外のコンビニなどにコピーしに行かなければならない場合があります。ライブラリーのコピー機でやっていれば、順番待ちをしているのは同じ演奏者なので気が楽ですが、コンビニなどでコピーする場合、順番待ちしている人はこちらの目的もわかりませんし、これがオペラの楽譜なんかだと100ページくらいあるので、気まずさは半端じゃありません。だいたいその場は「お先にどうぞ」と譲って、また再び延々とコピーを繰り返す事になります。
こういった作業を毎月行うので、コピーの知識・技術はかなり豊富かもしれません。中途半端なサイズの楽譜でも「これをA4にするには81%縮小だな」なんてのが見た感じで分かるようになります。ちなみに、コピー紙の質が良いのはセブン・イレブン。この知識、他に特に活きる場所が無いのが辛いところですが・・・・
こうしてコピーに行くのが1団体ならいいんですが、僕は普段5~6の楽団を行ったり来たりしているので、そうなると楽譜を入手するのも一苦労。だいたい月初めに丸一日何箇所か周る「コピーの日」を作り、まとめて入手するようにしています。そして痛いのが交通費。全て自腹なんです。楽団によってはコピー代も自腹。電車に乗って移動する時間も正直勿体ないですから、出来たら楽譜をpdf化して、楽団ホームページで出演者専用にpwを設定して公開してくれたらタブレットにDLしてもっと早く練習に取り掛かれるし、さらに楽団のお力にもなれるのになあと思いますが、ライブラリアンさんのお仕事を劇的に増やすことになるので、きっと実現はしないでしょう。
ちなみに、僕がよく客演しているシエナ・ウインドオーケストラや札幌交響楽団は楽譜を郵送してくれます。シエナはともかく、東京以外のオーケストラの場合はさすがに楽譜をコピーしに行けませんからね。ライブラリアンさんは大変でしょうが、こうするとこちらも準備が早目に出来ますし安心感と余裕を持って練習に臨むことが出来ます。
ある楽団に所属している僕の友人は「僕はエキストラを頼むのに、例えそれがオペラであっても、自分で楽譜をコピーして送るようにしてるよ。だって、『ウチの楽団に来て演奏して頂く』んだから。客演ってそういうことでしょ。『呼んでやってる』という感覚でいる人が信じられない」と話していました。彼は管楽器なので人数の負担が少ないとはいえ、エキストラにとってはありがたいお話です。
持ち帰った楽譜は「製本テープ」で一冊にまとめて練習します。「製本テープ」という商品名で売られているものは少々値が張るので、僕は薬局などで「不織布テープ」を購入して使っています。なぜセロテープじゃないのかというと、質が固いので綺麗に楽譜を捲れないのです。この製本のやり方にも僕は拘りがあって、高校吹奏楽部時代に恩師から教わって以来20年以上経験を重ね、かなり美しく出来るようになりましたが、文章で伝えるのは難しいのでここでは省略させて頂きます。
さて、このようにして入手した楽譜でどのように練習するか、それはまた別の機会にしようと思います。