« | Home | »

2011/08/16

「究極の幸せ」 DAY1

台本も仕上がりオーディションもほぼ終わり、配役もだいぶ進んだ。

イカレテいる・・・3月11日から4月9日までに映画クランクインの準備をしているんだから。周囲は自粛ムードだったし、状況は深刻だった。

この約1カ月で一番大変だったこと・・ それは「はじめる」ことだった。
みんなが「何かをやめる」という流れにあった時期だと思う。

そのなかで何かを創めるのは相当エネルギーがいることだった。だからテレビでボランティアの人が 被災地にいったり、ミュージシャンが曲を書いたり、そういうことが本当にすごいこと  なんだと感じることができた。

一番大変だった「はじめる」こととは具体的に言うと僕の場合、制作チームの再建、立て直しだ。震災、原発を背景に多くのスタッフがプロジェクトから離れて行った。その中で再び人を集める。
これも不思議なもので、今までお世話なった友人などはほとんど今回の映画に参加していない。ほぼ全員が初めて顔を合わせるメンツ。その中で一人一人の能力を判断することは難しい、でも与えられた環境でできる限りやるしかない。当時の僕はそんな心境だった。
当初クランクインは4月18日を予定していた。主人公3人のうちの一人、しがないモデルの亜津子。亜津子はエステと買い物で日々の不安やストレスを解消しているかわいそうなモデルだ。自分の求めるものすら見えていない。亜津子のエステシーンが当初のクランクインのシーンになるはずだった。
そのころ僕は心の中で色んな不安というか、本能的に「なにかがいけない・・」と感じてはいた。亜津子の本当の姿を誰も知らなかったし、僕もまだ見たことがなかった。亜津子は表面で飾った女かもしれない。薄っぺらい女かもしれない。しかし人間だ。
それを知りたかった。亜津子も自分の内面は何なのか本当は知りたがっていたはずだ。そんなもやもやを抱えたままでいた時に照明監督が「桜がそろそろだね」と。
助監督も「いいですね」と。
「じゃ撮ろうか?」
「でも誰のシーン?」
「いや、台本にないんだけど・・」
「でも亜津子だよね」
助監督があわてて亜津子に電話する。
「急きょだけどクランクインを早める。亜津子のシーン」
「え?」
衣装部もあわてる・
「亜津子の衣装準備しなきゃいけない」
「ですよね」
そして時間との戦いをあえてはじめた僕ら。
「桜が散る前に・・・!」

4月9日朝4時ごろ新宿のバーで日の出をまつ。
酒を飲む。
「撮影前にいいのかな?」
「クリストファードイルじゃないんだから」
※酒好きで有名なオーストラリア人カメラマン。ウォンカーワイ監督作品など手掛ける
「まぁまぁ」

亜津子が現れる。たしかマネージャーの車で急きょ新宿へ。
「おはようございます」
亜津子は疲れている。一晩中働いたまま現場に来た。無駄のない表情や身振り手振り。
「いける・・」
亜津子は疲れすぎていて表面を飾ることができないんだ、と僕は感じた。そしてみんながそれを待っていた。正直みんなそれが不安だった。亜津子がもってる内面ってなんなんだろうか?

時間は麻酔のようだとおもう。知らない間に立っている。計画をたててその通りに進まないといつか何もしなくなってしまう。桜というタイムリミットが僕らを後押ししてくれた。
創めることは難しい、乗っかればあとはスピードが加速するのに任せればいい。
なにをもって「はじめる」なのか?
こうして映画の物語はひとりでに動き始めた。

2011/08/16 09:37 | hayamizu | No Comments