« | Home | »

2010/12/09

2010年5月21日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)よって打ち上げられた金星探査機「あかつき」は、金星周回軌道へ減速させて投入するため、12月7日8時49分(JST)に軌道制御エンジン(OME)の逆噴射を開始した。しかし、噴射開始から2分23秒後2分32秒(152秒)後に姿勢を崩して(ひっくり返って回転を始めた X軸周りに42度回転)、自動的に噴射を中断しセーフホールドモード*に移行。その結果、当初予定されていた12分間の2割程度しかOME噴射が実施されず、十分な減加速度を得ることができず、金星を通り過ぎてしまった。イオンエンジンを使った「はやぶさ」と違い、ホーマン軌道で惑星へ向う場合、決められた時間と場所で、決められた継続時間だけ加速できなければ周回軌道に入れないという難しさがある。火星探査機「のぞみ」(1998-2003年)が、火星周回軌道に入れなかったリベンジでもあった。

Akatsuki-1Akatsuki-2(JAXA)

  • ※セーフ・ホールド・モード(Safe-hold mode)
    宇宙機の安全を最優先とした自律判断で移行するモードで、宇宙機に何らかの致命的な問題が発生したときに、通信などの必要最小限の機器を除き全ての機能が停止状態となり、スピンして姿勢を安定させながら、電力確保のため太陽電池パドルを太陽に向けている状態。
  • 以下の記事が詳しい;
  • 金星探査機「あかつき」に新情報、燃料タンクの圧力が異常低下していた
    http://journal.mycom.co.jp/articles/2010/12/10/planet-c_venus/index.html
  • あかつき金星周回軌道投入失敗、12月10日午前11時からの記者会見
    http://smatsu.air-nifty.com/lbyd/2010/12/121011-303f.html

しかし、探査機が失われた訳ではなく、6年後に再び金星に接近したときに、金星周回軌道に乗るチャンスがあることが分かった。今回、金星周回軌道に乗ることには失敗したものの、「あかつき」ミッションが失敗に終わった訳ではない。一部の報道では、日本の惑星探査に暗雲の兆しと報じられているが、その解釈は間違っており誤解を生む。単純に比較はできないが、例えば米・旧ソ連が火星を争ったときなどは、およそ30機の探査機が向かい、約20機が失敗している。失敗が許される訳ではない。今回の問題点を解決して、「あかつき」は日本初の惑星周回探査機になって欲しい。また、「あかつき」に搭載されているIR2という赤外線カメラは、黄道面を漂う塵(黄道光ダスト)の観測を行う設計にもなっており(金星の軌道傾斜角が僅かに高いため、黄道面の上から塵の外にでて観測できるメリットがあかつき軌道にある)、金星到着までの間はこちらの観測も行う予定になっている。

さて問題は、これから6年間どうやって探査機を延命させるかだけではない。現在ミッションに携わっている主力は、明らかにポスドクや研究員、あるいは大学院生達である。彼ら彼女らをどうやって継続雇用していくのだろうか? プロジェクトの長期化にともない予算が削減されるのは明白なので、真っ先に首を切られるのはポスドク・研究員達である。「はやぶさ」による小惑星イトカワ探査の時も、ポスドクらが主力となっていた。小生も「はやぶさ・ポスドク」の時は、ロケット打ち上げ後に首を切られ(任期満了で延長契約できず)、欧州で2年間をポスドクとして過ごし、小惑星到着後に再び「はやぶさ・ポスドク」に採用された経緯がある。ミッションの主力でありながら危うい橋を渡っているポスドク達は、まさに探査機と運命共同体なのである。

「あかつき」だけでなく、彼ら彼女らがこれから6年間を生き延びて、再び金星と巡り会えるように応援したい。ファイト!

「あかつき」特設サイト
http://www.jaxa.jp/countdown/f17/index_j.html

Akatsuki

  • ※ポスドク研究員, Postdoctral fellow
    博士号を取得したが、パーマネントな研究職、教育職についていない大学等研究機関の研究員。

追記;

金星通過後の12月9日午前9時頃、「あかつき」は、約60万km(地球と月の距離の1.5倍ほどの距離)から金星を撮影した。「あかつき」が一瞬でも金星探査機になった証拠だ。距離は遠いが見事な画像だけに、金星周回軌道に入れなかったことが悔まれる。「あかつき」が暫しの別れの前に「6年後に再び会おう!」と女神(ヴィーナス)に誓っているような印象を受ける。

「あかつき」金星探査機搭載のUVIカメラ(波長365nm,視野12°x12°)、IR1カメラ(波長900nm,視野12°x12°)とLIRカメラ(波長10μm,視野16.4°x12.4°)画像で撮影した金星。
UVI-IR1-LIR提供;JAXA
画像は人工的に着色(UVI画像:青色 IR1画像:橙色)

素朴な質問

  • IR1カメラで見るリムが二重に見えているのは何故?
  • UVIカメラだと金星大気が大きく見えるのは高層大気を観ている?(単に時刻が違うから?)
  • 赤外線で金星の雲を通して地形(山脈?)の様子がムラムラと見えているのが凄い!左上の黒い影とか右下の白いスポットとか、ムラムラが何なのかが気になる。
2010/12/09 03:55 | abe | No Comments