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今回が連載30回目になるのかな.
そういう意味でちょっと節目的なお話を書こうと思ってます.
このことはずっと前から書きたいと思っていたことなんだけど
なかなか言葉がカタチにならず、書けずにいました.
人間って、誰かのことを愛して、好きになったりしながら
その上で社会生活を営み、家族を育みます.
僕にも誰かを好きになったこと、なってもらえたこと、いくつかあります.
僕は今40代.結婚もしていないし、愛する家族に恵まれながら
きちんと社会生活を…という場所にいるとは
残念だけど言えないところにいます.
誰もが出逢い恋をしてそれを大切に育むように
そんな僕にもまた、出逢った相手がいます.
それは・・・
「Provoke」
1968年に中平卓馬、高梨豊、多木浩二、岡田隆彦、森山大道らの手で創刊された
同人誌です.3号まで刊行されましたがその総括集
「まずたしからしさの世界をすてろ」で廃刊となりました.
このProvokeとそれを創った方々に出逢っていなければ
今ここでコラムを書いていることも、写真展をする自分も
もっと根源的に言うなら写真そのものをやることはなかっただろうって思う
そんな存在です.
芸術学部という場所に籍を置いていたものの、学業として写真を学ぶということに
何ら魅力を見出せなかった僕に、「写真て…こういうやりかたもあるのだな」
と気付かせてくれたのもこのProvoke、そこに掲載されている写真だけではなくて
綴られていた言葉、文章、雰囲気と廃刊に至るまでの経緯..その全てに…
そう、恋をしました..この場合、そう表現する他ないような感じです.
このProvokeが、日本写真にどんな影響をもたらした存在であるかは
今更言うまでもないと思うので割愛しますが
その後の写真集として大学の図書館や勤め先の会社など、
彼らの作品に触れることは出来たけれど
Provoke誌そのものと触れ合う機会はずっと訪れることはありませんでした.
そのProvokeが、2001年にドイツの出版社から復刻されることを、ふとした情報で知ったのでした.
それも「The Japanese Box」として、森山大道「写真よさようなら」
中平卓馬「来たるべき言葉のために」、荒木経惟「センチメンタルな旅」
とのセットで…となればこれはもう手に入れるしかない.恋の熱は高まるばかりです.
人は恋をすると、すごいエネルギーを発したりするものですが、
僕もまた、遠くドイツの未だ見ぬ恋人と出会うために
当時の彼女さんに懇願したり、英訳を頼んだりしながら
現実的には決して安くはなかったこのセットを個人輸入して
手にすることが出来たのでした.
ちなみにこの「The Japanese Box」、何部くらい発行されたのかは
わからないけれど、ナンバリングが施してあって僕のは385番.
2013年現在では10万円を越える値段がついていたりします.
それは僕が既に写真を始めて10数年、仕事としての写真と
作品として求め続ける写真と、よく言う言葉を使うなら夢と現実との間で
どうにか折り合いを付けながら、暮らしていくことが出来ていた、
輝ける時代のちょうどピークがこの時だったのかもしれません.
復刻ながらProvoke3冊と、写真集森山大道「写真よさようなら」
中平卓馬「来たるべき言葉のために」、荒木経惟「センチメンタルな旅」
その全部を手に入れたことはやがて、その恋を叶えたという達成感ではなくて
あまりにも自分には高嶺の存在を手にしてしまったことへの
不安、重圧に変わって行きます.何故って…恋ってそういうものです.
まだこの頃ならば、家庭的、社会的な安定やその後の暮らしというものも
考えたり、楽に巧くやってくことが僕にも出来たのかもしれません.
写真と、Provokeと出逢った..その想いというものの先へ、
さらに先へ..もっと…という衝動を僕は抑えることが出来ませんでした.
Provokeが始まった新宿の地で、僕は一度写真展をすることが出来ていたし
憧れた方々に作品を観てもらうことも叶ってはいたことでした.
人に例えるなら成就する、実る..そういうことでしょう.
だけど1999年の初個展を新宿へ持って行った「自我の灰色-Tokyo Edition-」は
残念というか当然というか..納得のいくものではありませんでした.
引き替えにしたものがあまりにも大きすぎ、辿り着いたと言うよりは流れ着いたという感じ.
だから昨日東京へ、再び新宿へ足を運んで
今回そこへ持って行って、観ていただいたものが
12年振りの写真展の作品だったことと、ここに来るまで経緯と時間を思うとき
やっぱり僕はProvokeに、新宿に、、写真に未だ恋をしているのだと感じるし
その恋に対して前よりずっとピュアな姿勢でいられることに幸せを感じたりしています.
そしてそれを絶やすことなく持続させていきたいって思える今.
誰かを好きになる、何かと出逢いそれに打ち込んで
紆余曲折ありながらでもそれを想い続けられること
人でもモノでも何かに恋をすることで、
ただ何かを好きになるということだけで
いくつになっても、いつになっても
逆に歳月を経れば経るほど、純度の高いものに触れることができる.
恋の結末なんて、誰にも解らないことだと思うし
もうこれでお終いだと思ったことも何度もあって.
でもささやかでも想い続けることで産まれる可能性とかを
一度知ってしまったら、もうなかなか後には退けないのもまた確かだったりして.
自分が見つけた一つの恋に、自分もまた身一つで賭けてみる
散々なこともあったりキツイなーと思うことばかりのようにも思うけど
それで拓ける未来もまたきっとあって、
それが無限のエネルギーと行動するチカラをくれたりもして.
大学の図書館で出逢ったあの日からの僕はやっぱりあの時のままで
僕はずっと好きでい続けるのだろうし、そういう自分でいられたらと思っています.
P.S.
ご報告が遅れましたが、先日開催されたJunkStage 7周年記念パーティ
参加させていただき、ありがとうございました.
パーティというのはやっぱりなかなか馴染めないものだったりして
自分に自信も無い…そんな僕が皆さんの前に姿を出すというのは
だいぶ勇気が要ることだったけれど、そんな些細なことよりも
あらためて僕はここで出逢えた方々とこの場所にいられることに
心からありがとうって言いたいと思います.
きっとまたどこかで.