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5度目のブータン訪問で、初めて、東ブータンへ足を踏み入れた。
(ずっと4度目と思っていたが、よく数えたら5度目だった)
首都のティンプーをはじめ、国際空港のあるパロも、西に位置しており、
おのずと、ブータン初心者の足は西へ向きやすくなる。
しかし、多民族国家であるブータンでは、
東と西で、言語から食生活まで大きく異なる。
西しか知らないブータン研究者など「もぐり」だと後ろ指をさされてしまう…
なんてことも、あったりなかったりするようだが、
とにかく、個人的に、一度は訪れなければならない地域だとは感じていた。
そもそも、ブータンは、国のサイズ自体が九州くらいしかない。
しかし、ちょうど九州を横に倒したような横長の国土を横断しようとすると、
同じくらいの距離を走る九州新幹線が1時間半程度で駆け抜ける長さを、
約24時間(12時間*2日、又は、8時間*3日)かけて車で走破する羽目になる。
ヒマラヤ山脈の南斜面に位置するブータンは、
国土のほぼ全てが急峻な山々で覆われていて、直線道路がほとんど無い。
どこまで行っても「いろは坂」を走り続けなければいけないようなもの、
と書くと、少しはその状況がつかめるだろうか。
なんか、こんなようなことを、過去にも何度か書いたような気がする。
そんな劣悪な交通事情に、さらに追い打ちをかけるのが、天候である。
夏のブータンは、雨期にあたる。
ブータンの道路は、山肌をくり抜いて作られたものがほとんどなのだが、
残念ながら、そのくり抜かれた斜面は酷く脆いため、
雨が降ると、あちこちで土砂崩れが発生して道を塞ぐ。
さらに、道路そのものが崩れ落ちる、崖崩れも頻繁に起きる。
ちなみに、崖の下は、数百m下の谷底、という場所も珍しくない。
(写真:天気がよければ、実に気持ちの良いドライブなのだが…)
どんなに広くても片側1車線、あるいは全部で1.5車線程度しかない道幅で、
土砂崩れや崖崩れに見舞われると、どうなるか。
対向車とすれ違うたびに、あと数十cmで崖下へ転落する恐怖に怯えながら、
熟練ドライバーの腕と、あとは、運を天に任せるほかなくなる。
そんなスリルが、下手すれば8時間とか12時間とか続くことになるのだ。
ちなみに、冬はというと、もっと状況が悪い。
東西を貫通する道路は、ところどころで峠を越えなければならないのだが、
この峠、日本人の感覚とはだいぶ趣が異なる。
簡単に言うと、富士山より高い峠がごろごろある。
当然、冬になると、路面は凍結してしまうため、
峠を越えること自体が不可能になる、というわけだ。
さて。
今回、東ブータンを訪れたのは7月、ということで雨期真っただ中である。
もちろん、雨期のブータンを訪れるのは初めてではないので、
土砂崩れや崖崩れは、歓迎はしないが、ある程度想定済みであった。
が、今回、最も困らされたのは、実は「濃霧」だった。
たしかに、以前も濃霧に遭遇したことがなかったわけではないが、
今回ほど、命の危険を感じたことはなかった。
霧そのものが問題なわけではない。
霧がかかることによって、上述の全てのリスクが、大体5割増しになる、
ということが問題なのだ。
霧がかかっていると、
前方に崩れてきた土砂が堆積しているか判別できない。
前方の崖が崩れて道がなくなっていることがギリギリまでわからない。
前方からやってくる対向車が直前まで認識できない。
とまあ、こういった具合になる。
普段は、峠を攻める暴走車さながらに、
S字カーブを、クラクションを鳴らしながら減速せずに駆け抜ける、
走り屋顔負けのブータン人ドライバーたちも、
このときばかりは、かなり慎重な、若葉マーク付運転手のようになる。
ただ、その慎重さを補って余りあるリスクがそこにはあるのだが…
と、ここまで、ブータンの道路事情を書き連ねてきただけで、
結構な文量になってしまったので、今回はこのぐらいで。
次回は、なぜ東ブータンを訪れることになったのか、
その理由についてお話したいと思う。