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前々回記事最後の方で語りました、「チャンピオンシップ」は、IJAとJJFで開催されています。(EJCでは開催されません。)
IJAのチャンピオンシップは実質「世界一のジャグラー決定戦」の位置づけであり、
JJFのチャンピオンシップは「日本一のジャグラー決定戦」です。
実際にはそういう触れ込みはありませんが、多くのジャグラーがそう思っていることでしょう。
このチャンピオンシップは、
通常、ジャグラーが人前でパフォーマンスをするものとは大分趣が違います。
客席はほぼ全員がジャグラー。生半可な技では、拍手すら起こりません。
ただ、大技を決めた時は、客席全体から「おおおっ!!!」という大きな声が沸きあがり、惜しみない拍手が送られます。
制限時間いっぱい、観客のテンションを上げ続けたジャグラーには、スタンディングオベーションが送られるはず。
特に日本人などは、「スタンディングオベーション」をするなど、普通の観劇などでは考えられないのではないでしょうか。
これが、周りの空気に影響され、本当に素晴らしい演技を見た時は、自然と立ち上がってしまうのだから不思議です。
そんなジャグリングの大会ですが、しょっちゅうジャグラーの間で話題になるのが、
「何をもって高得点が得られるのかがわからない」ということ。
一応審査基準があり、審査員はそれにのっとった審査をしているのですが、
そもそも一人ひとり使っている道具が違うのに、それを同じものさしで評価するなど、できっこありません。
極端な例をあげるとすれば、
「プロ野球のホームラン王と、5つ星ホテルのオーナーシェフと、ノーベル化学賞受賞者と誰が一番すごい?」
と言っているようなもんです。
そこまで極端ではないにしても、やり投げと砲丸投げと梅干しの種飛ばしくらいの違いはあります。
審査をして、順位をつけること自体がナンセンスなんです。
ただ、その「ナンセンス」さは、言わなくても、どのジャグラーもわかっているはず。
「ナンセンス」だとしても、他のまったく違う道具を使っているジャグラーを圧倒するため、恐ろしい数の反復練習をします。
たとえ「ナンセンス」だとしても、「誰の目から見ても圧倒的に秀でていれば」1位になれるのですから。
そして、そんなジャグラーばかりがチャンピオンシップに出るため、毎年審査員の頭を悩ませることになります。
2007年にJJFで優勝をした「S(エス)」は、僕が大学を卒業した後に入った後輩です。彼の得意な道具は「デビルスティック」と呼ばれる道具で、杖状の道具を、手に持った2本の棒で叩きながら浮かせるものです。(彼の場合、最初は敢えて1本だけを持ってやっていますが。) ジャグリングを知らない人から見ると、磁石でも入っているのじゃないかと思われがちな道具ですが、使っているのは摩擦の力だけです。
彼は、この6分間のために、800回反復練習をし、彼の「デビルスティック」を15本折ったそうです。
(ちなみに、僕はこのデビルスティックと言う道具を11年使っていますが、まだ一度も折れたことがありません。)
途中、ミスが重なってしまっている箇所はありますが、6分間という長さの中で3回というのは
「たったの3回」であり、大きな評価に値します。
そして、何より、大技を全て一発で成功させたところが彼の勝因でしょう。
構成を見ても随所に工夫が見られます。大きく分けて2部構成になっていますが、
前半はあまり大技をいれず、観客の「拍手をしたい」という気持ちを溜めます。
そして、2:55の大技でその拍手を爆発させます。
逆に後半は、随所で拍手のポイントを作り、本当に見せたい大技に向けて徐々に観客のボルテージを上げます。
そして、5:05に彼がやった大技の後、会場の空気が完全に変わったのがわかるでしょうか。
タイミングとしても、「不意打ち」という言葉がふさわしい突然の大技で、観客の驚きに拍車をかけています。
この会場にいる誰もがこの瞬間に彼の優勝を確信しましたが、その後、追い討ちをかけるように、連続技を繰り出し、
さらに5:30に「ダメ押し」の大技を繰り出します。
そして、6分間が終わった後、深々と観客に向かって礼をし、
しばらく置いた後に観客が立ち上がって彼に向かって惜しみない拍手を送ります。
ジャグリングの演技に順位をつけることはナンセンス。
しかし、そんなナンセンスな順位がつく大会であるため、
他のジャグラーに負けたくないという思いが練習意欲につながり、
そして、日本のジャグリングの凄まじいレベルアップにつながっているのです。
本当は、JJFのチャンピオンシップを語るには、
まだまだ紹介したい動画・演技がたくさんありますが、
あまりいっぱい出してしまうと後々ネタに困りそうなので、今回はこのくらいで……。