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2012/09/17

今日は台風へと吹き込む温かい湿った空気の影響で雨が降ったりやんだり、秋冬野菜の種降ろしも終盤を迎える頃ですが、一休みの一日になりました。 ご無沙汰しております。お百姓になりたい、川口巽次郎です。

今年の夏もこの谷間は小雨でした。灌水もしてあげない中、野菜たちは一生懸命に身を縮めて暑さと乾燥に耐えつつ実を結ぶ準備をしていました。中には耐えきれずに枯れてゆく作物もあります。が、こんな小雨でも乾燥を好む瓜類はとても元気で、今年は胡瓜、縞瓜(冬瓜の親戚みたいな瓜)、メロンなどが特に良く採れました。中でも、余計な肥料や水をあげないで育った自然農のメロンの美味しさには、将に目を見張らされました。

立派に大人に成長し、出穂・開花した田のお米や畦の豆たちも今はもう結実して、これからは日夜、実を太らせて立派な子孫を残す為の営みへと入っています。幸せな晩夏の時間が過ぎて行きます。

先日、そんな田の様子を畦から眺めていると、お隣の畑の方が声をかけて下さいました。

「あなたの稲は農薬も使っていないのに、病気にもかからずに立派に育っていますねえ!一本づつ植えているから、株間も大きく空いていて風通しが良いからでしょうね。」

ちなみに標準語に翻訳する前の原語では以下のような感じです。

「ああさんとこんいねあくすりもせんのにええようんなっとってどがんもねえな!いっぽんばあうえよるんじゃけえ、ようかぶがすいとうでかぜんとおるけえらくじゃ。」

煩雑になりますので、以下は標準語のみで。

私:「そうですね、よく育ってくれますよね。」

お隣さん: 「それでも蝗(イナゴ)に食べられるのは避けられないな。沢山居るなぁ。」

私:「全く沢山跳んでますよね。皆さんはイナゴ対策でも農薬を撒くのですか?」

お隣さん: 「蝗(イナゴ)対策に農薬撒く人もなかには居るけれど、蝗はその時だけ他所の田畑に逃げて出てしばらくしてから戻って来るだけだから大した効果はないな。」

私:「そうでしょうね。でも全部食べ尽くされてしまうような事はないし、我が家の稲の葉はしっかりしていて固いから、寧ろ稗を好んで食べてくれたりもするみたいですから、気にしなくても例年通り何とかなりますよ。」

お隣さん:「せっかく沢山居るのだから採って食べたらよいでしょう。」

というと、サッと手を伸ばして握った拳の中には蝗(イナゴ)が見事に治まっていました。

そして見る間に二匹三匹と捕まえて…。

という事で、仕方が無いから、わたくし、蝗を食べてみることにしました。

以前、お隣のおばあちゃんが遠くを見るような眼差しで、「田で捕って帰ったイナゴを炉端で塩焼きにして喰うたのが旨かったんじゃぁ…」と云うのを聞いて以来、いつかは喰べてみたいものでもあるな(でもちょっと怖い・笑)、と想っていましたが、ついにその時がやって来たのです。記念すべき我が百姓人生における狩猟生活への第一歩です。

数年前には猪を倒して豪快にその肉を焼いて喰っているマッチョな自分、というのを妄想していた事もあったのですが、意外にもスケールダウンしたデビュー戦となりました。

先ずは、私も蝗を捕まえてみます。最初は結構難しいものですが、何故か個体によっては私を舐めているのか碌に逃げようともしないで捕まるものもいます。何度か逃げられながらも試すうちには、子供時代に蝉やバッタを捕まえた頃の身体感覚も甦り、あっと云う間に10数匹を捕まえる事が出来ました。

この調子ならば売る程に捕獲する事も出来そうだ、と調子に乗りそうにもなりましたが、買ってくれそうな人も想い付かないし、もとより自分たちではそんなに沢山食べる気にはなりませんので、あっという間に狩猟は終了。

お隣のおばあちゃんは、蝗を捕まえてはその場で腰にぶら下げた針金に刺して筏(いかだ)のように並べていたものだった、と言っていましたが、初心者のわたくしにはそれは高度な荒業に想われましたので、現代人らしく、取り敢えずはビニールの袋に入れました。

袋の中でバシャバシャと跳ね回る音が哀れを誘います。

家に帰って、竹串に刺し並べ、直火で炙って羽やらを焼いてから、フライパンで塩煎りにしました。

なんだか香ばしい良い匂いが漂いました。

そして、晩ご飯の日本酒の肴に。

妻が小さな一匹を口にして言いました。「これは、ししゃもだねぇ!」

……

まぁ、そういう事です。

自然農の田では蝗も格別の味に育つようでした。

実はわたくし、大人になってからは蟲さんが大の苦手だったのです。自分がとうとうこんな事になったなんて、と感慨も一入に深いものがありました。

わたくしの狩猟生活、もうこちらの方面にはこれ以上進まなくても良いよなぁ、ともおもふ夕べ。

お酒が沁みました。

ちなみに、サラッと書きましたが、活きた蝗を火に炙る為に串刺しにするのが都会っ子には結構ハードルが高い様に想われました。まぁ、活き海老に串を打つのに比べればカワイイものですけど、蟲はまた格別ですからね…。

実は、後にご年輩の方に蝗の捕り方を見せて頂いたのですが、その方はその辺に穂を伸ばしている稗の穂軸を折り採って、捕まえた蝗の腹側の胸の辺りから背中に向けてさっとその穂軸を貫き通していました。すると蝗はぴくりともせずに静かになります。実に鮮やかな適切な殺め方でした。使うモノも全て身近な自然に還る素材でエコの極みです・笑。今後は私もこのやり方を見習おうと想います。

さて、次の狩猟生活へのステップアップの道は、池の鮒、空の雀か、はたまた、最近復活しつつあるという山の野兎か?乞う、ご期待を。

2012/09/17 04:44 | kawaguchi | No Comments