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未来賞受賞後第一連作として
歌誌『未来』の2月号に載った連作です。
連作を組むのはこれが最後かもしれません。
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たまかぎる一日(ひとひ) 瀬波麻人
ティファニーのねじれたリングの円環の人に言えないことばかりある
絹、レース、象牙、水晶、たまかぎる一日募りて器は満ちる
お互いがそうなのだろう従えば保てぬような水面にいる
風の音におびやかされて指すものを刺し続ければ世界に二人
わかりやすい支配被支配物語事故の現場を何度でも見る
カウンセラーでもクライエントでもなく俺は子どもでもなく乳ふさを吸う
生き物がつながることのよろこびのとてもきれいな内臓の色
深く深くひかりの届かぬ深海でレギュレーターは不純だと言う
「抱き合ったままなら深く潜れるよ」タンクをひとつ、ふたつ手ばなす
こうもりにみえます蝶にみえます(ほんとは死にたい)鳥にみえます
ロサンゼルスは庭に孔雀が来るらしい最近聞いたきれいな話
子をなさぬままに来年バカボンのパパとおんなじ年齢になる
これからのショートホープをもてあます十年前にやめた煙草の
この家の世帯主です夫ですU字ロックは僕が切ります
その人がお母さんなの誰そ彼にオオヨシキリは張り裂けて鳴く
私似のテトラポッドをなでている死なない呪いを解こうと思う
たのしいと思うことだけゆっくりと。そうゆっくりと、ごはん食べてね
よりにもよってこんなに大きな虹なんて明日結婚記念日でした
我々は時間をかけて死んでいくWe love us.の文字を残して
緩和型保険契約約款を記憶しながら一日を生きる
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物語はここで終わる。
ここからはもう別の話だ。