これまでの記事はコチラ
82.ブータンの「ネット選挙」(1)
http://www.junkstage.com/fujiwara/?p=446
83.ブータンの「ネット選挙」(2)
http://www.junkstage.com/fujiwara/?p=451
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先日、東京都議会議員選挙が行われ、昨年末の衆議院選挙同様、自民党が圧勝した。
これまで都議会で第一党であった民主党は、第二党の立場すら確保できずに、
127議席中15議席獲得(選挙前は43議席)という惨敗に終わった。
この都議選の中身に触れるつもりはさほどない。
個人的に注目すべきポイントは、この選挙が、
実質的に、7月の参議院議員選挙の前哨戦に位置づけられていたこと、
同時に、参院選での「ネット選挙」解禁を見越した選挙戦が展開されていたこと、
にある。
これを、ブータンの国民議会総選挙と照らし合わせてみる。
前々回、前回と既に触れた通り、ブータンの総選挙は、2段階に分かれている。
1ステップ目が「予備選挙」、2ステップ目が「本選挙」、である。
まず、予備選挙でふるいをかけて2つの政党に絞り込み、
本選挙では、各小選挙区ごとに、両政党から候補者が1名ずつ出て1対1の選挙戦を戦い、
その勝者が議席を獲得することになる。
もちろん、そう単純な構造ではないのは百も承知の上だが、
ある意味、この「予備選挙」を、今回の日本の都議選と比較してみると、
もしかしたら、何か見えることもあるかもしれない、と漠然と考えてみる。
そんな着想から、既に実施済の予備選挙を振り返ってみよう、
というのが、今回のお話。
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まず、ブータンの予備選挙の結果をご紹介する前に、
予備選挙に参戦した4つの政党を紹介しておこう。
といっても、あまり細かいことを書いても絶対に覚え切れないので最小限の情報をば。
まず、2008年総選挙で、47議席中45議席を占める圧倒的勝利をおさめた、
現政権与党である「DPT(ブータン調和党:Druk Phuensum Tshogpa)」。
次に、現野党の「PDP(国民民主党:People’s Democratic Party)」。
残る2政党は、今回新たに立ち上がった政党で、それぞれ、
DNT(ブータン協同党:Druk Nyamrup Tshogpa)
DCT(ブータン大衆党:Druk Chirwang Tshogpa)、と呼称されている。
事前予測では、基本的に、現与党であるDPTが強さを発揮すると見られていたが、
一方で、この5年間のDPT政権の実績に不満を持つ声も多く、
その声を味方に、現野党であるPDPがどこまで票を伸ばせるか、
あるいは、新党2つが、どこまで上記2つに割って入ることができるか、
というのが、主な争点であった。
選挙戦は、4月28日に国民議会が解散した時点から実質的にはスタートし、
予備選挙の投票日は5月31日、本選挙の投票日は7月13日にそれぞれ設定された。
その後、5月5日に予備選挙に出馬する政党の申請が締め切られ、
各党による本格的な選挙活動が展開されることになった。
先に結果から述べてしまえば、予備選挙における各政党の得票数(得票率)は、
下記のようになり、DPTとPDPが本選挙へと進出した。
(ちなみに、ブータンの全人口は約70万人、うち有権者数は381,790人)
DPT:93,724票(44.5%)
PDP:68,545票(32.5%)
DNT:35,942票(17.1%)
DCT:12,453票(5.9%)
また、各小選挙区別の勝利政党は下図のような結果になった。
出典:Kuensel Online. http://www.kuenselonline.com/naresults/primary.php
細かい政策論争をここで書くつもりはあまりなく、
むしろ、注目してほしいのは、得票率と各小選挙区別の勝利政党の関係である。
DPTは、47選挙区中33選挙区で勝利した。これは、割合に直すと70.2%となる。
続いて、PDPが12選挙区、DNTが2選挙区で、DCTは1つも1位を取れなかった。
なお、参考までに、前回2008年の選挙(本選挙)においては、
DPTが、得票率では67.0%であったが、47選挙区のうち45選挙区で勝利し、
議席数の割合では、実に95.7%を占めた。
さて、この結果が意味しているのは、果たしてどんなことだろう。
国民の支持率と選挙結果が必ずしも一致していないという矛盾だろうか。
今回の選挙において、DNTが勝利した2つの選挙区では、勝者が選挙から去り、
敗北した政党同士が争うことになった、という皮肉めいた現実だろうか。
あるいは、PDPが本選挙に向けて、DNT、DCTの票を効果的に取り込めば、
DPTを逆転するチャンスがある、という希望だろうか。
そのいずれもが正しいとも言えるし、正しくないとも言える。
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ここで一旦、都議選に話を戻してみよう。
今回の都議選の結果が、わずか1ヶ月後の参院選で激変することは考えづらい、
と考えている人がほとんどではないだろうか。
つまり、参議院選挙も、おそらく自民党が勝利をおさめるだろう、と。
もちろん、東京都民の声が、日本国民の総意ではないにせよ、
少なくとも、東京都が、全国民の1割の有権者を抱えていることは事実である。
そういう意味で、都議選は、参院選の前哨戦とは言いつつも、
実質的には、ほぼ勝負づけが済んでしまった、とも言える。
ここから1ヶ月で、自民党がなにか大失態をやらかさない限りは。
…本当にそうなのだろうか?
当たり前のことではあるが、選挙において、有権者が投票をする際に、
選び方は大きく二つある。
政党で選ぶ、つまり、政策やマニフェストで選ぶのか、
あるいは、候補者で選ぶ、つまり、資質や人柄で選ぶのか。
多くの人は、おそらく、その両方を組み合わせながら選ぶ、と答えるだろう。
例えば、ある有権者が、都議選で、自分の選挙区の候補者Aに投票したとする。
候補者Aの属している政党がX党だったならば、次の参院選でも、
同じくX党に所属する候補者に投票する可能性が極めて高い、と言えそうだ。
しかし、この投票が、候補者Aさんの個人的な資質に惹かれて行われた場合、
もしかすると、参院選では、別のY政党の候補者Bに投票してしまうかもしれない。
このような後者型の、候補者個人で選ぶタイプの有権者が増えてくると、
途端に選挙の票が読みにくくなってくる。
候補者のどの点に惹かれるかは、それこそ、人それぞれだからだ。
ブータンでは、実は、予備選挙後に、本選挙に向けて、DPT、PDPともに、
敗退したDNTからの引き抜きを含め、候補者の差し替えを熱心に行っている。
そもそも、一度擁立した候補者を、選挙戦がはじまった後に差し替えるなんて、
そんなことが許されるのか、という法的、倫理的問題はさておき、
このことは、一つの事実を示唆している。
つまり、ブータンでは、多くの有権者が、政党ではなく候補者個人の
資質や人柄を重視する傾向が極めて強い、ということである。
もし、政党が重視されているのであれば、既に各選挙区において、
DPT対PDPの一騎打ちになることは確定事象であり、
そこでどんな候補者が立っているかはたいした意味を持たないはずである。
結論から言えば、ブータンの今年の総選挙は、
DPTとPDPの得票率が、前回選挙より拮抗してきていることもあり、
本選挙でどちらが勝利をおさめるのか、予断を許さない状況になってきている。
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さて、このあと、
「それでは、今回の都議選を、『ネット選挙』の観点から眺めてみよう」
という話をするつもりだったのだが、ここまで随分と長くなってしまったので、
一旦ここで回を区切ることにしようと思う。
もう少しだけ、この話にお付き合いいただきたい。
(続く)