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2013/06/30

そもそも、医師になるにはどうしたらいいのか、というはなしをしようと思う。

もちろん、医学部受験をくぐりぬけ、6年間の大学生活をつつがなく終え、さらには医師国家試験に合格し、晴れて医師免許が交付されれば、社会制度上は医師として認められるわけであるが、そうそう簡単なことでもない。

 

たとえば、医学生の一般的な就職事情について、知っているだろうか。
“医師不足”があちこちで叫ばれるなか、「医学生はどこでも引く手あまたか?」と聞かれれば、そうであるとも言えるし、そうでないとも言える。
これはちょっとややこしいので、順を追って説明しよう。

医師免許があれば、身分上は医師ということになるが、当然すぐに一人前というわけではない。現在の制度では、“研修医”として働く最初の2年を勤める病院は、自分で選ぶことができる。逆に言えば、 かつての医学生は卒業後に必ず出身大学の医学部附属病院で研修をしていた。
これが自由化されたため、医学生ももちろん、一般の就職活動のように、各病院の医学教育の質や勤務待遇を見定め、自分の医師としてのキャリアプランに沿った病院を選択することになった。その結果として医局制度の危機や地方の医師不足を招いたとする意見もあるが、とりあえず現状はそう。

ちなみに、どの病院でもこの研修が可能なわけではない。国が定めた一定の基準をクリアした病院だけが、研修医を募集することができる。そして、この基準を満たさなければ募集する資格を失い、戦力の供給を断たれることになるため、病院側も必死だ。
医学部の高学年になると、100を超える病院が合同で説明会を行う“レジデントナビ”や、個人で申し込む実習を通して、いくつかの病院を見学することになる。

 

行きたい病院をある程度絞ったら、6年生の夏にその病院の選考試験を受ける。しかし、事情は複雑だ。前述したように、医学生が自由に病院を選べるとなれば、当然人気のある病院とそうでない病院が生まれてしまう。
人気があるのは、まとめれば症例数が豊富であり、研修医への教育が手厚い病院ということになる。有名なところでは、『虎の門病院』や『国立国際医療センター』などが挙げられるだろう。
必然的に、人気がある病院の試験は“落とすための試験”になる。一方、将来その病院の戦力となる研修医をどうしても獲得したい病院は“採るための試験”をする。その結果、人気のある病院よりもそうでない病院のほうが、給与や勤怠などの勤務待遇がよくなることもある。医学生はそこで、自分のニーズに合った病院を選択する。
現在、医学生の就職活動は、“買い手市場が生んだ売り手市場”と呼べる。

 

それでもなお、医学生の就職内定率は例年全体の95%以上と、かなり高い水準を保っている。それを支えるのが、“マッチング”と呼ばれる制度である。
厚生労働省の関連機関である『医師臨床研修マッチング協議会』によれば、“マッチング”とは、

「研修医マッチング(組み合わせ決定)とは、医師免許を得て臨床研修を受けようとする者(研修希望者)と、臨床研修を行う病院(研修病院)の研修プログラムとを研修希望者及び研修病院の希望を踏まえて、一定の規則(アルゴリズム)に従って、コンピュータにより組み合わせを決定するシステム」

だ。つまり、選考試験によって病院側がつけた“採りたい学生の順位”と、学生側がつけた“入りたい病院の順位”を、中立の機関が見比べて、どの学生がどの病院に採用されるのかを決定する、というシステムになる。

内定率はほぼ100%とはいえ、実際にはお互いにシビアな順位がついているわけだ。このあたりからも、やはり医療は理想だけで語れないことがわかる。
医学生が病院の医療と待遇を、病院が医学生の人格と学力を値踏みして、中立機関が双方の希望に折り合いをつけている。だから、人気のある病院なら不採用はあたりまえだし、医師が不足している病院は医学生を接待することさえままある。
ちなみに、自ら手をかけて学生を育てたためか、出身大学の医学部附属病院では、そこに採用されないことがほとんどない。つまり、はじめから多くを望まなければ、医学生の就活はわりと落ち着いたものになるのだ。

 

このマッチングは、卒業年度の6月にはじまり、10月には組み合わせの結果が発表される。一方、医師国家試験は2月に行われ、発表は3月だから、これは一般的な就活でいうところの“内定”の状態である。
しかし、一般と違うのは、医学部の卒業試験(大学によって時期はさまざまだがほとんどは秋から冬)、そして医師国家試験がそれなりに厳しいこと。
卒業試験の成績が悪ければ、国家試験を受けるまでもなく留年となる。また、医師国家試験は一部相対評価が導入されているため、必ず不合格者が生まれるから、どれほど勉強しても絶対に合格する保証はないのだ。
希望の病院にマッチしていても、医師になれなければ、“内定取り消し”となる。
そのために、一般的な医学部では、6年生が春くらいから卒業試験と国家試験、そして病院の選考試験の勉強に専念することになる。そして、僕は今、マッチングと卒業試験対策に追われている。

 

医学生は医学部を卒業し、医師国家試験に合格し、並行して就職活動をこなして、はじめて医師になり、この仕組みによって、医療現場に医師が供給されている。
一般の就職活動とは大きく異なり、医学生はやはり恵まれているのだろう。 というよりも、厳しい医学部受験がすでに就活なのだ。

引く手は数多く、その中から、僕は僕の医師としてのキャリアの理想にもっともちかい一本を見つけようとしている。

2013/06/30 06:00 | kuchiki | No Comments