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2013/11/09

Event Coverage

先日、アメリカLAにある嗅覚アート専門のギャラリーより連絡があり、私の 「ゲイシャのかほり」一連の作品を是非展示したい、とのことでした。日本のゲイシャ文化は、欧米世界も興味津々。そのため、「ゲイシャ」「香り」このふたつのキーワードだけで、相当な注目を浴びるだろう、と。

Institute for Art and Olfaction -芸術と嗅覚のためのインスティテュート-」は、 嗅覚アートを世界に広めるべく誕生した、世界初の嗅覚アート専門ギャラリーです。寄付により運営される非営利団体で、世界的に名高い嗅覚アーティストや調香師が訪れ、展示やリサーチ活動、ワークショップなどを行っています。

そんな格調高いところが、ゲイシャ関連ですか・・・。やはり大味なアメリカ(笑)。 ヨーロッパだと、もっと現代アートっぽい作品を所望するはず・・・。

それはいいとして、欧米には、「ゲイシャ」を娼婦と同一視するような見方が蔓延していて、眉唾ものです。なぜでしょうね。

まず「ゲイシャ」という単語は、「芸妓」「芸者」「遊女」「花魁」「女郎」ぜんぶを含む、いい加減な単語。日本人であれば、その微妙なズレとか重なりとかをなんとなく知ってるんですけどね。まあ完全にカテゴリ分けできるものでもないのですが、いちおうランクがあり、「遊女」や「女郎」は娼婦に近く、つまり性を売るしか仕方のなかったカテゴリです。「花魁」のようにランクが上がれば上がるほど、唄や舞などの芸、そして色香と風雅を売っていたわけで、性は最後の切り札として取っておけたのです。つまり性の値段をつり上げる手法が、芸であり、色香であり、ということ。

そしてランクが上であればあるほど、現金も手に入るわけで、匂いを商売道具として駆使できました。(以前こちらの記事に詳述しました。)他ならぬ、匂いは消耗品なので、さすがに潤沢にお金がないとできない道楽です。

「伽羅の女」とは、最上級の女に対する代名詞で、郭言葉です。「ゲイシャ」をテーマにした映画SAYURIにも、水揚げのときには枕元に香炉が置いてありました。高級な伽羅を示唆しています。

ちなみに伽羅がどれくらい高いかというとですね、現在鳩居堂などで手に入るのは、1グラム1万5千円くらいからですね。1cm四方の香木です。(私は趣味で、幾つも持ってます・・・ ^^; 貴重すぎて使えません。)

遊郭には、そんな伽羅の香りが満ちていたといいます。それは、接客の時間を線香の本数で計っていたからでしょう。勘定も「お香代」と呼ばれ、「1本分」「2本分」などの優雅な単位の請求だったといいます。(ここに使われるお線香は、実際は伽羅ではなく、沈香だったろうと想像されますが。)

こんな洒落た世界ですから、「ゲイシャ」を「娼婦」と一緒にされては困るのですよね〜。遊郭は、遊びの郭。体を重ねることを「最後のとっておき」とするために、さまざまな色恋の駆け引きがあり、そのプロセスをこそ楽しむ場だったのです。多くの場合、宴会の後はみんなで「雑魚寝」で、ムンムンした空気を楽しむのがオチだったといいます。

こんなふうですから、おそらく最後まで行き着けない気の毒な輩もたくさんいたことでしょう。どんなにお金を持っていても、風雅と粋を知っていて、自分の魅力を駆使できる男でないと、上に行けない世界。この文化は、現代の風俗界にも脈々と受け継がれているはずなのですが、キャバクラやソープなどはそれが必要とされない現金主義の世界なので、お金は持っていても粋を知らない男が増えるという哀しい現代。(笑)

一昔前のスナックやパブには、その色香が残っていた気がします。私の叔母がホステスさん達の衣裳をオートクチュールで作るデザイナーでしたので、そういうお仕事をされている方達を覗きながら育ちました。ある四谷のスナックにもよく連れて行ってもらい(お客さんとしてね)、ママさんにも娘のように可愛がってもらった女子大生でした!(笑)上品な言葉遣いや仕草、高級なベルベットやサテンの生地の感触、そして香水の芳香・・・。そして、笑顔が素敵で、粋で、自信に満ちていて、おしゃべりが楽しいおじさま達・・・そんな大人の世界を垣間見ました。

位の高い「ゲイシャ」は第一義的に 「夢」、「安らぎ」そして「ファンタジー」を売る女だったのです。性はその果てしない向こうに期待されてはいるけど、約束されてはいないもの。日本文化独自の繊細な想像力が前提の粋なコミュニケーションができないと、振られてしまいます。外人さんであればまず、「こんなにお金を積んでるのになぜやらせてくれないんだ」と腹を立てていたでしょう。

香りは、そんな幻想を売るにはもってこいのツールなのです。

そしてこの点において、アートとの接点を感じます。このことを私は展示で、あるいはパフォーマンスで、ダイレクトに伝えたい。深く感じて欲しい。それが、「ゲイシャのかほり」シリーズの原点です。

 

「ゲイシャのかほり」シリーズ

作品:http://www.ueda.nl/index.php?option=com_content&view=category&layout=blog&id=191&Itemid=804&lang=ja

パフォーマンス:https://www.facebook.com/maki.ueda/media_set?set=a.10202118333349994.1073741827.1537755130&type=3

 

2013/11/09 05:18 | maki | No Comments