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2011/01/03

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1月は誰にとっても憂鬱な時期なのかもしれない、と足元の雪を蹴りながら歩いた。東京都内のくせに半端に田舎なこの街では時々こんな風に雪が積もる。どうせすぐに溶けてべちゃべちゃになるくせに。思わず付いたため息も、気持ち重くて地面にそのまま落ちてしまう気がした。
家に帰りたくなかった。鞄の中には先月受けた模試の結果が入っている。志望校の判定はC だった。なんて言えばいいんだろう、って受け取った瞬間から考えてた。どんなふうに言ったら一番ベストなんだろう。本番では頑張るから? 今から一生懸命勉強するから? それとも素直に志望校を変えたほうがいい? いろんな言葉がぬかるんだ道みたいな頭の中をぐるぐる回って消えた。だって今からじゃどうにもならないって、あたしだって分かってる。
分かってるけど。

志望校を変えたくないのは、先生と同じ大学に行きたいからだ。
学校なんてろくに行かなくて出席日数ギリギリで学校に呼び出された翌日、ママは先生を連れてきた。家庭教師とかありえないって思ったけど、先生も自分がセンセイと呼ばれることに戸惑っているみたいだった。当たり前だ。だってほんの2、3年前まで「お兄ちゃん」ってあたしはその人を呼んでいたから。
お兄ちゃんと言いつつ先生はあたしより10歳は年上だ。苦労人で高卒で就職した後どうしてもとりたい資格があるって夜学に入って、そんで今は仕事を辞めて大学院に通ってる。ひょろひょろと背ばっかり高くて猫背で頼りないその人はうちの近所に住んでいて、ママのパート先でバイトをしている。そんなわけで引っ張ってこられちゃったんだろうけど、先生はとりあえず申し訳程度に開いたノートと問題集には目もくれずひたすらあたしの話を聞こうとした。なんで学校にいかないのか。なんで友達はくだらないのか。何こいつマジきもいって最初はちょっと思ったけど、ウサギみたいな黒い目で真剣に話を聞こうとする。あたしの話を。あたしなんかの話を。

「学校に行かなきゃだめだよ」

先生はいつもそういった。全然違う考え方の人が集まってるんだから楽しいわけなんてない。だからそういう場所で自分をちゃんとキープしておくためのトレーニングなんだって。

「大学に行けるならいっておいた方がいい。やりたいことがないなら尚更だよ」

将来やりたいことが出来た時のために、来なくてもいい未来がきちゃったときのために、大卒って肩書は必要なんだって、先生は真っ黒な目を静かに潤ませて言う。
だから先生のことが好きだって思った。
大人はいつもそれをやれって言う癖に、どうしてやんなきゃなんないのかってことは教えて何かくれなかった。先生だけが教えてくれた。
だから先生と同じ学校に行きたかった。

家庭教師は今月で終わり。
先生を悲しませないように、あたしはなんて言ったらいいんだろう、ってまた気が付いたらため息が出た。どんなこと言ったって、先生は大丈夫だよって言ってくれると思うけど。
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花言葉:全てを捧げる
*今回の画像は「Photolibrary」さまからお借りしました。

2011/01/03 11:35 | momou | No Comments