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地球の舳先から vol.266
イスラエル編 vol.1(全14回)
イスラエルへ行って来た。
心配し過ぎだった、と、今となっては思う。
そしてほんとうに、良くしてもらった。
すごいものもいっぱい見た。
長くなりそうだがこれから、旅を振り返っていきたいと思う。
元旦。パリでの夢のような1泊の後、緊張を取り戻すのにさほど時間はかからなかった。
エールフランスのカウンターの手前では、テルアビブ行きだけ別の列が作られ、
チェックインさえする前からセキュリティチェックが行われている。
イスラエルへ便を飛ばす、ということは、フランスにとっても“リスク”なのだと実感する。
係官はCDGのスタッフではなく、イスラエルのセキュリティ会社。
どこへ行くのだ、ホテルの予約は、何をしに行くのだ、とお決まりの質問。
3人に1人程度の割合で止められ、どこかに電話で確認をしているスタッフ。
遅々として進まない列にイライラした人々は、解放された先の航空会社のカウンターで
やつあたりに近い怒りを爆発させ、そこかしこで紛争が勃発する。
ようやく搭乗券を手にしたのは1時間後。
それでも2時間半前からしか手続きを始めないのだから、たぶん運用にも落ち度がある。
どこにも引っかからなかったわたしでさえ、手荷物検査とパスポートコントロールを抜け、
シャトルに乗って搭乗口へ着いたのは搭乗時刻のわずか30分前。
当然、定時に離陸できるわけもなく、狭い機体の中で散々待たされる。
まだ序の口。こんなことで腹を立てていたら身が持たないだろう。
* * *
ようやく飛行機から降りると、超絶美女がまっすぐわたしだけを見つめて近づいてきた。
パスポートを見られてからならいくらでも取り調べを受ける覚悟ではいたが、
まさか飛行機から降りて3秒後にロックオンされるとは思っていない。嗅覚か?
美女が、パスポートを1ページずつめくりながら執拗に質問を繰り返す。
「I can’t speak English」と言いたかったが、そんなことで面倒になって解放するような
国ではない。きっと、逆に無駄に時間を要するだけだろう…。
「なぜイエメンへ行ったの?」
「(やっぱり…。)観光で。っていうか全部観光です」
「何日間?」
「えっ。もう何年も前だから忘れました。1週間くらい」
「誰と?」
「(友達と…だけど質問を増やすだけと判断し)一人です」
「どこへ行ったの?」
「サナアと、あと、えーと、名前を忘れましたが世界遺産の砂漠」
「なぜ?」
「なぜ?世界遺産を見たかったからです」
「向こうに友達は?」
「(ええ、ユニセフに。彼いまアフガニスタンに居るけど)いいえ?」(←
「なぜイランへ行ったの?」
~(上記と同じ質問。以下略)~
「向こうに友達は?」
「(ええ、外交官。ヒズボッラーと友達かもね)いいえ?」(←
「なーぜー、インドネシアへ行ったの?」
~(上記と同じ質問。以下略)~
「なぜ3回も行ったの?」
「(全部トランジットだよ!東ティモールとか行ったんだよ!) インドネシアにはねー、
バリ島って島があって日本の女子は全員そこへ行くんですーッ!!!!!!」(←
「なぜこのキューバのビザには写真が無いの?」
「知りません。いらないって言われたから」
「誰に??」
「機関の名前は知らないけど、出国許可を管理してるオフィス」
「日本領事館ではないの?」
「(なんて説明困難な質問を…)レジデンスの申請をしていたので、出国するためには
キューバ政府の許可が必要だったのです」
「なぜ?」
「はぁ?! フィデル・カストロに聞いて下さい!!!!!!!」
…や、だから、怒るなと。
「なぜこのインドのビザは不使用なの?」
「(ああ、それ、チベット行く時に不測の事態の際に第三国に抜けられるように
保険で取ったんだよね。でもチベットのスタンプ無いしな…)気が変わったのです」(←
「気が変わって、どこか他のところへ行ったの?」
「(ギョッ。やっぱ嘘言うとロクなことない。えーとえーとそのビザの日付とおんなじ時期で
パスポートにスタンプが残っている国といえば…ハッ)ブータンです」
「…ああ、これね。OK!」
* * *
ちなみにインドネシアに食いつくのは、かの国が世界一のムスリム大国だからであろう。
見事に欧州諸国はスルーし、判読不能なものも多いのにスタンプで国を正確に把握する技術は流石である。20分ほどで解放されるものの、その先でもう1回と出国審査、そして送られた別室で計4回、ほとんど同じ質問をされた。
意外なことに、「わかりません」「忘れました」「知りません」が思いのほか通用する。
行程中すべてのホテルの予約確認書と行程書(多少編集済みだが、うそは書いていない)を英語とヘブライ語で用意していたが、それでもパスポートコントロールでは散々質問をされた揚句、別室へ送られた。が、アメリカの空港で送られた「別室」のようにものものしい雰囲気は無く、同じフロアのオープンコーナーの一画で、閉ざされてもいない。そこで順番待ちをしているのも、アメリカのときのようにアルカイダのような外見の人々ではなく、見るからに若いバックパッカー達。
つまり、やっぱり「パスポートのスタンプ」が問題視されているだけなのだろう。
なんと、テレビまで設置されているという高待遇でもある。マンチェスターユナイテッドの試合が始まるところで、日の丸を掲げた日本人サポーターが映った。昨今のサッカー事情にはまるで疎いが、カガワだかナガトモだか、なにかしら天才的な選手が移籍でもしたのであろう。
懐っこい表情のバックパッカーたちは、TVとわたしのパスポートのJAPANの文字を認めると、スクリーン真ん前の席をあけてくれた。
…90分、待てって? 思わず、苦笑する。
しかし想定の範囲内だ。入国拒否なんてほぼ有り得ないし、
今晩の予定など勿論入れていない。待てばいいのだ。心穏やかに。
* * *
意外なほど早く呼ばれた。賢そうな男性。大ボスか?頼む、ラスボスであってくれ。
審査官たちは皆大真面目で、冗談を言っても絶対に笑ってくれなさそうな険しい顔。
もっと、「プレイ」というか、いじわるなドSっぷりを予想していたのだが、
対応はいずれも誠実極まりないもので、相手に対する敬意すら存分に感じた。
お決まりの質問(4度目ともなると、英語もスラスラ出てくる)が終わると、意外なことを聞かれた。
「なぜそんなに旅ができるのですか?」(capability、という単語を使っていた)
「…質問の意味がわかりませんが。」
「失礼、時間の問題と、お金の問題です」
「時間の問題はまあ、日本にも休暇はあるから」
「日本人はそんなに休めないでしょう?」
「それはちょっと昔の話で、年に2回くらいの短いバケーションは取れます」
「職業は?」
「会社員です」
「稼いでるんですね?」
「…ハァ…」
「業務内容と、お勤め先の会社は何をしている会社?」
「広告代理店で、TVCMとか作ってます」(←若干違うが
「年収は?」
「…XXドルくらいですが…」
「このエアチケットはいくらで買ったのですか?」
「…XXドルくらいですが…?」
「この行程表にある、イスラエルの旅行代理店に払った金額は?」
「…XXドルくらいですが…??」
「そしたらもう今月お金ないじゃないですか」
「(よ・け・い・な・お・せ・わ!!!!!!)そーよ!働いて、旅して、エンプティーよ!
なんか問題ある?!いや確かに問題だけど、少なくともそれは“ワタシの”問題だわッ!!!!!」
…だから、怒るなと。自分。
彼が何に納得し、何を判断したのかはわからない。
3分後、再び奥へ消えた彼は入国スタンプを押した別紙を挟んで、パスポートを返して寄越した。
今度は素通りしたパスポートコントロールの先で別紙は回収されて破られ、ようやく荷物カウンターへ。
「もしもし」
「(まだ何かッ?!)…はい、どおぞ」(思わず、条件反射的にパスポートを差し出す)
「武器を持っていますか」
「………。いえ?」
「そのスーツケースに、爆弾は入っていますか」
「いいえ……。(脱力)」
それでも、飛行機を降りて、約2時間ちょっと。上出来ではなかろうか。
* * *
地下に降り、テルアビブ市街までの列車のチケットを買う。
ホームと時間まで教えてくれたお姉さんは親切で、駅のホームに沢山いる軍隊の制服は、
着ている中身が子どもすぎて高校の制服のようにさえ見える。
ようやくと空港をあとにし、やはり精神的にはそれでも若干疲弊して、電車に揺られた。
着いた駅は決して大きな駅ではなかったが、駅から出るのにはX線検査に持っている荷物を全部通して、鉄の棒が沢山はまった小さい回転ドアをくぐらねばならなかった。
とんでもない旅がはじまったと、このときのわたしは確かに思っていた。
つづく