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こんにちは。根本齒科室の根本です。
どうも最近、あクラツでさギテキでひキョウな新聞がようやくやり玉にあがりつつある今日この頃ですが、今回の話も、読み手によってはあクラツでさギテキでひキョウな話に聞こえるかもしれません。お気を付けください。。。
「金属は嫌だ」
「でも保険の範囲内でやりたいし」
歯の治療と言うと、そんな複雑な悩みをお持ちの方も多いですよね。
そんな方々に、この夏好評なのが何と、心霊?!(シンレー)治療です。
「なんだ、根本は霊能者なのか?」「イカサマだろう」
もちろん私はそちら方面は全く見えない人です。
ヒロユキはヒロユキでも、エバラではありません。
しかし、かなりの患者様方から反響をいただき、少なからぬ場合に好評だったりもします。かといえば、多くの同業者の目にとまったら批判や反発は免れないと予想される”心霊”治療。
その正体は・・・
◆ “心霊”治療の概要
最初にネタバレしてしまいます。
「コンポジットレジン(CR)インレー」です。以下Cn(シーエヌ;根本の造語)と略します。
コンポジットレジンとは、保険で小~中規模のむし歯を詰めるときに、その場で詰めて固められるペーストで、内容はプラスチックとセラミック粉末の混ぜ物です。紫外線に近い波長(450nm前後)の青い光線を当てると固まります。詰めた後に「ピーッ」と音の鳴る照射器で青い光を当てて固める、あれです。
患者様でこの治療をなさった方は「あ、あれか」と思われると思います。
これを、お口の中で詰めるのではなく、型を取ってあらかじめ模型の上で作っておくのです。このように、内側性の詰め物を、模型の上で作っておいたものを「インレー(Inlay)」と呼びます。読んで字のごとく、穴の中で横たわっているからでしょう。
最近はCRの質も向上し、先生によっても好き嫌いがありますが、商業誌や論文を見ていても、コンタクト(接触点)を含む症例や大臼歯の症例でもずいぶん適応が拡大しつつあります。
であれば、CRだろうがCnだろうが、話はほとんど同じことです。
そう、「CRインレー」をシーアールインレーと読むと、「シ ンレー」
・・・あいやぁ、申し訳ありません。
ただ、この名前を聞くだけで、まるで霊障たっぷりな悪性の心霊写真を見てしまったときのようにぎょっとする同業者も少なくないかもしれません。
というか、ほぼ1ヶ月前までの私もそうでした。
そんなにヤバいものなのでしょうか?
そんなことはありません。
◆ メリット・デメリットから固定観念を読み解く
◇ メリット
保険で白く詰めることができる
自分で技工するので納期に束縛されない
自分で技工するので技工料金がかからない
治療時間(チェアタイム)の短縮
重合収縮による歯髄反応の回避
◇ デメリット(と思われるもの)
強度にやや難あり。まれに欠けることもある
詰め物との境界線が長期的には見えてくる
技工にハマると、帰宅が遅くなる
点数が低い(安い)ので技工所に出すと赤字
①強度が出ないことへの強迫観念
見ると割とよさそうなのに、なぜ取り入れられないか。
これは単純で、メタル(パラジウム合金)の方が強度が出るからです。
というか、歯医者も人の子なので、自分が詰めた物が欠けてしまったりするのが気持ち悪いんだと思います。
しかし、だからといって金属、あまつさえ保険が利くからといって決して体に良いとは安心して言えないパラジウム合金を気軽に使う日本国内の風潮、というか世界でも極めてまれな特殊事情は、力強く疑問です。
どうしても強度が欲しい機能咬頭頂(通常は上の歯の内側と、下の歯の外側を指す)や連結部位などの場所は金属の長所が生きると思いますが、金属を使う必要のないところには極力使うべきでない、というのが私の持論です。
一般に歯科医師の気持ちは、どうしても残存歯質よりも修復物に偏りがちです。
「強度ガー」「俺の作品ガー」と思って心配になってしまうのでしょう。
しかし、CRの直接充填が何の問題もないなら、Cnはさらに問題ないはずです。
たしかにメタルインレーが欠けたりすることは、大きな鋳巣(気泡)でもない限りきわめてまれです。
その前にたいていは充填物ごと外れてきます。
歯に比べて、展延性や靱性がありすぎるので、周囲の歯の方がたまらず隙間が欠けたり、そこから接着剤が溶け出したりむし歯が侵入したりして、取れてくるのです。
また、金属と象牙質の接着がなかなか面倒なのも欠点です。最近は金属面にサンドブラストを掛けてすりガラス状の表面にしたり、接着力の高い金属用プライマーも出来てはきましたが、それでも出せる接着力の上限を考えれば、修復物はレジンやセラミックのほうが私は安心できます。
Cnの場合は、取れてくることはないと思いますが、何かあるとしたら磨耗するか端が欠ける方向に行きます(まだ当院ではそのようなことにはなっていませんが)。
その辺はメリットデメリットとして説明して、ご納得をいただければ、それでいいと思うんです。
それに、磨耗したり一部が欠けたりしても、それこそCRの要領で瞬時に修理が可能です。これも安心材料です。
また、保険レベルなので、下記のように贅沢なオプションメニューを一部割愛可能です。
そのような一定程度のデメリットを考慮しても、パラなどの金属スクラップを歯に突っ込まれるくらいならこちら(Cn)を選ぶ。
そういう方が、とても多いのです。
②自分で技工をやりたくない
これは多くの歯科医師の共通した固定観念かもしれません。
いつも技工士任せにして鋳造してもらっているので、自分は技工が下手だ、信頼性の置ける物ができない、とツイ思ってしまいがちです。
しかしCnの場合は、鋳造する必要がありません。大して難しくないんです。
とりあえずは
PKT1番
エバンス
パラフィンワックス・ワセリン
ケルヒャーなどのスチームクリーナー
DualCure typeレジンセメント(Gルーティング、パナビアetc)
あたりが必要でしょうか。
接着セメントは光・化学双方硬化型(DualCure type)のレジンセメントが必須です。
またCnは保険レベルと言うこともあり、細かなぜいたくサービスは割愛させていただきます。
裂溝は省略。セット後の咬合調整時に口腔内で彫刻
Shadeも大抵は大まかにA2で大体合う
咬合調整・研磨は、Set後(メタルなどではSet前)
分割してもダウエルピンを使わずに割面を瞬着で接着
しかしレジンセメントで接着した瞬間は、まさに自由診療のセラミックやエステニアのインレーを接着したときのような、何ともいえないあの感じです。
治療時間(チェアタイム)は大幅に短縮されます。
削る工程と詰める工程が分割されるからです。おおむね半分程度になります。
その意味では患者様は楽だと思います。
③レジンでは痛みが出るという強迫観念
重合収縮による歯髄反応とその回避について、これはどういうことか説明します。
この材料(CR)は、硬化するときに充填物全体の体積が1%程度収縮します。
直接充填するときに、強い接着力をもって硬化すると、歯の側の内面(窩洞内面)が充填物側にひっぱられる力が発生します。
これを回避するために積層充填といって、何回かに分けて詰めたりするのですが、それでも大きめの窩洞や神経に近い窩洞では、神経部分が引っ張られて、後で咬合痛や違和感がしばらくでることがあります。
(これは大抵はしばらくすると寛解しますが、長いものでは数カ月や年単位ということもあります)
しかしCRでなくCnでは、模型の上で収縮しますので、なるべく模型に合わせてから口腔内に遊びを極力作らない状態で持っていけば、歯の側の内面が引っ張られることはまずありません。これは術後疼痛の回避に大きな意味を持ちます。
上記の①~③は、私を含めて多くの歯科医師がつい気にしていることです。
しかし、固定観念にまでなってしまうと、おのずと選択肢を狭めてしまいます。
◆ 自由診療の場合
保険外のハイブリッドセラミックの場合
ちなみに保険外では、グラディアダイレクト/グラディアフォルテという、より耐久性や審美性に富んだ、CRの改良型の材料(ほとんどセラミックと言っても良いハイブリッド材料)を用います。
その場合は、臼歯部咬合麺とはいえ仕上がりの美しさも大事ですので、型を取った場合(間接法)は、ぜいたくなサービスとして、技工士さんにお願いすることになります。
費用も、当院の場合ですが
直接法(CR方式) 1万+税 「グラディアダイレクト」
間接法(Cn方式) 2万5千+税 「グラディアフォルテ」
と、差をつけています。
間接法の場合は、模型の上で十分時間と視野が取れるので、技工士さんがじっくりと職人芸でシワシワやシマシマ、その他アーティスティックな仕事をする余裕もあるのです。また重合なども大きめの機械で行うので信頼性が増すようです。
その分手間賃もかかり割高になります。
◆ 実際にはこんな感じです
実際のCn症例ではこんな感じになります。
この方は若い方で、まだ学生さんですが、残念ながら両側の下顎第一大臼歯の神経を取るハメになってしまいました。
昔ですと、神経を取った歯はもろいので、補強のためと称して、大幅に削って、全周かぶせたりしていたものです。
これですと、ほとんど仕上がりが分かりません。また強い接着力があるので、変な歯ぎしり食いしばりのクセのある方などでなければ、このようにかなり自然に仕上がります。
(我々レベルで満足の行く芸術的仕上がりよりは低いグレードですが)
もしかしたら失活歯なのでもろかったりするのかもしれません。周囲の歯よりも寿命が短いのかもしれません。
でも、今いきなり「削って全周銀歯」は嫌すぎます。
そういう状態を極力先送りして、歯質を延命することこそ、歯科医師の腕の見せ所かと思います。
細かなシワシワとかシマシマとかも場合によっては大事ですが、根本を見失いたくないものです。
◆ 自分の中の何がか変わるとき
何かが変わるときって、変なものです。
1ヵ月前、いや、1週間前まででもたいてい、下手したら、まったくそのようなことは考えなかったものです。
私の場合でも、禁煙がそうです。
禁煙する前日、まさに1月24日までは、(まさかこの俺が禁煙なんか生涯するわけがない)とまるで空気のように当たり前に信じていたものです。
禁酒もそうです。前日まで芋焼酎を毎晩3~5合飲んでいたのですから。
それが今では炭酸水ですっかり気持ちよくなってしまうようになりました。
糖質制限もそうです。
保守派(気の弱いネトウヨ日本が好きで愛している)の私は米が大好きで、毎回直火炊きの土鍋で直接炊いた米を食べていました。
それが、気がついたら、ご飯をたまに食べるとやたらと腹がもたれるようになるまでになりました。
Cnも、もちろんそうです。
Cn治療する前は、(まさかこの俺が充填物の技工なんか生涯するわけがない)とまるで空気のように当たり前に信じていたものです。
やってみると、案外当たり前になるものです。
チェアタイムも短縮したので、患者様の許容数も増加しました。
変わるって、不思議ですね。
まだまだ周知されているとはいえない心霊治療Cn治療。
久しぶりに臨床に関するコラムになりました。
【今回のまとめ】
(またまた駆け込みで薄い内容)自分が変わるヒントは身近にある。
(おまけ)
世の中いろいろな主張があります。
「あること」を、さも「ないこと」のように耳をふさぐ輩も少なくありません。
それはある程度理解しますが
伊藤律「架空」会見記事
沖縄KYサンゴ「架空」記事
従軍慰安婦「架空」証言記事
などのように、「ないこと」を「あること」として扱うのはいけません。
今回の”心霊”治療記事は、「あること」を「あること」として扱いました。