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こんばんは、酒井孝祥です。
先日、日舞の稽古場公演が終了しました。
日本舞踊は、大きな劇場まで足を運ばなければ観ることが出来ないという世間の印象が強い中、普通の一軒屋の玄関扉を開けて入った先に会場があるという、まさにアットホームな公演でした。
物を売る人、商売をする人をテーマにした踊りばかりを集めた公演で、前半は江戸の町を歩き回って商売した人達(松魚売り、女太夫、玉屋、越後獅子、まかしょ、水売り)が入れ替わり立ち替わり現れて踊るという構成、後半は単独の踊り3作品(黒木売り、白酒売り、文売り)の上演で、酒井は越後獅子で参加しました。
本公演の主旨は、日頃日本舞踊に馴染みのない人に、“難しい”“堅苦しい”といった印象を取り払ってもらい、お気軽に楽しんでもらうというものです。
そして、この公演企画の度に、師は毎回お客様にこんなことを言います。
落語家には、寄席という場所があり、そこで上演される落語は、まだ芸の磨かれていない新人の前座から始まって、二つ目、真打と続くうちに、段々にレベルが上がっていきます。
最初の前座の落語なんて、そんなに面白くありません。
でも、実際にお客様を前に落語を上演する経験を重ねていくことで、その噺家の芸は磨かれていきます。
言わば、お客様の目によって芸が育てられるわけです。
寄席に通い続けるお客様の側でも、あのときは前座でろくなことが出来なかった○○も、今は昇進して、ここまで面白くなった…
という風に、噺家の成長過程を楽しむことが出来るのです。
今日の公演は、いわば落語の前座のようなもので、見苦しい点も多々あるけれども、どうか暖かい目で門下の成長を見守って欲しい…
そんな師の挨拶から公演は始まります。
師の挨拶に続き、今回初の試みとして、前半部で踊る江戸の商人達に、インタビュアーが「あなたは何の商売をしている人ですか?」と一人づつ尋ねていきました。
最初は一番分かり易い「松魚(かつお)売り」から始まり、何の玉を売るのかと思いきや、シャボン玉を売るという「玉屋」、自動販売機のない時代に冷たい氷水を売り歩く「水売り」、越後からやってきた大道芸人「越後獅子」、門付け芸人、つまりは人の家の前で音曲を披露する「女太夫」、しまいには「まかしょ」と呼ばれる、“お金をくれたら、あなたの代わりにお参りに行ってきますよ。”という、なんともいかがわしい商売人(?)までもが紹介されていきます。
紹介が終わりいったん全員が引っ込んだ後に、「かつおー!かつおー!」という威勢のいい掛け声から作品は始まり、様々な商人達が次々に入れ替わり登場し、「氷水屋!ひゃーっこい!」というまた威勢のいい掛け声で締められると、全員が舞台上に登場し、揃ってポーズを決める。
そこには江戸の町が出来上がっていました。
当日は非常に暑い日で、空調も効かない状態であり、特に昼の部においてはかなり汗だくになり、汗で身体が着物にはりついてひっかかって、思ったよりも足が高く上がらなかったりするようなこともありましたが、間近にいるお客様を前にして、まさに江戸の町で見物客を前に芸を披露している越後獅子のごとき気分です。
どうせ自分は踊りの腕はたいしたことないのだからと開き直り、技術的に魅せるのが無理であれば、役の気持ちになって楽しく踊ることに努めようと本番前から思っていたのが功を奏したのか、見て下さったお客様にも好評でした。
今回は全員普通の着物で踊りましたが、もしもこれを踊りの本衣装で踊ったら、どんなにか面白いものだろう…
むしろ僕が見てみたいくらいです。
着物で踊っても十分に雰囲気が出たくらいですから。
日本舞踊の公演のほとんどが、1曲1曲づつ踊られていくものかと思いますが、今回の我々の公演のように、古典の踊りを踊るにしても、構成に趣向を凝らした上演形態がもっと増えても面白いかと思います。
次回は、「まさかここまで出来ないとは…」(古典芸能)をテーマにしたコラムをお届けします。