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地球の舳先から vol.304
ミャンマー編 vol.2
ヤンゴンに着いたのは現地時間で午後5時。
日本との時差は、2時間30分。分の単位がでてくるのは初めてだった。
作り替えたばかりのピカピカの空港に、LGとサムスンの巨大広告。お約束。
経済制裁緩和に伴いマスターカードの広告も存在感を示していた。
ところでミャンマーの旅行を検討してこのコラムに辿り着いた方に
まずお伝えしておきたいのが、地球の歩き方が珍しくまるで駄目だったことだ。
おそらく、3~5年くらいのレンジで取材をしていないのではないかと思う。
それでも毎年、「今年版」といって売りつけるのだから、いい商売だ。
空港から市街へのタクシーは、公定料金になっていた。
しかし空港を一歩出て個別交渉をしたらぐんと料金が下がる、なんていうのは
旅においては日常茶飯事なので、一応ぶらぶらと空港の外に出てみる。
「タクシー!」
「いくら?」
「10ドル」
「はぁ?!なんで公定料金より高いのよ」
「ノー、ノー、エアーコンディショナー」
・・・いらんわトヨタ車。思ったより寒いし。
「チープ カー お願いします」
それ以上がんばろうかとも思ったが、結局、公定料金と同じ額で乗った。
そもそも、わたしはバックパッカーにはなれない!根性がゼロだ!とよくいっているのだが
交渉というものがほとほと性に合わない。楽しめないし、異常に疲れる。嫌いなのだ。
おまけにときに怒ったふりをしたり戦闘体制にならねばならないので、勘弁してくれと思う。
だから、インドやタイやバリ島みたいなところへ行くと、早々に「もう帰りたい・・・」になる。
幸い、運転手は寡黙な人で、フロントミラーに仏陀のお守りが揺れていた。
東南アジア独特のもわっとした空気はなく、乾燥した空気が香辛料の香りを運んでくる。
東京近郊の高速道路から見える「お城」そっくりの安っぽいイルミネーション、
最近進出してきたらしい外資の保険会社の大きなビル、
おしゃれな円柱形ガラス張りの高層ビルには「シボレー」のロゴ。
建設中の巨大な工事現場には、世界的ホテルチェーンの「ノボテル」の名前。
まさに絶賛開発中。暗闇のなかではあったが、想像していたような「ヤンゴン」だった。
しばらく行くと左手に、輝く巨塔が見えた。
ヤンゴンで一番有名なパゴダ(仏塔)、シェエダゴン・パヤー。
輝く、というのは比喩ではなく、たっぷりと金箔が塗りたくってあるので本物の黄金の輝き。
大渋滞で、市街中心部のホテルまでは1時間近くかかった。
(これは小さいほうの仏塔、ホテルから30秒、市街地中心の目印スーレー・パゴダ)
そう疲れてもいなかったし、「串焼き屋台ストリート」なるところに行きたかったのだが、
なにせ外灯が少なく地図を開くのもままならないので近くの定食屋で夕食を取る。
ミャンマービールを飲もうと思っていたのに見事にアルコールがない。なんてことだ。
ここだけでなく、道中を通じてお酒の入手にはほとほと苦労することになる。
店の隅の看板に、「HALAL」(ハラール)の文字を見つけた。イスラム教法で許可された
食材や調理法で提供される食事のことだ。イスラム系の店だったのだ。
あとで知ることになるのだが、ミャンマーでは食事は売るものではなく振る舞うもの、
ということで、ミャンマー料理のレストランというものはつい最近までほぼなかったらしい。
確かにインド系やイスラム系のほうが商売ごとははるかに上手そうである。
そこでよくわからないドライカレー(米の中に大きな鶏の身が入っていた)を食し、
ホテルに帰ってミニバーで1杯やろうと思っていたら、ホテルのフロアにはでかでかと
禁酒禁煙を示す看板がかかっていた。なんてことだ。そんな国だなんて、聞いていない。
部屋の冷蔵庫にはお酒が入っているわけもなく、電源も入っていなかった。
ためしに町を1時間以上歩いたが、スーパーにも売店にもアルコールはなかった。なんてことだ。
かくして翌朝、マンダレーへ向かう飛行機を待ちながら朝の6時から
空港でビールを飲むという非常に遺憾な事態になってしまった。
出発が早かったため、ホテルが朝食代わりのお弁当を持たせてくれた。ワクワクである。
これは、ミャンマーのホテルでは一般的なサービスらしい。
その弁当箱のあまりの軽さに想像をめぐらせていたが、中身はこれだった。・・・贅沢は言うまい。
なんだか甘ったるいマーガリンらしきものをはさんだサンドイッチは「ミャンマーサンドイッチ」というらしく、空港にも売っている。卵が固ゆでだったので、安心して食べる。
こうしてさほどヤンゴンに興味もなくわたしが向かった最初の都市はマンダレー。
イギリスに併合されるまで、最後の独立王朝として栄えた王都である。
ちなみに、名産はマンダレービール。(頼むよ、まったく)
当然のように飛行機は陸止め。順路通り歩いていたら空港の外まで出てしまい荷物がない。
なんと、滑走路から空港施設(屋内)に入るときに自分でピックアップするのだ。
屋内の入口までガラガラと運んでくれはするのだが、手渡しである。
さすがに珍しいので、外国人が皆引き返して荷物をピックしがてら写真を撮っている。
とにかく飛行機(しかも部品のメンテナンスが危うそうなちいさな国内線)は
いつ落ちてもおかしくないので、ロシアンルーレットを抜けたことにほっとするのみ。
荷物を持って、こんどこそゲートをくぐった。
つづく