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2011/01/21

先日の内閣改造を契機に、一気に機運が高まってきた「TPP」。

で、「TPP」ってなんじゃい?
という方も、たぶん少なくないのではないだろうか。

環太平洋戦略的経済連携協定
Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement
縮めて、Trans-Pacific Partnership、これを略して「TPP」だ。

英語の時点で、長過ぎて縮められているという体たらく。
漢字が連続して10文字を超えると、途端に暗号にしか見えなくなる。

という、低次元なTPP批判はさておき。

文字面だけ読んでみたところで、
環太平洋地域で、経済的に仲良くやりましょう、ということはわかる。
中身も、概ねその通りだ。

ただ、この「TPP」、参加している国がちょっと特殊だ。
いや、特殊では語弊があるが、日本人にはやや馴染みの薄い国が並ぶ。

現加盟国は、シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイの4ヵ国。
たった4ヵ国で環太平洋とは、随分とうそぶいたものだと感心するが、
たしかにこの4ヵ国を地図上に並べてみると、環太平洋という言葉以外では、
形容する言葉が見当たらないのも事実。

この4ヵ国だけで事が進んでいる分には、
日本もさほど神経質になる話ではなかったのだが、
ここに、以下の国々が興味を持ちはじめたあたりから、雲行きが怪しくなる。

それは、米国、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシアの5ヵ国。

米国が入っていることからも分かる通り、
ここまで来ると、ちょっとした規模の経済集団になることは間違いない。

これは日本も傍観してばかりはいられない、
と慌てふためきだしたのが昨年の話。

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この「TPP」参加の是非を巡っては、国内でも賛否両論あることは、
おそらく報道などを通して聞いたことくらいはあるだろう。

簡単に言うと、輸出入に関して制限が少なくなるので、
輸出を増やしたい(国際競争力がある)産業にとってはメリットがあり、
輸入を減らしたい(国際競争力がない)産業にとってはデメリットがある、
ということになる。

例えば、前者は自動車であり、後者はコメだ。

で、結果として生じたのが、農水省VS経産省という身内争い。
下記が、各省がTPP参加是非を問うためにまとめた試算である。

農業への影響試算(農林水産省)
前提)主要農産品19品目について、
全世界を対象に直ちに関税撤廃を行い、
何らの対策も講じない場合:

食料自給率の減少:40%→14%程度
GDPの減少額:▲7.9兆円
就業機会の減少:▲340万人

基幹産業への影響試算(経済産業省)
前提)日本がTPP、対EU、対中国経済協定をいずれも締結せず、
韓国が対米国、対EU、対中国経済協定を締結した場合、
「自動車」「電気電子」「機械産業」の3業種について、
2020年までに米国・EU・中国において市場シェアを失う影響:

GDPの減少額:▲10.5兆円
就業機会の減少:▲81.2万人

EPAに関する各種試算│内閣官房
http://www.meti.go.jp/topic/downloadfiles/101027strategy02_00_00.pdf

これを見て、じゃあTPPには参加するべきか否か、
判別できる人がいたらちょっと凄い。

というのも、そもそも前提がズレている、というよりズラされているからだ。

農水省は、勝手に「全世界を対象に直ちに関税撤廃を行い」などと、
大風呂敷を広げはじめたかと思えば、
経産省は、勝手に韓国を仮想敵として設定する始末。

ここまで来ると、およそ数字を並べることには何の意味も無い。

とはいえ、たしかに産業界にとって、TPPに入らなければ見通しは暗い、
という見方が大勢を占めていることも、また事実なようだ。

帝国データバンク調べによれば、以下のアンケート結果が得られたという。

TPPへの参加、企業の65.0%が日本にとって「必要」
不参加の場合、7 割超の企業が景気に「悪影響」と認識

TPPに関する企業の意識調査│帝国データバンク
http://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/keiki_w1012.pdf

言わば、消極的な参加を強いられる事態。

政府としては、TPPへの参加を前提とした上で、
如何にして国内農業を守るべきか、という方向に舵を切ったようだ。

だが、いまや日本の農業従事者の平均年齢は齢60歳を超え、
若者の就職難が叫ばれる一方で、農業を志す若者は一向に増えない。
国内農業にテコ入れするための目処は、何一つ立っていないのが現状だ。

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と、今回、いきなり「TPP」のことに触れたのは、

まさにこの、農業に関する問題について、最近考える機会が増えたためだ。

前にも何かの折に取り上げた記憶があるが、
世界人口は70億人に達しようとしており、さらに増加の一途を辿っている。
一方で、農作物はせいぜい50億人を養う程度しか収穫できないという。

このあからさまな不均衡が引き金となって、
世界各国で、農地の争奪戦が起きている。

中国や韓国は、足早にアフリカに農地を確保した。
そして、もちろん、日本はその流れに乗り遅れた。

多少の装飾が交じっているとはいえ、ここまでが事実。

この流れを、現代の「植民地化」だと非難する声もあるが、
中国に散々工場を建てて「世界の工場」などと呼んでおいて、
農業について、同じことをするのはルール違反だ、などと、
自分のことを棚にあげるのはお門違いだろう。

かといって、
自動車がなくてもヒトは死なないが、食べ物がないとヒトは死ぬ。
だから農業のほうが大切だ、というのは短絡的な議論でしかない。

自動車が売れないとカネがなくなって、カネがないと食べ物が買えなくて、
結局、ヒトは死ぬのだ。

少なくとも、今の経済構造の中では。

もう少し論を発展させたいところだが、
紙幅の関係もあるので、今日のところはこのあたりで。

2011/01/21 12:00 | fujiwara | No Comments