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2012/05/22

こんにちは。根本齒科室の根本です。

前回の失態に続いて、さっそく金環日食を見逃すなど、ダメ男街道一直線ですが
何とか-2SD内に復活しなければいけません。

次の皆既日食は、2035年9月2日。23年後です。私は65歳。
ごらんの皆様も、ぜひ今からこの日まで、歯を1本も失わないように頑張りましょう。
そして次こそは(は俺だけか?!)日食と美食を十分堪能しましょう。

さて今回は唐突ですが、資生堂の育毛剤「アデノバイタル」という子wwwのご紹介です。

今までコレ系を美容院で奨められて購入したことはなかったのですが、
今回はじめて購入に至りました。その経緯で思うところがあり、ちょっと書いてみます。

最近、ちらほらと白髪も気になってきたので、思い切って相談してみました。
墨田区本所からこちらに引っ越してきてから6年間、ずっとお世話になっているお店です。

根「良い白髪染めとかトリートメントはありませんかね?」

美容師さんの返事は、予想外のものだったのです。

美「やめたほうがいいですよ」
根「どうしてですか?」

◆ 驚きの展開

なぜやめた方がいいのかの理由が、気になって仕方ない。一瞬固まります。
美容師さんは、おもむろに、とんでもないことを口にしました。

美「あれ、髪の毛が緑色になるんですよ。知ってましたか?」
根「えーーっ、みっ、み・ど・り ですか?マジですか」

あまりの展開に、言葉を失いました。

・・・いやだっ!!

美「はい。最近問題になってるんですよ」
根「北海道に『まりも』ってありますよね。あんな感じですか」

ふざけて言ったつもりだったのに

美「はい、そうです」
根「えーーっ、まっ、ま・り・も ですか?マジですか」

もう私の頭の中は、 「特急『まりも(廃止)』」  「まりもっこり」 
ぐるぐる駆け巡っていて、混乱が収まりません。

何でも、ある種の白髪染めトリートメントの継続使用でとくに髪の毛が緑色になりやすく、最近も2件の相談を受けたばかりとのこと。

残念ながら、一旦緑色になってしまうと簡単に黒に戻らないのだそうです。
補色の赤系を乗せてもうまく乗らないようです。

(根本の聞いた記憶では)まずブリーチしてアッシュ系にして、それから
黒を乗せて戻す、という複雑なことになり、なかなか大変なのだそうです。

根「じゃあ、どうすればいいですか」
美「基本的には、白髪は根元から切って対応していく形になりますね」
美「あと、育毛剤がいいですよ」

根「えーーっ、いっ、育・毛・剤 ですか?マジですか」

(なぜこの俺が?家系的にも白髪系で、ハゲ系じゃないのに)
またまた、にわかには信じがたい単語に、耳を疑うほかありません。

美「根本さんはハゲではないですけど、1本1本の毛根の活性を高めることで
  白髪の予防になるんです」

正直、この段階ではまだ、美容師さんのおっしゃること「珍説?」について
全く頭の中での整理がついておらず、会話を思い出すだけで精一杯でした。

(毛根の活性・・・)このとき、ふと思い当ることがありました。

この間、自分で白髪を狙って抜いてみたら、中には、先端は白なのに
毛根側の途中から黒に復活している髪の毛がけっこうありました。
非常に複雑かつ残念な心境でした。

 この人たちを抜かなければ、また黒髪が復活してたはずなのに。
 もしかしたら、そういうことかもしれない。

 美容師のAさん(仮名)にはかれこれ6年お世話になっている。
 長く見てもらっているし、この「珍説」も率直な意見だろう。
 うん、5万までだったら、Aさんに賭けてみるか。

美容師のAさんは、説明パンフを取り出して、解説を始めます。
まるで、説明資料を取り出して患者様に歯周病の解説をする私にそっくり。

美「これは、有効成分として、えふじーえふせぶん(FGF-7)というも・・」
根「あぁFGFですね、分かります。一応医療系なので」
美「そうだ、根本さんお医者さんだったんだ、どうも失礼しました」
根「いえいえ」

(俺も結構ヤなこと言うよね。そういう意味ではダメな『歯』医者です)

根「うん、分かりました。Aさんが良いって言うんだから、買いますよ」
根「で、いくらくらいですか?10万くらいwww」
美「いやいやそんなには。6千円くらいです」
根「分かりました。OKです。じゃあ、使い方を教えてください」

案外簡単な使用法でした。また私のようなショートなら数ヶ月もつだろうとのこと。
コスパも問題なし。

ということで、その日はその子(アデノバイタル)をつれてお持ち帰りすることになりました。
そして懐の広い私は、後でアマゾンや価格.comは見なかったことにしてあげました。

自宅に帰って、スタイリッシュな彎曲のボトルを手にとってしげしげと眺めながら
いろいろ考えました。

 今日はいろいろな珍説が飛び出して、とてもびっくりしたけど
 何でこの子を連れてきたんだろう。
 まあ、白髪について質問したからいろいろ勉強になったわけだが

 ひとつには、美容師のAさんを信頼して、というのもあったけど
 もうひとつ、その場しのぎでなく長い目で髪の毛を強化していこう
 と思ったからだ。

たしかに、将来、自分の髪の毛の色が緑色になってしまったのでは、元も子もありません。
緑なら、まだまだ白の方がましかも。

 黒>>アッシュ>>白>>(越えられない壁)>>緑

しかし、こういう話は、お店の相性なども、結構重要だと思います。
仮に他の飛び込みの店などだったら、同じように白髪について質問して同じような説明や答えが返ってきたとしても、買うとかはなかったでしょう。

「正論だけでは、人は動かない」

そのとき、思いました。自分で「動いて」おいて難ですが。

◆ 何が人を動かすか

私もよく経験しますが、初めて接する正論は、まず十中八九「珍説」に聞こえます。
そして、大なり小なり混乱を引き起こすものです。
そりゃあ、「頭がまりも」と言われれば、誰だって混乱すると思いますが。

先入観の壁は、なかなか厚いものです。

(白髪染めトリートメントを使用し続けても自分に限っては緑色にならないでほしい)
(えっ育毛剤?えふじーえふ?怪しいニセ薬じゃないの?そうだ怪しいにちがいない)
何としても、科学的根拠に反した願望にすがりつきたくなるものです。

このような、根拠が無いのに自分に都合の良い願望のようなものを、一般に
「ドミナントストーリー」と呼ぶそうです。

それが良いとか悪いとかではありませんが、人の意思決定や行動選択は
客観的事実や科学的合理性よりも、このドミナントストーリーによって
主に決定されることが知られています。
また、人はある程度複雑な物事の概念を理解するのには、このような
物語形式のストーリーに仕立てて理解する必要があることも分かっています。
そして、自力でドミナントストーリーを修正していくことは、通常
認知不協和の観点からも、非常に困難であることも知られています。

ですから、ドミナントストーリーの内容が、万一誤っている場合には
混乱や矛盾を感じながらも、正しくない決定に進んでいくことになります。

◆ ドミナントストーリーが動いた

今回は、白髪染めトリートメントという、事後対処的なものから、
おすすめの育毛剤という、事前対処的なものに選択の方向が変わりました。
(ただ、効果の確率は100%ではないとは思いますが)

これは、歯科で、事後的対処である治療中心主義から、事前的対処である予防中心主義に選択の方向が変わる過程にきわめて似ています。
(ただ、効果の確率は100%ではないとは思いますが)

また、入れ歯を修理に見えた方やブリッジを覚悟してお見えの方が
インプラントを選択される過程も、かなりコレに近い感じがします。

まず、正論を聞いても、その人には十中八九「珍説」に聞こえてしまうことが、
自分の経験を通じてよくわかりました。

以下、あくまでも正論が提示された上で、という前提のもとで考えますが、

◇ 適切な説明
◇ 信頼と実績
◇ 適切な価格

という段階を踏んで、人ははじめて行動の変容に踏み切るような気がしました。

◇ 適切な説明

アデノバイタルには、お客さま用にお渡しする小さなリーフレットがあります。
これにはFGFとか細かいことは書いてありません。
情報提供には、あまり資さないと考えられます。

それ以外に、現場でお客様にご説明するための、A43枚分くらいの厚紙の媒体があります。
大きな毛根の解剖学的な断面図や、科学的・分子生物学的な有効成分の詳細な説明などの必要十分な情報が書いてあります。

これを美容師さんが紙芝居みたいに裏返したりめくったり指差ししたりして
一生懸命にミニプレゼンする
わけです。

これが、
 誠実に
 過不足なく
できると、次のステップに行きます。

◇ 信頼と実績

美「髪の毛が緑色になってしまった方から、最近2件もご相談をお受けしたんです」

これは、かなり説得力があります。
まさか担当のAさんがウソをつくとは思いませんので、やはりコレを聞くと
(最近は白髪染めトリートメントが結構問題になってるんだなぁ)
と自然に思います。

美「一旦緑色になってしまうと、じつは簡単に黒に戻らないんですよ」
根「あれっ、補色を乗せて染めたりしたら何とかならないんですか?」
美「それが、補色がうまく乗らないんですよ。すぐ戻るというか」

客の質問にも実際のケースを例に、的確に回答しています。
(経験も豊富そうだ。よくあることなんだな。この方面に明るい担当者だな)

美「(根本の聞いた記憶では)まずブリーチしてアッシュ系にして、それから
  黒を乗せて戻す、て、結局そんな複雑な感じになるんですよね」

具体的なトラブル時のリカバリー方法が(やや煩雑な手順ながら)説明されます。
(仮に万一ということがあっても、この担当者ならリカバリーも安心だ)

ここで、お客様ごとの個別に発生する疑問も解消されています。

信頼と実績もクリアして、ようやく価格に行きます。

◇ 適切な価格

ここで、ご覧の方は驚くかもしれませんが、ここまできてまだ
価格の話が出てきていない
のです。


 逆説的な話をしますが、ある説明に
乗り気でないときは、とにかく最初に
 内容についての説明がなされないうちに
 「それはいくらですか?」
 と『相手に値段を言わせてしまう』
のがよいと思います。
 どんなに相手が値段から話をそらそうと思っても、まず値段ですw

 そうすると、内容の無いものに価格をつけるということになり、イコール
 つねに「個人的な想定よりも高額」というギミックが成立可能になります。

 後は、後付の説明で何を言われても
 「なるほど、そういういい点もあるんだね」
 「でも、何分高めだね。そこまで出す価値観は、ないなぁ。すみません」
 で、セールストークをかわせます。

 相手(=内容)に、こちら(=価格)に追いつかせる形で、
 後追いの説明をさせる形になるので、立場的には買い手有利です。
 結論にはつねに「でも、何分高()」のカードがあるのです・・・

じつは、今回はわざと、Aさんに価格のことは聞かないでおきました。
ある程度導入に前向きな検討も視野に入れていたからです。
それに、最初に値段を言わせたら、Aさんも説明しにくいだろうからです。
(それはまさに、私が日常経験していることでもあるからです。)

また、内容よりもまず価格が気になってしまうと言うことは、
問題の手早い解決には関心があっても、問題の原因や周辺事情について関心が薄い、
とも言えると思います。

◆ いくらまでなら支出できるか

そこで、付加価値に対して個人としてどのくらいの価格までなら支出できそうか?

大きな課題です。もちろん個人個人の好みや経済状況によってもちがいます。
そこで、付加価値に対する適切な価格についてちょっと真面目に考えてみます。

やはり、お金持ちの方も貧しい方もいます。
こんな時こそ「合計」で考えるのがフェアです。ここでは国民所得系の数字です。

ところで、現在はデフレなので、実質(現物)ベースだと名目(金額)ベースよりも
大きな値になってしまいます。
そこで、一番公平な数字として、当座は名目GDPを考えます。
(フローで考えるのでGDPです。ストックならバランスシートです)

Wikipediaのデータをそのままエクセルに入れてみました。



 青が「名目GDP」(金額ベース)
 ピンクが「実質GDP」(現物ベース)
 オレンジが「GDPデフレーター」(青÷緑≒消費者物価指数)
 緑が「GDPデフレーター対前年増加率」(今年のオレンジ÷去年のオレンジ)

名目GDP、ざっくり言って500[兆]円です。
現在は、GDPデフレーター(≒消費者物価指数)や名目GDPで見ると
25年前の1987年(昭和62年)程度の経済状況に等しいことが分かります。

 また、表(グラフをクリック:PDF)の方を見ると、日本が経済成長するたびに
 アメリカの横槍wwwwwwで円高になり、成長が鈍っていることも分かります。

国民所得は金額ベースでは名目GDPに比例すると考えられます。
しかし何と言っても現在は長期のデフレ
今年1000円でボールペンが5本買えるなら、来年なら6本買えます。
だから、誰だって、我慢して来年多く買おうと思って貯金してしまいます。

名目GDP=①消費+②投資+③政府支出+④純輸出

なのですが

 ① 金融資産のある世代~社会保障の将来不安から消費抑制
 ①’金融資産のない若者~所得や雇用が十分ないので消費不可能
 ② 企業~将来の景気不安から債務返済、人件費抑制、内部留保

 ④ 輸出~「リーマンショック」「ユーロ危機」で、買ってくれる国が消失

 ・・・あれ、③政府支出 は?wwwwww

こんな世の中なので、なかなか財布の紐もしまりがちです。
しかし、豊かな方も貧しい方も等しく大体同じ額なものがあります。

食費 と 医療費 です。

医療費については以前とりあげましたので、今回は食費で考えてみます。
そして、定期的な出費として、歯科の定期健診を考えてみます。
(公共料金ですと、世帯ごとの単位になってくるので、割愛します)

◇ 食費

国民の平均的な食費については、1人あたり月2万強、年間25万円程度と言われています(総務省統計局2010)。
名目GDPの20 [億] 分の1です。
(GDP500[兆]の数字の500を25で割って、単位を[兆]⇒[万](億分の1)に変換)

◇ 定期健診

歯科は医科と異なり、選択支出、つまりぜいたく品の傾向があるといわれていますが、定期健診ならほぼ一定です。
これを半年に1回3千円とします。年間6千円、(当然1人あたり)月500円

これは食費のほぼ40分の1なので、名目GDPの800 [億] 分の1です。

月500円。歯科の定期健診程度の出費なら、失業者や生活保護受給者など特殊な事例でなければ、痛いとか痒いとか感じる額ではないと思います。

以上のような結果です。
名目GDP、ざっくり言って500[兆]円です。

こうみると、食費と同額のものを定期的に出費するのは厳しいけど
歯科定期健診と同額のものなら問題ない。その間ということになります。

名目GDPで見ると、100[億]分の1(=年間5万)500[億]分の1(=年間1万)程度
おおむね許容範囲かと思います。

アデノバイタルは1本6000円程度でした。年間4本として2万5千円程度
名目GDPの200[億]分の1という形になります。

△ (おまけ)インプラント

1本何十万。3~4本で100万円クラス。
「何でそんなに高額なものを!」「そういう話は他のお金持ちにww」
や、ちょっと待ってください。まずは計算してみましょう。
モデルケースとして、58歳女性(平均余命30年)とします。

常識的に考えて、せめて30年は持つとします。

100万÷30年=年間3万 名目GDPの167[億]分の1

意外や意外、『100[億]分の1(年間5万)~500[億]分の1(年間1万)』の十分枠内です。
食費(年間25万)と比べても、4年で同額になりますね。
32年持ったら(まぁ、32年くらい当然持たせるつもりですが)食費の8分の1です!

短期的にはたしかに大きな出費ですが、長期的な目で見ると十分『投資』価値があり、かつ十分射程距離内の話なのではないでしょうか。

◆ まとめ

このように、人が心を動かし、行動に移るには、正論提示の他にさまざまなステップを踏む必要があることが分かりました。

そして、長期的・俯瞰的な視点の有効活用もおろそかにできません。

少なくとも、私のような仕事をする者も、正論をガナリ立ててばかりでは、患者様は混乱するばかりで、結果として地域に良い結果をもたらすことから遠ざかってしまいます。
基本といえば基本なんでしょうが、患者様と根気良くしっかり接していくことの重要性が、改めて問われることを示唆する一件になりました。

また、今回、名目GDPにも少し着目してみましたが、『単位』の有効活用もなかなか利用価値がありそうです。

ニュース記事で「兆」「億」と聞いただけで「ああ、他人事だ」と食わず嫌いしてしまうのは、大変もったいないことです。
『単位』に負けてしまうと、「報道しない自由を謳歌する者達」の印象操作に騙され放題です。

 国のことは『兆』で(割って)見る
 自治体・大企業は『億』で(割って)見る

これだけでも、『単位』に負けず、『単位』を活用して、自分の身の回りの状況の妥当性についてもおおむね合理的な分析が可能になります。

そして最後にひとこと言わせてください。

このような付加価値への長期的投資をもっとも阻害するものこそ、

『 デ フ レ 』

にほかならないのです。
1000円で今年のボールペン5本より来年の6本
これでは誰でも長い目の価値観に対する長期的投資が抑制されてしまいます。

一日も早いデフレ脱却が、有意義な人生のためにも、予防歯科にとっても、重要なのです。

【今回のまとめ】

長い目の価値観の実現には「正論」意外に重要な点が多い&次の中心食まで歯を守りたい。

2012/05/22 06:56 | nemoto | No Comments