« | Home | »

2013/03/10

 
未来賞受賞後第一連作として
歌誌『未来』の2月号に載った連作です。
連作を組むのはこれが最後かもしれません。
 
 
 
 ・
 ・
 ・
 
 
  
 
 
たまかぎる一日(ひとひ)     瀬波麻人
 
 
  
ティファニーのねじれたリングの円環の人に言えないことばかりある

絹、レース、象牙、水晶、たまかぎる一日募りて器は満ちる

お互いがそうなのだろう従えば保てぬような水面にいる

風の音におびやかされて指すものを刺し続ければ世界に二人

わかりやすい支配被支配物語事故の現場を何度でも見る

カウンセラーでもクライエントでもなく俺は子どもでもなく乳ふさを吸う

生き物がつながることのよろこびのとてもきれいな内臓の色

深く深くひかりの届かぬ深海でレギュレーターは不純だと言う

「抱き合ったままなら深く潜れるよ」タンクをひとつ、ふたつ手ばなす

こうもりにみえます蝶にみえます(ほんとは死にたい)鳥にみえます

ロサンゼルスは庭に孔雀が来るらしい最近聞いたきれいな話

子をなさぬままに来年バカボンのパパとおんなじ年齢になる

これからのショートホープをもてあます十年前にやめた煙草の

この家の世帯主です夫ですU字ロックは僕が切ります

その人がお母さんなの誰そ彼にオオヨシキリは張り裂けて鳴く

私似のテトラポッドをなでている死なない呪いを解こうと思う

たのしいと思うことだけゆっくりと。そうゆっくりと、ごはん食べてね

よりにもよってこんなに大きな虹なんて明日結婚記念日でした

我々は時間をかけて死んでいくWe love us.の文字を残して

緩和型保険契約約款を記憶しながら一日を生きる
 
  
 
 
 
 ・
 ・
 ・
 
 
 
物語はここで終わる。
 
ここからはもう別の話だ。

2013/03/10 09:10 | senami | No Comments