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地球の舳先から vol.334
東北(2014)編 vol.9
鳥の声で起きた。
かつてそんな経験があっただろうか?と思う。
良く飲んだ割になんとさわやかな目覚めだろうか。
朝食をとって雄勝アカデミーに別れを告げ、港へ向かう。
大量のホヤが揚がっていた。もちろん、見るのも初めて。
ホヤの養殖は3年かかるということで、あれから3年の今年が初の水揚げとなる。
ここで、漁師さんの指導のもと、蒸しホヤにするためにホヤをさばく。
ホヤの「ヘソ」と呼ばれる部分は希少部位なのか、違うバケツに溜めていく。
切り、内臓をはがし、腸の中の排泄物を出す。
次々に水揚げされるホヤ、積み上げられるカゴ…
いつ終わるともしれない作業だが、これを少人数でやるのは大変だろう。
黙々と続く作業の中、目を盗んではさばきたてのホヤをバケツではなく口に入れる一行。
「うまい!」思わず声が出る。
見かねた漁師さんが持ってきたのは…缶ビールだった。
作業が終わると、漁船に乗り、養殖場を見に連れて行ってくれることになった。
「漁師」というとどうしても大きな船で集団で遠洋漁業を想像するが、
養殖が中心の雄勝では個人商店のようなものらしい。
まず見に行ったのは前日に悶絶した銀鮭の養殖所。
網を張り巡らした中に、何千匹といるらしい。
水面を跳ねる銀鮭。あれで筋肉がついて身がしまるのか?
続いてはホタテの養殖場へ。船に積んだ秘密兵器たちが活躍する。
捕ったホタテを機械にかけると、貝についた海藻やごみがきれいになって出てくる。
それを漁師さんがその場でむいてくれる!!!なんと贅沢なのか。
なんとも甘みがあり、とろみの中にしっかりした身の歯ごたえ。最高に美味い。
海に捨てる部位もあるが、一瞬で海鳥がさらっていく。
こうして穏やかで波の少ない(そのため養殖に向くらしい)雄勝湾クルーズを終え
鳥の集団に追いかけられながらふたたび陸へ。
湧水を貯めた水槽で手を洗う。まさに自然の中の課外授業。
日曜なのに船を出してくれた漁師さんに感謝である。
雄勝が再生され、大量の海の幸が獲れんことを切に願う。
帰京の時間も迫っていた。
石巻までの帰り道、大川小学校へ立ち寄る。
ここは、津波でほとんどの児童・教職員が流されるというまさに惨劇の起きた地。
発令が出てから50分後に津波が到達、そのわずかな間に保護者が迎えに来た
児童と、あとほんのわずかな偶然の生存者を残しほとんどが犠牲になった。
ここまでは津波が到達されないとされ、この小学校自体が避難所に設定されていた。
そのため皮肉にも普段からの避難訓練や対策が徹底されていなかったという批判もあり
生存者と学校側の説明の差異、話し合いを拒否し続けた教育委員会への不信感も募り、
3年後の2014年3月10日には、遺族団が損害賠償を求める訴訟を起こしている。
母子像が建てられ、慰霊牌が立ち並ぶ。
乗用車や大きなバスが絶えず立ち寄っていた。
時が止まってしまった光景が、そこにはあった。
動き出した未来はたくさん見てきた。
誰だって、ポジティブな方を向いていたい。
しかし、いまだ何一つ終わっていないこともまた、同じくらい沢山あるのだった。