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2014/01/23

そもそも私は「匂いのアーティスト」としてこのジャンクステージのサイトに名を連ねているわけですが、おそらく99%の方は「匂いのアートって、いったいなに???」「それって職業なの?」と思われるのではないでしょうか。

それが正しい反応です。私が勝手にその職業を作ったんですから・・・(笑)

正確にいうと、「Olfactory Art (嗅覚的なアート)」 という英語の既存の言い回しを、「匂いのアート」と訳しただけなんですけどね。つまり、日本にいちばん最初にこの専門領域を紹介したのは、ほぼ間違いなく私でしょうね。というか、そうせざるを得なかった。他ならぬじぶんがやってることだから(笑)

万人になるべくわかりやすいよう、ここでは「匂いのアート」としておきましたが、「Olfactory Art」を正確に訳すならば「嗅覚のアート」になりますね。視覚や聴覚を対象としたアートを私達は「美術」とか「音楽」とか呼んでいるわけですが、その対象を嗅覚にしてみようよ、ってことなんです。

つまり美術でいえば、絵筆やキャンバスを使って表現しますよね。その道具を、匂いにしてみたら・・・? という話です。

嗅覚の要素を美術に取り入れるというのは、とても意外に思われますが、西洋では昔から有名無名のアーティストがいろいろと試みていました。たいていは、オレンジの絵にオレンジの精油で香りをつける、といった感じの「強調系」の使い方でしたけどね。ちょっとこれではひねりがないなあ、と、私は思うわけです。

私が(あるいは嗅覚アートの世界が)世界初の嗅覚アーティストと認めるのは、かのマルセル・デュシャンです。もちろん彼は嗅覚関連以外の作品が主だったので、純粋な嗅覚アーティストと呼べるわけではありませんが・・・展覧会のオープニングでブラジル・コーヒーを煎ってサプライズを演出したり、何てことのないパリの空気を瓶詰めして「パリの香り」として展示したり。匂いを、意外性あるいは混乱を引き起こすために意図的に使ったという点、しかも当時のサロン的な美術界でそんなことをやってのけたという点で、やはりパイオニアだと認めざるを得ません。1910年代の話です。

ここからちょっと専門的な話に入りますが、私の活躍しているフィールド、つまりこれまで私が戦い抜いてきた戦場についてのお話をになります。日本人ながらにして世界的な嗅覚アーティストとして認められるには、それなりの戦いがあったわけで・・・。

デュシャンから100年ほど経た現代。匂いを中心に扱う作家がポツポツと顔を見せ始めたのがここ10〜20年の話です。ノルウェー人のシセル・トラース (Sissel Tolaas)という女性は最も早くから作品を発表しているので、いちばん有名です。その次にくるのは、ベルギー人のペーター・デ・クーペレ(Peter de Coupere)という男性。彼もキャリアが長い。このふたりは、この世界ではとにかくズバ抜けて有名。その次に名前が挙げられるとしたら、私がそこに入ってくるのではないでしょうか。いや、誇張ではなく、ほんとうの話なんですよ(笑) 世代的にも私は彼らよりちょっと下で、キャリアも7年。中堅ですね。

この横に、嗅覚アートの展覧会を企画したり、評論や解説文を書いたりするプロモータ的な役割をするキーマンがいます。カロ・フェルベーク(Caro Verbeek)という、私と同年代の女性です。オランダ・アムステルダム在住。ペーターとカロと私は、なぜかみんなオランダ語圏のご近所さん同士、とても仲良しです。いつも励まし合い、情報交換し合い、人を紹介し合い、このコミュニティをもっと盛り上げようと協力し合っています。ペーターと私は作家同士なので、良きライバルでもあります。

最初に名が出てきたシセルはなぜか、このコミュニティがお嫌いなようで、あろうことか私達を批判罵倒するのです。「あなたは自分のアイディアを真似した」、と。キャリアも長いため、他に似たようなことをやる人が出て来ておもしろくないのでしょうか・・・。

そんな醜い骨肉の争いをするのは、私は好きではありません。たとえ始点が似たようなアイディアであったとしても、形になっていくうちに自ずとその作家のカラーが出てくるものです。この多様性こそが、人間らしさであり、面白みがあるのではないでしょうか。「私が最初にドナウ川の曲を作ったのだから、もう他の誰もドナウ川の曲を作っちゃダメ」という論理はいかがなものか。

人間のイマジネーションの可能性は無限のはずだからです。作品の可能性だって、無限です。アイディアなんて、尽きるはずがない。なので、私は敢えて美大で教えています。シセルとは違います。私は、匂いという素材を蒸留などの手法で物理的に扱うことのできる、めずらしい作家です。学生にも教える技量がある。今のところ「嗅覚アートの授業」を美大で教えているのは世界広しといえどもで私だけではないかと思います。つまり世界初でもあり・・・。その点において、このフィールドからは一目置かれています。

後続を育てるというのは、自分のライバルを増やす事でもあるので、勇気の要ることです。でもじぶんのアイディアの泉を枯らさないようにすればだいじょうぶ。教えることは、じぶんの励みにもなるはず。そう信じています。

カロとペーターと私がオランダ語圏を拠点としていること、そして私がオランダで後継者を育てていること、この2つの要因が重なるため、嗅覚アートが特に活発な国は?と聞かれたら、「オランダ」と答える人も多いかもしれません。

彼らと一緒に、じぶんがその世界を牽引している。その自負はあるので、下手な事はできません。この世界もやはり競争で、人に注目してもらっているうちが華です。なので、私は、戦い続けますよ〜! 自分への戒めのために書いてみました。そうでもしないと、すぐ怠けちゃうんで・・・ いや、やっぱり、世界を相手に戦い、注目し続けてもらうって、そんなに簡単なことではないと実感中。でも息の長い作家でありたいと、今は思っています。皆さんも私に喝を入れてくださいね!

ちょっと今回は難しい話になってしまいました。嗅覚アートのコミュニティをちょっと覗いてみたい方は、仲間が主催してるこちらのポータルサイトを見てみてくださいね。

www.olfactoryart.net

2014/01/23 10:13 | maki | No Comments