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こんばんは、酒井孝祥です。
前々回お話しした狂言などであれば、初めて観に行く場合に、初めてだからと言って、特に演目を選ぶ必要はないかと思います。
しかし、歌舞伎の場合は、初めて観に行く方にお勧めの演目がいくつかあります。
中でも一番のお勧めは「勧進帳」です。
僕が個人的にそう思うだけでなく、評論家の方達の中でも、「勧進帳」が初心者にお勧めだと仰る方はいらっしゃいます。
酒井が初めて歌舞伎に触れたのは、ある演劇のワークショップです。
そのワークショップのテキストとして用いられたのが「勧進帳」の“山伏問答”です。
当事、古典の世界に縁がなかった酒井は、「演劇のワークショップでなぜ歌舞伎?」と最初は疑問を抱いたものですが、古典芸能の魅力を知るきっかけとなった作品です。
「勧進帳」のストーリーについて説明いたします。
ネタバレと言えばネタバレですが、古典の言葉が理解出来ずにストーリーを見失うよりも、事前に知っていた方が安心して楽しめるかと思います。
時代物のテレビドラマなどで、武蔵坊弁慶が、関所の番人を欺くために、主君である源義経を棒で叩くシーンをご覧になったことはありますでしょうか?
その一連の物語です。
源平の合戦で大活躍をしたヒーロー源義経ですが、兄である源頼朝に疎まれることになり、奥州藤原氏を頼って、東北方面へと逃げて行きます。
追っ手の目を欺くため、義経一行は山伏の格好をして(義経のみ、荷物持ちである“強力〈ごうりき〉”の装い)旅を続けていますが、義経一行が山伏に化けているという噂は既に広まっており、義経達が安宅の関所を越えようとしたとき、関所の番人である富樫左衛門は、山伏の格好をした一行を執拗に詮議します。
山伏が諸国を旅するにあたっては、その目的、大義名分を記した“勧進帳”を持っているはずで、本物の山伏であることを証明するために、“勧進帳”を読んでみろと富樫は言います。
山伏のリーダー格に扮した弁慶は、白紙の巻物を取り出して、何も書いていない紙を見ながら、いかにもそれらしいことをアドリブで堂々と読み上げてしまいます。
それでも富樫は引き下がらずに、なんとかボロを出させようと、山伏が身につけている衣装の由来などについて、事細かに質問攻めにしてきます。
それに対しても弁慶は易々と答え、ついに富樫を説き伏せてしまいます。
疑いが晴れて悠々と関所を抜けようとしたところで、富樫の部下の一人が、強力が義経に似ていると言い出します。
もはやこれまでと、富樫達に斬りかかろうとする一同を弁慶は押し留め、一芝居を行います。
弁慶は、強力に扮した義経を、「お前のせいで疑われたんだ!」と、棒で滅多打ちにするのです。
叩き殺すくらいの勢いで打ちます。
それを見た富樫は、疑いを晴らした…というよりも、強力が本物の義経だとしたら、そこまでして主君を守ろうとする弁慶の義に心を打たれ、彼らを通すことにします。
ストーリーはシンプルながらも男気に溢れたもので、歌舞伎音楽、歌舞伎舞踊の魅力もつまった、さながら日本版オペラの様な内容です。
初めて歌舞伎に触れる方にとって、観応え、聴き応えのある作品であること間違いありません。
「勧進帳」の魅力をこのまま語っているといくらでも長くなりますので、今回はストーリー紹介に留め、また次回、その魅力について語ろうと思います。
次回は、「究極のバトル“勧進帳・山伏問答”」をテーマにしたコラムをお届けします。