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2014/03/17

m266

――この時期になると、昔のことを思い出す。

そんなことを言ったりすると大人は決まって笑うけれど、15歳にだって昔はある。思い出話は年寄りの専売特許じゃない。小学生にも小学生なりの昔はあるし、僕にだって僕なりの昔はある。
教室の窓から見えるハナミズキの花は、そんなことに頓着せずにただ咲いているけれど。

 

あの花にはちょっとした曰くがある、と聞いたのは入学して早々の時だった。
ハナミズキのてっぺんあたりに幽霊がでるんだって。いじめられた女生徒が首を吊った、というその噂はあっという間に新入生に知れ渡り、そのうちに首のない女の子が放課後その辺を歩いているのをみたとか、集合写真に知らない子が映ってるとか、そんな話がまことしやかに囁かれていた。

僕はもちろん信じなかった。口先では「まじかよ、やばいじゃん」とか調子を合わせていたけど、幽霊なんているわけないって思ってた。だって、その学校でいじめで死んだ子はいないんだから。二つ上の姉が面白半分で新聞やらネットやらを駆使して確認して残念がってるのを見てたんだから間違いない。
幽霊を見たって言ってたのは電波っぽい女子で多分人気集めの発言だったんだろうし、写真の件の出元はうちのクラスで、ずっと休んでる子がいたからまさしくいじめの対象だったんだろうと思う。僕の中学は複数の学区から生徒を取っていたから、どこかの小学校のいじめが続いていることもあり得る話だと思ってた。

知らなかったのは、それが自分の通ってた小学校で起こっていたということだ。ちょっと太りぎみのその子のことをクラスの女子の大半がいじめてた、なんて僕は想像もしなかったし、仲が良い方だって思ってた。男子は皆そうだったと思う。女子たちがよくつるんでることは知ってたけど、だからってそのつるみ方が異常だとかは判らなかったしそれが不登校の原因なんて考えたこともなかったんだ。

けど、女子はみんな知ってたらしい。写真を見て「怖い」って笑ってるのを見て、ああそうだったんだ、って。知ったからどうのこうの、ってことはしなかったけど、幽霊より怖いのは女だよなあってそんとき思った。

この話には続きがある。去年の春休み、僕はその子と校庭で会っている。あ、とお互い顔を見合わせて、久しぶりじゃん、ってぎこちなく声をかけた。その子もそうだねってぎくしゃくした感じで笑った。学校に来るの超久しぶりだから、と言ったけれど、入学式以来だから懐かしいっていうよりすごく不思議な気がした。彼女がここにいることが。

「このハナミズキ、記念植樹でうちのお兄ちゃんがうえたやつなんだ」

樹の枝を撫ででその子は言い、なんとなく部活に戻りそびれた僕のとなりでぽつぽつとその兄の話をしていた。自慢の兄で、やさしくて、今は家を出ているなんてことを僕は聞かされ、だから最後に花を見たかったんだとその子は言った。最後、ってどういうこと? 聞き返した僕に、彼女は別にと言って帰っていった。
休み明け、担任からその子が転校したってことを初めて聞いて、ああだからかってまたあとから思ったんだ。

その兄ちゃんが植えたって言うハナミズキは今年もまた花を咲かせていて、僕は教室からその花を見ていて、あのときの彼女の小さな背を思い出す。

別に誰に言うっていうわけじゃないけど、また咲いたよ、って心の中だけで思っている。
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*今回の画像は「Photolibrary」さまからお借りしました。

2014/03/17 08:15 | momou | No Comments