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2012/12/31

2012年もさいごの一日となった。
では、今年一番注目を集めた医療関係のニュースとはいったいどれか、と考えたとき、それはやはり山中伸弥現京都大学教授のノーベル生理学・医学賞受賞ではないかと僕は思う。

iPS細胞とは、かいつまんで言えば、爪にでも腸にでも、すなわちどんな組織・臓器になることもできる細胞だ。同じような働きをもつものとしてはES細胞があるが、これは胚、つまり赤ちゃんになる以前の状態の人間のもとを利用するため、倫理的な問題をクリアできていない。
加えて、黄禹錫前ソウル大学教授による論文ねつ造問題が発覚したことで、このような細胞の研究は一時停滞していた。
それをブレイクスルーしたのが山中教授である。

自分の細胞をもとに、あらゆるからだのパーツをつくることができるのであるから、わかりやすいところでは、拒絶反応のない移植用臓器をつくることができる。また、患者の臓器のモデルをつくり、より個人に効果的な薬なり、治療法を開発することもできるというわけだ。
究極のオーダーメイド医療である。理論上は女性から精子をつくることも可能と言われるから、SF映画にあるような、からだのパーツの予備をストックしておくようなことも、夢ではないのかもしれない。
それを夢にするのがどんなひとなのかはわからないけれど。

山中教授の功績は他媒体に詳しく、僕のようなものが改めて語るまでもない。僕が注目しているのは、山中教授の家族構成だ。それも、あまりに個人的な理由である。
山中教授の父親は工学部を卒業し、町工場を経営しているとのこと。僕が勝手な親近感を山中教授に抱いてしまうのは、僕の父も工学部出身で、現在は中小工場の経営に携わっているためだ。
もちろん、山中教授は医師でもある。医師免許取得後しばらくは整形外科医として勤務されていたのは有名だろう。山中教授は高校時代、父親から医師になることを勧められたとのこと。
正直、僕の父はあまり家にいない人だったため、将来の選択に関する助言をたまわった記憶はほとんどない。ひとかどの人物になるのに青年期にこのようなエピソードが必要なのだとすれば、僕はスタートでつまずいてしまったようだ。

ここでひとつの疑問が生まれる。ほかの医学生たちは、どのような生い立ちで医学生になったのだろう。
一般的には、医者の子どもが医者になると考えるかたが多いようである。僕が医学生であると自己紹介すると、ほぼ必ず聞かれるのが、「では、お父様かお母様がお医者さんなのですか」という質問だ。
四半世紀ちかくを生きて、親も人なりと身に染み、実家に寄りつかなくなった僕には、苦笑いでいいえと返すことしかできないが、じっさい、国立大学の医学生のなかでは、必ずしも医者の子どもが医者になるわけではないように思うのだ。
実感として、半分くらいというところか。
山中教授の例しかり、医者でなくとも子どもに医者になるよう勧めることもあれば、親が医者だからこそ医者にだけはなりたくないという声もまたよく聞かれる。
良くも悪くも、医療はやはり特殊な職種で、子どもはかなり近いところからそれに触れやすいのだ。
ちなみに山中教授のご息女2名であるが、どうやら医学部に進学されているらしい。さらに、奥様もどうやら医者であるらしい。iPS細胞の由来がiPodであることを考えてみれば、彼女らはさぞユニークなお父様を介して医学に触れ、そして感ずるところがあったのだろう。

さて、そこで僕である。
生い立ちを重ねてみたものの、共通点はと問われれば医学部に在籍していることを除けばそう多くない。
しかし、学生時代に運動部で部活に明け暮れ、整形外科を志したのち、研究の道に進まれた山中教授について思うにつけ、僕もまた、何かしらを後輩諸氏に残すとのできる医学者になる可能性が、まったくの0ではないのではないかと甘い夢を見るのである。

それは言うまでもなくこれからの努力次第だ。今年はあと数時間で終わってしまう。

来年もご指導ご鞭撻の程よろしくお願いいたします。良いお年を。

2012/12/31 06:30 | kuchiki | No Comments