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こんにちは、根本齒科室の根本です。
先日、ちょっとキャンセルが出て空き時間ができたので、
裏口のところで佐貫の街並みを眺めていました。
足を引きずりながら歩く一人の老婆を除いて誰もいない
0.2マイクロシーベルト/hの遊歩道を眺めつつ
ふと、思いました。
(もう、開業して6年か。あっという間だなぁ)
なぜそんな風に思ったかというと、細かなところは別として
当時からほぼ街並みに変化が見られなかったことに気がついたからです。
あの頃、新しそうな建物(開業当時の当院も含めて)は、
今でもやっぱり新しそうな感じです。
いくつか新しく建った商業施設もありますが、全体として見ると
つぶれた店の方が多かったような気がします。
そんなことを思いながら、いつしか頭の中は開業前後の日々を
トレースしていました。
◆ ニーズとメッセージ
ここは多くの方に伝わりにくい部分です。
多くの方が当歯科室に求めているイメージと、私共が皆様に伝えたいイメージは
多くの場合、かなりちがいます。
これは一般的な、たとえばラーメン屋とか喫茶店、服屋、宿泊施設のような、
「顧客ニーズと施設のメッセージがほぼ一致している」業態と大きく異なる点です。
当歯科室としては、まずは患者様に、「歯に対する健康意識」を高めてもらわないと、
何をやっても砂上の楼閣である、ということをしっかり伝えなければいけません。
目指すポイントは、「歯の保存」「機能の維持」です。
しかし、来院される方は、そんな話しを聞きたいと思っているわけではありません。
「痛くなく」「さっさと」終わらせて欲しい、というのがせいぜいです。
目指すポイントは「除痛」「形態の回復」です。
こう見ると、それぞれの立場で、時間軸の観点が全く異なるのが分かります。
ここは、ずっと「おかしいな」と思い、悩み続けてきたところです。
「痛い」と「悪い」の相関が、ほとんどないのが歯科です。
「痛くない」から「安心」と思っているうちに歯がダメになってしまうのです。
私もさんざんいやな目を見てきました。
顧客ニーズに当初ないものをメッセージとして伝えていく。
なかなか厄介な使命です。
当時は、そのためには”高級感”だ(美容院etcの真似がよい)と思っていました。
その後、予防に対する考えが根本的に変わり、震災で大きな気付きがあり、
現在に至っています。
顧客ニーズに当初ないものを伝えていく件については、今でも悩んでいます。
◆ 立地
6年前にここで開業する前は、墨田区の本所4丁目というところに住んでいました。
三ツ目通りと春日通の交差点、高砂部屋から、至近距離にあるところです。
下町風情が漂う街並みながら、道路は碁盤の目のようにきっちりと垂直です。
そういえば、本所4丁目と佐貫1丁目は、どことなく似ています。
錦糸町・浅草という密集地帯のはざまのエアポケットのような本所4丁目
四方を野原や水田に囲まれた孤立した集落の佐貫(馴柴地区)
建物の感じが似ているのです。
碁盤の目の様に区切られた道路
お相撲さんのいるコンビニ
1本入ると鉄骨の2階建てが多い建物
違うのは、本所4丁目には徹底的に駐車場がないところです。
佐貫1丁目は徹底的に駐車場だらけです。何とかして欲しいです。
本所4丁目の、私の住むマンションのテナントにも、歯科医院が入っていました。
この界隈は(「も」?)、よさそうなところには必ず歯科医院が立っています。
「あっ、いい所に空きテナントを発見!」
隣には必ず歯科医院が立っているのです。残念。
最近は「歯科医師過剰問題()」で、いい立地には必ずといっていいほど
歯科医院が入っているものです。
皆様も、いちどデベロッパーの目で周りの街並みを眺めてみてください。
で、(あ、ここイイ)と思った辻辻を軽く見回してみてください。
「また歯医者じゃん」「まただよ」「まry」ウケます。本当に持ってかれます。
一般の方は全くそのようなイメージは無いと思いますが、どの歯科医師も
商圏とか立地とか、道路付け、人の流れ、昼間・夜間人口とか、
かなり敏感に見ています。
少々の技術差など、患者様には分かりません。
よほどのヤブでない限り、立地ひとつで軽くひっくり返せます。
(これ、言い切っていいのかなあ・・・)
いわゆる、うまいだけのラーメン屋では繁盛しないのと同じです。
その頃は、本所から北柏に電車通勤していたので、その区間のテナントは
自分なりに注意して見ていたつもりでした。
おいしい場所は、どこも歯医者がすぐそばに入ってしまっていますね。
今や、立地に綿密に気を配らなければ、経営が立ち行かなくなるところまで
来てしまいました。
しかし、OECDの中では、歯科医院の数の比率は平均的なはずなのに。。。
うむ。何かおかしい。
◆ 診療圏人口
そんなこんなで、さらに常磐線を北上して、我孫子~取手、と見ていきました。
やっぱり、もうどこも入ってしまっていますね。
卒業後、ずっと都市部や住宅地の駅前の歯科医院で勤務することが多く
自分の開業についても、そのようなイメージを持っていました。
そうすると、土浦よりも向こうには行きにくい感じです。
その頃はまだつくばエクスプレスも開業したばかり、沿線も何もありません。
歯科医院の診療圏は、おおむね半径500メートルから1キロ程度に落ち着くのが
一般的です。
(日本全国、飛行機で来る患者様もいる、と豪語する医院もたまにありますが)
20世紀後半ごろは、全国で4~5万軒の歯科医院がありました。
このくらいの間隔で歯科医院があると、平均的に1軒当たりの人口が
3000人になります。
この時代から、一歯科医院あたり人口は最低2000人以上、というのが
“常識”的な基準と考えられていました。
そこから急に医院の数が増えて、現在の歯科医院の数は7万件超。
一歯科医院あたり人口は1700~1800人程度と、4割程度も
落ち込んでしまいました。
都心部では、1000人程度のところも少なくありません。
その間に、橋本行財政改革(本人1割⇒2割)、小泉構造改革(2割⇒3割)と
徹底的な緊縮財政が行われてしまい、それでなくても「選択支出」性の
高い歯科医院からは、ますます足が遠のいてしまいました。
そんなこともあるので、まずは周辺集落の動態が大事です。
「2000人以上住んでるか」
「強そうな歯医者が何件あるか」
足で歩き回って調べるのも大事ですし、後で自治体のホームページ等で
地区別人口と周囲の歯科医院を調べるのも大事です。
私の場合は、ちょっと理由があって、常磐線沿線で検討していました。
水戸までの「フレッシュひたち」が停まる駅の周りは大体見たのですが
駅の周りが整備されていても、周辺に住宅地が見当たらないところは
厳しそうです(代表例:勝田駅、友部駅)
土浦までは電車の本数も多いので、土浦から、一駅づつ南下していって
駅のまわりをいろいろ見ていきました。
変な物件もありました。広すぎて困る奴もありました。
で、佐貫駅に降り立ち、偶然、現在地を発見するに至ります。
見るからにコンビに跡地である物件の「テナント募集」の看板の番号に
あわてて電話してみました。
「失礼ですが、お客様の事業内容は、どちらになりますでしょうか?」
一応歯科医院です、といったら、やっと声の表情が和らぎました。
この近隣は学習塾が多く、水商売系と学習塾は困ると思っていたようです。
◆ 資金調達
もちろん開業には結構お金がかかります。
一般に土地からだと1.5億、家付きだと2億くらいが目安です。
そんなぜいたくは私にはできませんから、必然的にテナントになります。
家賃としては、郊外なので坪1万円~を目途に見ていきます。
ユニットは4台は置きたい、あとできれば個室診療にしたいというのもあり
坪数は30坪以上は欲しいところです。
まあ、なかなかそんな都合のいい物件もないので、困るわけですが。
そこで、まあ少なくとも5~6千万は見ておかないといけません。
しかし当然ですが、貧乏勤務医の私に、そんなお金があるわけもありません。
そこで、親族に泣きついて、借りることを前提に融資を検討せざるを得ません。
根本家では、私の祖父(故人)と叔父(故人)が2代に渡って、北茨城の大津町で
歯科医院を開業していました。しかし廃院して10年余、町はどんどん寂れ
歯科医院は逆に何件も増加する有様。
今は叔母がひとりで住んでいます。
そこで、常磐線の沿線で、という条件で親族借り入れができることになりました。
残りは融資になります。
しかしこの時代、銀行がそんなにホイホイ貸すわけがありません。
時代は2005年、小泉内閣終了間際と見るや、日銀がそれまでの金融緩和政策を
引き締めにかかり、また一段とデフレに向かっていた時代です。
最初に相談に行った大津支店では、けんもほろろに追い返されました。
どの業種でもそうでしょうが、新規の資金調達は、非常に厳しいものがあります。
何とか国金で、残りを融通してもらうことができました。
しかし、それでも少し(いや、だいぶ)足りません。
リースで1000万近く使ったでしょうか。
運転資金も、半年では心もとないので、1年近くは見ておかなければいけません。
日常生活では、そんな大きな金を使うことなどありません。
家賃も数万円、食費も1000円いくかどうか、服もその辺のユ=ク□や●印とかで
済ませてしまいます。
それが、いきなり500万~1000万円単位のお金が目の前を行き来したり、実際に
何百万もの札束を持って銀行に入金に行ったり、まさに”非日常”の世界です。
実際に手に持った350万の札束は、相当重かったです。
◆ 内外装
「顧客ニーズに当初ないものをメッセージとして伝えていく」
この課題は、けっこうきついです。
その頃はとにかく、(自分の歯は価値があるものだ)と思っていただけるには、
歯科医院の高級感を出せばいいだろう(いや、思って欲しい)くらいの考えしか
頭に浮かんでいませんでした。
ちょうど内装を考えているときに、トリノ五輪で、荒川静香が金メダルを
取りました。
そのときのユニフォームの色が、水色と青だったので、すぐに医院の色を
青に決めてしまいました。
歯科医院は、薄いグリーンか、薄いピンクのテーマカラーが無難で、最近は
オレンジ系のところもポツポツ出てきています。
真っ青、というのは、冷たく感じられてよろしくないようです。
(でも何か言われたら「荒川静香の真似をした」と言えばいいだろう)
院内でこだわりたかったのは、個室化(予防用の個室も)と土足です。
当時は、それが大きな差別化につながると思っていました。
とくに、予防コーナーは、タカラベルモントから「プロフィラックス」
という歯科衛生士専用のチェアが売り出されていて人気でした(今もです)。
ガラス天板が素敵なコイツをぜひウチにも、と考えました。
設計と施工は、伊勢喜屋工務店様にお願いしました。
ちなみに、うちのテナントの大家が伊勢喜屋不動産(自社物件)様で、
ご兄弟で経営しておいでです。
ついでに、佐貫駅前の「竜ヶ崎プラザホテル」もご兄弟が経営しておられ、
地元では「伊勢喜屋三兄弟」で有名です。
・・・いや、そのご兄弟のお母様である「会長」様のほうが有名です。
女の細腕で3人の息子を育てながら、ゼロから不動産業を興し、
この辺で事業をされている方で「会長」と聞いて違う方を想像される方は
いらっしゃらないくらいの、それはすごいお方です。
私共が入居できたのも、その会長さんに気に入っていただけたのが
大きな理由です。
工務店の設計担当者の方とは、何度も何度も打ち合わせをしました。
歯科医院は結構手がけておいでとのことでしたが、それでも個室と聞いて、
かなり驚いておいでのようでした。
結局、通路の左手が治療個室、右手が予防個室になりました。
予防個室側はチェアユニットのガラス天板のイメージを延長して、ガラス扉の
入口です。
非常に素敵な仕上がりにしていただきました。
ゴージャスというよりも、シンプル&スタイリッシュ、でしょうか。
ただ、配管はもっと低くできれば(これはどこの歯医者も言う)文句なし
なのですが。
もう一点、これもどの歯医者も言うことなのですが、簡単に言うと、
なるべく多くチェアユニットを押し込みたい願望が基本的にあります。
とうぜんですが、サービス業の店舗収益は
イスの台数×回転率×平均客単価
なので、少々手狭でも、とりあえずイスの数が多いほうが有利なのです。
しかも、自分がていねいな治療をして頭数が回らない場合でも、
代診や衛生士で頭数を回していくことができます。
しかし施工業者は引渡し後の使い勝手のことなどもあるので、なるべくスペースにゆとりを持たせようとします。
とくにウチは個室だったので、あまり強引なこともできず、結局は思ったよりも2台分、配管が少なくなってしまいました。
トイレは「高級感を出すなら、トイレで思い切り遊んでみましょう」というご提案をいただき、自宅の本棚の隅にあった「月刊 商店建築(廃刊)」のトイレ特集を持ち込んで「コレやってください」みたいな感じでした。
さすがに、向かい合わせのマジックミラーは工□すぎると、却下になりましたが。
治療側は、バタバタすることも含めて、中央通路以外に窓際に従業員専用の細い通路を設け、「動線分離」にしてみました。超零細のクセにw
この写真は、その窓側の細い通路の工事中の写真です。
この通路の左側が診療室(個室)になっており、その左奥に中央通路があります。
この通路の突き当りが小さな倉庫で、突き当りの右が受付コーナーになります。
また、この通路は、 我近著 お子様が好んで走り回られる通路でもあります。
(‘A`)
◆ 診察券”とか”
歯科医院を始めるには、診察券とか問診票などが必要です。
これらは、出来合いのものもありますが、いまひとつスタイリッシュではなく
この芋っぽさは何とかならないものかと思っていました。
とくに、袋文字の太丸ゴシックが、媚びているようで気に入りません。
芋っぽいと歯を安く思われる。そうすると定期健診に来てもらえない。
歯を大事に思ってもらうには、診察券とかもスタイリッシュにしないと!
ほとんどネタに見えるかもしれませんが、当時はガチでそう信じていました。
いろいろ自分の中にも、「こんな感じがいい」などという案があるわけです。
(それが他人の目にもいいかは別として)
そこで、それを具現化できるソフトということで、
イラストレーター(CS2)を思い切って購入しました。いや~、高かったw
看板、チラシ、名札、診察券、診察券シール、などなど。
全部自分でデザインしました。
このときにベジェ曲線の基本的な使い方を強制的に学習するハメになりました。
イラストレーターは大活躍で、今の院内新聞も、ホームページのデザインも
ほとんどコレ1本です。
もう一点、欠かせないのが、ダイナフォントです。費用対効果は最高です。
安っぽいという人もいますが、昔から「華康ゴシックW3」が気に入っていて、
その周辺の文字をいろいろ使えればと思っていました。
以上、歯科医院の開業について、当事者の立場から駄文をしたためてみました。
今回は、
◆ ニーズとメッセージ
◆ 立地
◆ 診療圏人口
◆ 資金調達
◆ 内外装
◆ 診察券”とか”
の面について、ガーッと駆け足で徒然草してみました。
予防や健診で歯の質が上がり、健康に寄与するとそこまでは分かっていたのですが、
当時を思い起こすと、そのためには高級感とスタイリッシュさが大事だと思っていました。
それが不要だとは言いません。もちろん非常に重要な要素です。
しかし、それ以上に重要な要素もあります。
まだまだ続きがありますので、もうしばらくのんびり書いていきます。
【今回のまとめ】
開業時は、ニーズと異なるメッセージを伝えるには高級感が重要だと思っていた。