どうにも家探しがはかどらない私は、巷で噂の※住居プランナーを訪ねた。
丁度おすすめの物件があると案内されたのが、このシュポシュポの家だ。
長く細い筒の入口がなんとも近未来な感じがする。
ようやく玄関に辿りつき、赤いドア(弁)を押して入る。
部屋は意外に広く、なかなかいい感じだ。
私は彼に少し考えたいので、商談中の札をつけておいてくださいと言った。
そして帰ろうと来た道を戻ろうとすると、彼に呼び止められる。
帰りはこちらの道ですと。
彼の指さす方向を見ると、高く盛り上がった入口に似た細い筒があった。
どうやら一方通行らしい。
私と彼はヒーヒー言いながら筒をよじ登り、最後は転げ落ちるようにして脱出した。
私は彼に言った。
この話はなかった事でと・・
※住居プランナーとは素人には家と判断できないような、変わり種の家を見つけて、紹介してくれる職業。
どうやら私の身長は1.5センチだったようだ。
思っていたより小さかったのでガッカリしたが、気を取り直してボチボチ歩く。
景色を楽しみながらキョロキョロしていると、遠くで派手な服を着た人達がウロウロしていた。
まさかあれは匂い調査団じゃないか!!
私は興奮して近くに駆け寄った。
※匂い調査団の歴史はまだ浅く、5年前の異臭事件をきっかけに設立された。
その事件というのは、公民館として利用する予定の建物に工事関係者が入ったのだが、もの凄い悪臭で数十人が気分を
悪くしたという過去最悪の事件だ。
結局犯人は解らず終いで迷宮入り。
それ以来、このような建物にはまず匂い調査団が匂い計測器を持って入るのだ。
すると黄色の防護服の人が私に気付き、慌てて駆け寄ってきたのです。
どうやらこれから調査に入るので、念のために十分な距離をとって見学してくださいとのこと。
私は少し離れた所からワクワクしながら成り行きを見守った。
三人が建物の中に入って行き、匂いを測定する。
そして何やら話合っているようだ・・
どうやら結果が出たらしい!
三人は私の方を向いて、頭の上で丸を作ったのだ。
こうしてここは学校として利用されるようだ。
素敵な金物を見た私は、足取り軽く先へと進む。
こうして気ままに旅を続けるのも良いものだ。
しばらく歩くと、今巷で噂の身長が測れるスポットを発見した。
せっかくなので身長を測ってみよう。
私はメモリの0の位置に踵を合わせ寝転がった。
いつも以上に背筋を伸ばして。
顔を真っ赤にさせながらメモリを見ようとしたが、これじゃあ解らない。
それじゃあこうだ!っと、頭に手のひらをのせて、その手をメモリにスライドさせてみる。
いやいや!これでは正確さにかける。
普段は適当だが、こういった事には几帳面だ。
一人じゃあ測れないと解ったので、仕方なく誰かがここを通るのを待つことにした。
どれだけ待っただろう・・・ようやくこちらに向かって歩いてくる人を見つけた。
『すいません!身長測ってもらってもいいですか?』
『いいですよ。じゃあついでに僕も測ってもらえますか?』
こうして二人で身長の測りあいっこをした。
ようやく彼等が言っていたであろう、素人受けする大きな金物にたどり着いた。
それを目の当たりすると、私は言葉を失った。
全面がピカピカで周りの景色を綺麗に写し込んでいる。
近づいてみると、もう一人私が現れた。
丸みを帯びているせいか、面白い形になっている。
私は手で触りながら、その金物の周りを一周してみた。
どの角度から見てもカッコイイ。
その完成されたフォルムはまさに芸術の域に達している。
金物マニアの方達を冷ややかな目で見た事を謝りたい。
しかし、どう見てもこの金物の方が美しいと思うんだけど・・
彼らくらいに色々な金物を見ているとよりディープな物を求めてしまうのだろうなぁ。
早起きして出発した私は奇妙な三人組に出会った。
何やら大きな物の前であーだこーだと話をしている。
私はそっと近づいて三人の話に耳を傾けた。
『この曲線がたまらないですな~』
『しかも相当複雑な形なのに綺麗にできていますよ。』
『今まで見てきた金物の中でも五本の指に入りますね~。』
どうやら金物マニアの方達らしい。
私にはまったく理解できない世界だ。
少し冷ややかな目で彼らを眺めていた。
すると、そんな私の気持ちに気付いてか、リーダー格の男が話しかけてきた。
『あなたには、まだこの美しさが解らないでしょう。これは通好みの金物だからね。
もし時間があるなら、あっちの方に30メートルほど歩いてごらん。万人受けする金物があるから。』
そう言うと、また三人で金物談議が始まった。
せっかくなので私は教えてもらった方向に行ってみる事にした。
さっそく枕の使い心地を試すべく、この古びた建物で夜を明かす事にした。
なんて気持ちいいんだろう。
この包み込まれるような感じがたまらない。
私はあっという間に眠りについた。
あまりにも寝心地がよかったせいか、目覚めたのは昼前だった。
外を見ると子供たちが遊んでいる。
寝ぼけ眼で子供達を眺めていると、一人の子供が私に声をかけてきた。
ブランコに乗るので後ろから押して欲しいらしい。
どうやら子供同士で押しても、それほどスリルを味わえないのが理由のようだ。
私は恐がらせてやろうと力一杯押してやった。
ところが恐がるどころか、キャッキャッキャッキャッ喜んでいる。
後ろには順番待ちの子供達。
この作業がひたすら日が暮れるまで続いた・・
ここでもう一泊する事になった。
私は誓った。
明日は必ず早起きしようと・・
今、話題のスポンジの家を見つけた私は少し興奮した。
どうやらまだ建設中のようで、職人さんが作業している。
スポンジを千切っては運び出す、何とも大変な仕事だ。
私は邪魔にならないように見学させてもらうことにした。
この家の何が凄いかと言いますと、間取りが自分好みに作れる。
スポンジを千切って10年の和田さんが、理想の間取りを実現してくれます。
他にもフカフカで気持ち良い、おまけに家は軽いので近所の方に手伝ってもらえば移動もできる。
っと言ったメリットがある。
しかし和田さん曰くデメリットもあるらしい。私にこっそり教えてくれた。
家を置く場所のもよるのだが、雨が降ると水がガンガンしみ込んでくる事。
子供がいると、いたずらで部屋が破壊される事もあるらしい。
それによく見ると少し安っぽい。
理想の家とは程遠いようだ。
そろそろ出発しようとした私の目の前に千切ったスポンジの山が置いてある。
私は和田さんにこのスポンジを一つ貰えないか聞いてみた。
和田さんは、そんなゴミ好きなだけ持って行きな。っと言ってくれた。
私は手ごろな大きさのスポンジを一つカバンに詰めた。
不思議そうに私を見る和田さんに僕はこう言った。
『枕にします。』
野宿ではどうも熟睡できなかったようで、朝早くに目が覚めてしまった。
せっかくなので早朝散歩してみることに。
少し歩くと、まだ朝早いというのに向こうの方で騒がしい声が聞こえてくる。
僕は声のする方に行ってみた。
そこには大きな瓶が転がっていて、その下に大勢の若者が集まっていた。
話を聞いてみると、どうやら瓶の中に入りたいらしい。
僕も正直興味はある。
透明な瓶なので中に何もないのは一目瞭然だが、もしかしたら外からは中が見えない不思議な材質なのかもしれない。
歩き心地はどうなんだろう?
中は暖かいのか、それとも寒いのだろうか?
外から見るだけで、中の様子を決めつける事はできない。
そう思うと居ても立ってもいられなくなり、僕も仲間に入れてもらう事にした。
話合いの結果、肩車をして一人ずつ交代で入る事に。
右に左にフラフラしながらも、皆で一丸となって頑張った。
僕も昨日の疲れも忘れ、なんだか青春時代を思い出した。
こんなに歩いたのはいつ以来だろう。
足が棒のようになってきた。
昔はどこまでも歩けたのになぁ。
原因はここ最近の運動不足のせいだろう。
まだ日が暮れるまで時間があるが、疲れてきたので今日はこの建物の隙間で野宿することにした。
別にそこら辺で寝てもいいんだけど、こんな風に周りが囲まれていると安心する。
一息ついてカバンの中身を覗いて見ると、どうにも役に立たない物ばかり持ってきてしまったようだ。
ぐぅ~っとお腹が鳴る。
そういえば家を出てから何も口にしていなかった。
おやつに持ってきたビスケットを食べて空腹を満たす。
明日に備えてゆっくり休まなければ。
僕はカバンを枕にして横になった。
夜は少し冷えそうだ。
ライターの見える家に住みたい。
僕の小さい頃からの夢である。
この辺りは非常に人気の高い場所で空き部屋がでると争奪戦になるほどだ。
おまけに景観を損なうという理由で、ライター近辺に新たに家を建てたり、持ってくる事を禁じられている。
なぜそんなに人気があるのか?
その理由はライターの美しさにある。
朝日を浴びるライター、ライターのバックに沈む夕日、月明かりに照らされるライター。
一番のおススメは日の沈む頃に地面に伸びる長い影。
何とも綺麗に地面を彩る。
こんな光景を自分の部屋から見れるなんて贅沢な話だ。
ここには3つしか並んでいないが、もっと多くのライターが並んでいる場所もあるという。
そんな場所に一度は行ってみたいものだ。