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最近、僕には秘密がある。
大人に言わせれば大した秘密ではないかもしれない。僕だって他人がそんなことを秘密にしていると思わせぶりな顔で打ち明けられたらなんだそんなことかって思うかもしれないし、別に秘密にするほどのことではないって感じるのかもしれない。
でも僕にとって、いまのところ、この秘密は「そんなこと」なんかじゃない。
大事で大事で、宝物を入れるカンカンにしまっておくことが出来たらどんなにいいだろう、って毎日毎日考えている。
僕の秘密は隣の家のペロのことである。
ペロは夜になると家の中にひっこんでしまうけど、昼間はよく縁側で日向ぼっこしていて、気が向くと僕らにも身体を触らせてくれたりする。ペロ、と呼ぶと小さな声で返事もくれる。そして、こちらにとことこやってきて、そのきれいな桃色の舌で僕の手を舐めてくれる。傷を消すように、すこしざらついたその舌は僕にやさしい。
僕は学校でいじめられている。
といっても、ニュースで見るような残虐な暴力は振るわれたこともないし、カツアゲされたこともない。単に無視されているだけだ。この状態をいじめと呼ぶのかどうなのか、いまいちピンとこないのだけど、でも朝から夕方まで誰にも話しかけられず、返事もされないというのはやっぱり寂しいと思う。小学生にもなって寂しいだなんて赤ちゃんみたいなことはいえないし、言ってもどうしようもないことだから僕は空気みたいに教室のなかをふわふわ漂っている。
大人たちだってクラスの奴らと同じようなものだ。
手のかからない子、と僕は小さなころから言われてきたし、いまだってそうだ。お父さんもお母さんも忙しい。いい子でいることはイコール親孝行だし、そういう僕をお父さんたちは好きなんだってこともちゃんとよくわかってる。
でもペロは、違うんだ。
僕が寂しい時、ペロはちゃんとわかるみたいに僕の傍に来てくれる。餌をあげることもできない僕の傍で、きれいな舌でなめてくれる。賢そうな瞳をうるうる潤ませて、僕の傷をいやすみたいに黙って傍にいてくれる。
そしてペロが傍にいると、僕は黙っていることが出来なくて、少しずつおしゃべりをする。学校で出された宿題のこと、最近ハマっているゲームのこと、漫画の話、どうでもいいことだけど誰も聞いてくれないことをペロは黙って聞いてくれる。
たしかに、聞いてくれる。
時折ワンって返事をして、ちゃんと聞いてますよって顔をして。
たぶんペロは僕の言葉が分かるんだと思う。僕だけじゃなくて誰の言葉でも、ちゃんと分かっているんだろうと思う。でもそんなことを大人は信じないし、第一話したことがない。そして話すつもりもない。
だからこれは僕の秘密。
僕とペロの、二人の秘密だ。
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*今回の画像は「Photolibrary」さまからお借りしました。