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たまには好きな音楽の話しでも。
ぼくごときがマイルスのことを語るのは、ほんとにほんとに、100年早いとは思いつつ…。
さて。
一番好きなトランペッターは誰ですか? と訊ねられたら、ぼくは迷わず「マイルス」と答えます。
ちなみに、トランペットが上手い人になればなるほど、もっとも好きなトランペッターは誰かと訊かれて、「マイルス」と答える人は少ないと思われます。
マイルスがすごいのは言わずもがなで、それをいの一番に挙げてしまうことはちょっと恥ずかしい、という風潮があるように感じています。トランペット吹きの中では。
とにかく誰の目から見てもマイルスは、トランペッターとして、ジャズマンとして、音楽家として、人間として別格です。
例えばこんな話しもあります(急に、ローカルな話しになるのですが…)。
大学のジャズ研に所属しているころ、同級生のトランペッターが、マイルスのソロをコピーしていました。
それを見た(聴いた)先輩は即座に言いました。
「お前はバカか。マイルスをコピーしてどうする。マイルスはマイルスで、マイルスがやるからマイルスなんだ。お前がやっても意味ないだろ」
ジャズ研生にとってコピーは基本です。先輩には常に、もっといろんなフレーズをコピーしてこい、と口を酸っぱくして言われます。しかし、マイルスをコピーすることだけは、ナンセンスなんですね。
この理由をちょっと深追いしますと。
マイルスのフレーズには、難易度の高いフレーズももちろんたくさんありますが、難易度よりも歌心に妙がある場合が多く(こう言ってしまうと薄っぺらいんですが…)、技術的なお手本的ではない場合も多いんです。
さてさて。
ぼくがマイルスをもっとも好きな理由は、『常に新しいことをやっていた』というところがまず第一。
第二には、『じーさんになってもカッコ良かった』から。
子供みたいな理由でお恥ずかしいです。
しかし、この2つの理由には、マイルスのすごさがすべて含まれていると思っています。
なので、ぼくは晩年のマイルスがもっとも好きです。
どの時代のマイルスも好きですよ。もちろん。
しかし、晩年以前のマイルスの音楽は、すべてマイルス自身が決別してきた音楽です。同じ事はもうやらなくていい、と考えられた過去の音楽です。
なので、最後のほうのマイルスがもっとも好きなんです。
何かあったら聴いてしまうアルバムは『You’re Under Arrest』(1985年)。
マイルスが亡くなったのは、このアルバムが発表された約6年後。それまでの間にも、4枚のアルバム(ライブ盤を除いて)が発表されていますが、このアルバムには、その後マイルスがライブで演奏し続けた「ヒューマン・ネイチャー」と「タイム・アフター・タイム」が収録されているからです。
この2曲は、前者がマイケル・ジャクソン、後者がシンディ・ローパーのヒットチューンです。
この2曲でのマイルスのラッパは特に、ほんと、ぼくの心に染みちゃいます…。
すごくベタベタな、何のひねりも何の発見もない、当たり前なマイルス論でした…。
そんなこんなで今日もぼくは、ラッパを吹いて暮らしています。