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2011/03/29

君は今日も球根を植える、
まるで大事なものが波に攫われないように、
思い出が永遠に続くように、
僕は今日も球根を植える君を見ている、
夕日に映る君の後ろ姿、
君のポニーテールが揺れて心が躍る僕、
君の息づかいが夕日に溶け合う様子を、
ため息をつきながら嫉妬する僕、
幸せそうだった昨日の君、
君が球根を植えた後に大地に残る君の指先の後、
小さくて可愛くていつまでも見ていたかった、
いつもいつも僕に花の名前を教えてくれた君、
聞いても聞いても忘れてしまう僕、
本当は知っていたのに、
知らないふりして君に花の名前を聞くときの、
君の怒った顔が見たくて、
いつも僕は君に花の名前を聞いていた、
大地に残る君と僕の足跡、
新月に願い事を御願いすると叶うと言っていた君、
月の出ない新月の闇に、
海岸を2人で手を繋いでいつも歩いた、
君が不安を感じると、
君の心はいつも僕と握った君の指先から伝わっていたよ、
そんな時は僕はいつも、
指先に力を入れて君の手を強く握り返すんだ、
君の手からは安心したように力が抜ける、
そんな時の君の横顔が好きだった、
暗い新月の夜に君の顔は見えないはずなのに、
僕にははっきりと君の笑顔が見えていたんだ、
そんな新月の散歩が好きだった、
いつまでもいつまでも君と歩いていたかった、
今はもう流されてしまった物置に置いてあった球根、
君は球根を全部植える事が出来たのかな、
それとも全部津波で流されてしまったのかな、
君は今でも植えられなかった球根の事を心配してるかな、
僕はもう君に花の名前を聞く事が出来ないけど、
君と散歩する事も出来ないけど、
君の怒った顔も見る事が出来ないけど、
君の手を強く握り返す事も出来ないけど、
春になったら、
この大地一面に、
奇麗な水仙が咲いたら、
さぞかし奇麗だろうな、
君が植えれくれて、
津波がこの大地にばらまいた球根から、
春になったら、
大地一面に水仙の花が咲いたら、
さぞかし奇麗だろうな。

2011/03/29 11:49 | watanabe | No Comments