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2014/03/18

JunkStageをご覧のみなさま、こんにちは。
唐突ですが、みなさんは人魚の存在を信じますか?……なんとなく危ない人を見るような視線を感じますが、そんな方はまずこの映像をご覧ください。

過酷なはずの海中での姿の、なんと美しいことか。
まさに人魚と表現するにふさわしいこのスポーツに魅せられた一人の女性を、本日は皆様にご紹介したいと思います。

■vol.29  フリーダイバー・武藤由紀さん

――最初に壁を越えたのが「17m」。かつて10mで通行止めだったのに、海から「もっと潜ってみたら」と言われたような気がしました。(武藤由紀)

yukimuto
素潜りを競うフリーダイビングの日本代表選手。世界大会を照準に、身ひとつで体験する深海の世界や競技としてのフリーダイビングの奮闘録を執筆。
http://www.junkstage.com/yukimuto/

*  * *

アプネアとも呼ばれるフリーダイビング競技は日本ではまだ馴染みの薄い競技ではありますが、映画「グランブルー」で取り上げられるなど世界的に評価の高い競技のひとつ。潜水時間、息を止めている長さなど世界大会では様々な種目が競われていますが、詳細なルールや基礎知識はこちらの武藤さんの解説に譲りましょう。

さて、今回ご紹介する武藤さんはこの競技の日本代表にも選ばれているフリーダイバー。
国際的競技団体にも正式に選手登録を行っており、コンスタント・ウェイト競技では女子7位の-57m、フリー・イマージョン競技では-43mの記録を持っています。

先の映像をご覧になった方はお分かりかと思うのですが、これらの競技に酸素ボンベは一切登場しておりません。フリーダイビングにおける“フリー”とは酸素ボンベが無いという意味で、選手たちは完全に息を止めて素潜り状態で海に潜っている訳です。
ちなみに、深度50mでの水圧は6気圧、肺の大きさは陸上の1/6まで縮むとのこと。殆ど震えあがりそうになる数字ですが、この過酷な状況に耐えて深みを目指す姿は本当に人魚そのものです。

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しかし、この競技に挑む武藤さんは日々ストイックに鍛錬に励む超人……ではないのです。自らを「どこにでもいる普通の会社員」と表現される通り、陸上では会社員として日々ラッシュにもまれ、残業漬けの日々を送り、時には新橋で飲んだりもしている模様。

そんな武藤さんがこの競技と出会ったのは、社会人数年目にスキューバダイビングのライセンスを取得してからのことでした。先に挙げた映画「グランブルー」でその競技の存在こそ知っていたものの、最初は「青い水の中で息をとめている」という、ただそのことの気持ちよさに、最初のころは毎回ウットリしていたと武藤さんはこちらのコラムで書いています。

最初は海に阻まれたと感じることもあったそうですが、冒頭に掲げた言葉の通り、-17mの壁を突破した翌年は-30m、2009年のバハマ世界大会へ補欠選手として参加し、2011年は正式な選手としてギリシア世界大会へ参戦。2012年には真鶴で開催された大会にセーフティダイバーとして運営サイドに関わり、ニースでの世界大会にも帯同。の大会では日本女子チーム「人魚ジャパン」は金メダル2連覇を達成し、「ベストチームワーク賞(ルイック・エフェルモ賞)」の栄冠にも輝く偉業をなしとげているのです!

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▲「人魚ジャパン」チームの皆様の笑顔!

暇を作ってはプールや海へ向かい、現在はフリーダイビングサークル「リトル・ブルー」を主催する武藤さんは、ご自身とフリーダイビングについて、こんな風に語っています。

――私にとって、フリーダイビングの第一印象は「ふ~ん」だったのに、2度目の再会で惚れ直し、ノックアウトされてしまったという感じです。(2012.04.29の投稿より抜粋)

例えるならば、夢中で恋をしている人のようなこの言葉。
この人は海から招かれたひとなのだなあと、そんな風に思わせられるこの一文が、わたしはとても大好きです。

*  * *

武藤さんは2012年にはアプネアアカデミーのインストラクターコースにも参加し、ライセンスを取得。「フリーダイビングを広めるために、より深く、正しく学び直したい」という熱意を持ってこのコラムも書いてくださっているという武藤さんですが、現在は海中清掃のボランティア活動にも参加するなどその技術を活かして様々な活動を続けています。

きっかけはなんとなくでも構わない。
そう語る武藤さんの語るこの競技の魅力を引いて、このラブレターを締めくくりたいと思います。

「怖いし苦しいしその上、孤独。何故こんなことをやっているのか我ながら不思議」
と思うことがけっこうあります。
でも潜っている時、泳いでいる時、息を止めている時、
「ここでしか味わえない深い集中と安心感」に包まれる一瞬があります。
そして一番好きな瞬間は、誰もいない薄暗い海底からたった一人で浮上し、
途中で迎えに来てれたダイバーと目が出会う時。
その後しだいに海面からの”光”が強くなり、
だんだん海面が近づき体が軽くなり、水面に出る瞬間です。
「仲間がいて、光がある」ことの喜びを、全細胞で感じる一瞬。
マラソンとフリーダイビング より引用)

童話の人魚姫が恋をして人間の足を手に入れたように、海に恋した方は人魚になるのかもしれません。

2014/03/18 09:37 | sp | No Comments