« 脱穀、籾選(唐箕掛け) | Home | シーズン前 »
彼女は、会うたびに違う人のような気がする。
男の子のように元気だった小学生時代は真っ黒な髪をおかっぱにしていたし、中学になってなぜかビジュアル系のような激しい服装に走り、高校時代は割合まともな女子高生像を地でいき、大学生の頃は男ウケを狙ってたのかコンサバティブな服を着ていた。勿論その時々で口調も違えば言葉づかいも違っていて、突然自分のことを「オレ」と言ったり「わたし」だったり挙句の果てには名前で呼んでいたり、した。どうやら今は活発な清純派路線を目指しているようだけれども、それは就職活動のためだろう。今日も出しなに面接の難しさをとうとうと語り、しかも話してる最中に「あ、ごめん時間だから行くわ」と勝手なことこの上ない。
僕はと言えば、その間ずっと歯ブラシを手にしたままだった。
このよくわからない生き物は僕の20年来の幼馴染なのだけれども、その思考回路を理解することは不可能に近い。嵐のような、なんというか巻き込み事故のようなひとなのだった。
「あのさあ、今から行くから窓あけといて」
その彼女から電話がかかってきたのはもう24時を回ろうかと言う時間だった。「行ってもいい?」ではなくて「行くから」。すっかり寝る支度を済ませていた僕はため息をついてベランダの鍵を開けた。相当な老朽化が進んでいるこの社宅のベランダは防火扉が完全に壊れており、本当に簡単に外すことが出来、彼女はよくこの方法で僕の部屋に上がり込んだ。
思った通り、彼女はぶすくれた顔で「遅い」と僕のことをなじった。長い髪が揺れる度、12月の冷気が這い上がってくるような気がした。
「今日はどうしたの」
「どうもしない。むかついてるだけ」
とりあえず部屋に上げて、インスタントコーヒーを渡す。逆らったら後が怖い。理由を言わない訳に心当たりがあったので、僕は黙って椅子のほうに腰かけた。15分ぐらい、二人とも黙っていた。突然、彼女は爆発するように泣いた。声も殺さず、身も蓋もなく、号泣した。ふざけんなよおっ、ぶっ殺してやるう、もうマジで死ねばいいのに。呪詛をコーヒーカップにまきちらしながら、彼女はこの世の終わりのように泣く。
いつものパターン。
別人のように姿形がいつも違う彼女の、これだけは変わらないこと。
失恋の度に僕を巻き込むのは止めてほしいと思うけれども、無くなったらそれはそれで寂しいのかもしれないと、僕は目の前で九の字になっている彼女のことを眺めている。
====================================================
花言葉:何も変わらない
*今回の画像は「Photolibrary」さまからお借りしました。