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2011/02/11

前回の記事から早一週間。
エジプトは、依然、争乱の最中にある。

しかし、遅かれ早かれ、時代が動くことになるのは間違いない。
願わくば、武力衝突ではない方法で、政権移行を果たしてほしい。

さて。
今回は、そんなエジプトの話を教訓にしながら、
前回、問題提起した、インターネットが「革命」を促すキーではなく、
「民主主義」を推進するアクセルになりうるか、を考えていきたい。

「インターネットを使った民主主義のことなら、
『エストニア』を調べてみるといいよ」

実は、つい先日、そんな話を聞かされた。
ちょうどチュニジア政変が起きたばかりのころ。
まだ、エジプトの話は微塵も出てきていないころのことだ。

エストニアは、いま八百長問題で揺れる大相撲の把瑠都の出身国、
と聞いてピンとくる人は、まあそう多くはないだろう。
バルト海に面した、ヨーロッパの小国。

すぐ東にはロシア、北にはフィンランドがある。

estonia
ここだ。

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調べてみると、なるほど、
エストニアはICT先進国だということがすぐにわかった。

2005年、地方選挙において、世界で初めてインターネット投票を実現。
2007年、オンラインで確定申告を行った人は86%にも上ったという。
国民は電子IDカードの所持が義務化されており、
ネットバンキング等、さまざまなサービスを受けられるとか。

ICTを国家戦略に活用するバルト海の小国・エストニア │ マイコミジャーナル
http://journal.mycom.co.jp/articles/2008/10/28/estonia/

北欧の小国エストニアは電子政府の先進国! │ NTT GROUP MAGAZINE
http://www.ntt.co.jp/365/book_data/book_vol25/04-wwt/

日本では、住基ネットの導入だけでも四苦八苦していたわけだが、
エストニアは、二の足を踏む先進諸国をあっさりと置き去りにした。

これは、1991年に独立を果たしたばかりの新興国であることが効いている。
どうせ新しく仕組みをつくるなら、当時の最先端を取り入れてやろう、
そんな気概があったことは想像に難くない。
人口140万足らずの小国であることが、その足枷を軽くした面もありそうだ。

また、北欧は、どういうわけか、先端技術が生まれる土地柄であるようだ。
携帯電話メーカーとして世界No.1を誇るノキアはフィンランド発。
いまやWebサーバー運営に欠かせないOSとなったLinuxも同上。
そして、世界中の通信業界を震撼させたSkypeを生んだのが、エストニアだ。

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そんなエストニアは、しかし、
2007年、皮肉にも、国家規模のサイバー戦争の最初の標的となった。
日本ではおそらく小さな扱いだったので、記憶に無い方も多いだろう。
恥ずかしながら、筆者も全く覚えがなかった。

詳しくは下記リンク先を読んでもらえればいいのだが、
かいつまんで説明すると、(おそらく)ロシアからのサイバー攻撃を受け、
エストニアのネットインフラはパンクに追い込まれた。
前述の通り、社会サービスの多くをインターネットに依存している同国は、
一時、大混乱に陥り、一度、国外とのネット通信を遮断し事態を収拾した。

初の”サイバー戦争”!? 狙われたIT先進国エストニア │ マイコミジャーナル
http://journal.mycom.co.jp/articles/2007/08/14/blackhat1/

銀行とめたエストニアへの攻撃「犯人」は分からぬまま │ 朝日新聞 GLOBE
http://globe.asahi.com/feature/101004/02_1.html

他の国ならいざ知らず。
この事件は、間違いなく、エストニアにおいては民主主義の危機であった。

だが、このことは、残念ながら、インターネットが、
「民主主義」を推進するアクセルであることを意味しない。
せいぜい、「民主主義」を牽引する、牽引車、といったところだ。
自走式ではない。

インターネットが民主主義的であると言われるゆえんのひとつは、
国家主権の及ばない連帯を生み、コミュニティを育てるからだ。
エジプト政府は、だからこそ、インターネットを遮断した。
その連帯を断つために。

ただし、普段の生活の中では、情報は一部の企業に集積され、
情報を与える側と与えられる側というヒエラルキーは変わらない。
それが、政府か、民間か、という違いだけだ。

あるいは、民間にその権力を委ねる方が、
よっぽど危険なような気がしなくもない。

2011/02/11 12:00 | fujiwara | No Comments