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2011/10/02

今回は、能「求塚」のお話です。

「女」って何!?と考えさせられる作品です。

複数の男性から同時に愛されるのは、現在では「モテ」る女として認識されるだけですが、仏教的にはそうはいきません。なんと、それは罪となり、死後、地獄にいってしまうのです。

 まずは「求塚」のあらすじを↓記します。

 春浅い摂津国・生田の里。旅僧(ワキ)は若菜摘みの乙女達(ツレ)と出会います。残った女(前シテ)が求塚に案内し、「昔小竹田男(ささだおとこ)・血沼丈夫(ちぬまのますらお)の二人の男の求婚に悩み、生田川に身を投げた莬名日処女(うないおとめ)の塚である」と語り、塚のなかへ消えます。夜、回向する僧の前に塚のなかから処女の霊(後シテ)が現れ、地獄の化鳥から自身の目や脳髄を突かれる苦患を物語ります。

 本曲は『万葉集』や『大和物語』に描かれた生田川伝説を仕立て直した作品です。

現在、大曲として比較的重い扱われかたをされている曲なのですが、金剛流・観世流・金春流では昭和以降に復曲されました。

爽やかな早春の菜摘ノ段から、暗黒の地獄の描写が仕方話で語られる後場へと鮮やかに転換されるのが見どころです。

前場で、菜摘女(前シテ)は莬名日処女の化身ですが、彼女の悲劇を他人事として語ります。しかし、三人称で語られていた内容が、突如「その時わらは思ふやう」と一人称で語り始め、処女と一体化するのです。この瞬間、早春の菜摘という爽やかな風景から、地獄の描写へと場面転換されます。

二人の男から愛されただけなのに、地獄に堕ち、永劫の苦しみを味わう理不尽さ。

これは『万葉集』にも本作品の原型はありますが、女が地獄に堕ちるのは中世特有の激烈な因果応報の世界です。

 後場では、苛烈な地獄の描写が語られます。これはまた次回に。

2011/10/02 11:00 | rakko | No Comments